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帰って来た俺様

真咲と優ちゃんを確保した。

残るは8人……

一体、どんな世界へ転生してしまったのか。

★第81話目


「あぅ~ん……」

クラクラとする頭を押さえながら、俺は意識を覚醒させる。

五体に感じる感覚からして、どうやら椅子に腰掛けている様だが……


「いよっ、若いの。長旅ご苦労さん」


「え?ク・ホリン……さん」

日に焼けた素肌に直に白衣と言う、体育会系科学者の見本のような残念兄さんが、ガハハハと暑く笑いながら、俺の肩をバスバスと叩く。

何だかいきなりガッカリだ。


「こ、ここは……」

辺りを見渡すと、水晶がフワリフワリと宙に浮かんでいる、例の次元転送とやらを行なう小部屋だった。

「……そっか。もう、戻って来ちまったんだな」


「そうですよぅ神代さん♪まだ寝惚けているんですかぁ?」

青い髪からネコ耳をパタつかせ、バステトが可笑しそうに笑う。

相変わらず、一部特定マニアには大受けの容姿だ。

……

言っておくが、俺は違うからねッ!!


「皆さんも無事に帰って来てますよぅ」


皆さん……そ、そうだった!?

俺は慌てて室内を見渡すと、二人の女の子と猫が一匹、床に横たわっていた。

黒兵衛は頭を振りながら

「ンぁ゛~……なんや気持ち悪いわ」

疲れた声で呟いた。

真咲姐さん達は、どうやら気を失っているらしい。


「次元転送は、召喚や自己転移とも違う、ちょいと特殊な技術だからねぇ。どうしても馬車酔いのような症状が出てしまうのだよ」

苦笑しながらク・ホリン。


「そ、そーゆーモンですか」

でも俺は平気だぞ?

どうしてだろう?

やはり……最強のガイだからか?

「ってまぁ、それはどーでも良いんだけど……」

俺はゆっくりと立ち上がり、冷たい床の上に横たわる真咲達に近付いた。

「って、あれ?あれれ?姿が……元に戻ってる?」

彼女達はチェイムとホリーホックの姿ではなく、俺の良く知っている、真咲と優ちゃんに戻っていた。

スースーと、静かな寝息を立てている。

なんだかちょっぴり肩透かしな気分だ。


「ふ……彼女達は元より、あの世界の住人ではなかった故な。そなたと同じ次元に戻った今、転生した姿は不要なだけじゃ」

何時しか部屋に入って来ていた魔神グライアイが、腰に手を当て優雅に微笑んだ。

「しかし……そこな者。真咲、と言うたかの……本当にリステインに似ているの。ちと驚きじゃわえ」


「そうなんだよぅ。俺もさ、時の流れが前後するけど、最初にリステインを見た時、真咲さんにそっくりだと思ったもん。ま、今考えると、真咲しゃんがリステインに似ているって事なんだがねぇ」

あの時の思い出……狭間の地とやらでの出会いが、今でも鮮明に思い起こせる。


「ふむ……取り敢えず、彼女達の為に部屋を用意した。そこで休ませるが良かろう。生身の人間には、ちと次元転送は酷だったようじゃからのぅ」


「俺は何故か平気なんだけどなぁ」


「ふ……そなたは通常の人間の部類に入るとは思わぬわえ」


「ま、出来る男だからね、僕チンは。ところでグライアイ、一つ聞きたい事があるんだけど……」


「ん、何じゃ人の子よ?」


「その……あの世界が今、どうなっているのか教えて欲しいにゃあ」


「ほぅ……妙な事を聞くものじゃな」

グライアイはさも不思議そうに俺を見つめた。

「既にあの世界は、本来あるべき時の流れに沿って動いておる。お主やそこな女達の事は、もはや夢でさえ誰も思い出せぬと言うのに……」


「俺様はこう見えても意外にウェットな男なんだよ。確かに別世界の出来事だから、関係は無いけど……無関心ではいられないのさ」


「ふむ……ま、良かろう。後で調べておこう」



部屋のベッドの上で、黒兵衛と共にゴロリンゴロリンと意味も無く転がっていると、コンコンと短いノックの後、軽くウェーブの掛った黄金の髪を持つルサールカさんが入って来た。


「あ……これはどうも……お久し振りです」

俺はベッドから起き上がり、片手を上げてご挨拶。


「あ、あの……お帰りなさいませ、神代様」

彼女はニコッと、お日さまのような笑みを溢した。


実にまぁ、相も変わらず綺麗で可愛いにゃあ……

もっとも、腕が4本あるのがちといただけないが。

「それで……何か御用でしょうか?」


「あ、グライアイ様がこれを……」

そう言って彼女は、何やら束ねたレポート用紙のような物を手渡してきた。

「何でも、次元0328世界に関する報告書と受け賜わりましたが」


「次元0328……って、あの世界の事か!?」

俺はその用紙を、微かに震えながら受け取った。

ここに、あの世界の本来の歴史が書かれている……

俺や真咲姐さん達がいない世界が、どんな道を歩んでいるのか……興味津々だ。


「あの……神代様?」

手にした報告書をジッと眺めている俺に、ルサールカさんがおずおずと声を掛けた。


「……え?あ、はい……何でしょうか?」


「い、いえ。その……探している女の子達が無事に見つかって、良かったですね」


「え?あ、あぁ……良かったですよ。うん。ただ……今後の事を考えると、ちと頭が痛いんですがねぇ」


「……?」


「あ、いや……何でもないです。へ、平気ですよ、僕は。あははははは……」


「そ、そうですか?でも、少しお顔の色が……」


「き、気のせいっすよ。な、黒兵衛?」


「あん?まぁ……少し刺されるぐらいやろな」

眠たい目を微かに開け、馬鹿猫はおっそろしい事を言ってくれる。

「なんせ、エッチな事までしてもうたんやからなぁ」


そうなのだ……

俺はあの世界で、チェイムこと真咲姐さんと結ばれてしまった。

その事が他の女の子にバレたら……

や、それよりも深刻なのは、あの時俺は……チェイム=真咲と言う事を知らなかったと言うことだ。

つまりは……ま、そう言うことだ。

どんな言い訳も並べても、確実に浮気者とレッテルを貼り付けられてブン殴られる事は……

いや、黒兵衛の言うとおり、本当に刺されるかも知れん。

やりかねないクマ女とかいるしな。



「ぬぅ…」

一言で言って、「ぬぅ」だった(謎

グライアイに頼んでいたあの世界についてのレポートを読んだが……

「ぬ、ぬぅ…」

頭が混乱しそうだ。


あのファンタジィな世界の本来の歴史とやらは、俺の予想を遥かに凌駕していた。

って言うか、俺が演じていた主人公ヒーローに当る人物は、何とヴィンスになっていた。

誠に持って恐ろしいキャスティングである。

俺様がプロデューサーだったなら、絶対に許さない所だ。


「むぅぅ……こりゃ一体、何がどーなっているんだ?」


「どないしたんや、洸一?」

ベッドの上で転がっていた黒兵衛が、ヒョイと俺の肩の上に乗っかり、眺めていた報告書を覗き込んだ。

「どないしたもこないしたも、なんちゅうか……なぁ?」


「……?」


「まぁ、簡単に言うとだな……」


桐弥真咲は17歳の時、自分がパインフィールド王家の血を引く、最後の人間と言う事を知る。

それまで父だとばかり思っていた桐弥重蔵は、実はパインフィルードの元宰相だったのだ。

彼女は王家復興を願い、各地に散らばっているかつての家臣達を集め、巨大な帝国に反籏を翻した。

だが、圧倒的軍事力を誇る帝国軍に、アッサリと負けてしまう。

彼女達は這う這うの体で南へ落ち延びた。

そこで帝国に虐げられていたゴブリン族に助けられ、彼らと共に反帝国軍を再結成し、旧王都奪回作戦を発動する。

がしかし、またもやアッサリと負けてしまう。

私ではダメなのかしらん、と悩む真咲ちゃん。

そこに登場したのが、武者修業で各地を回っていた、天下無双を目指すヴィンスだった。

彼は詭計で持ってついに王都を奪還し、パインフィールドの旗を掲げた。

怒り狂う帝国は、何度も攻め寄せて来るが、その度に彼はこれを撃退する。

その時、敵の捕虜として捕らえたのが、魔導師シャーディだった。

彼女はヴィンスに一目惚れし、パインフィールドに加わる決意をした。

しかしながら真咲ちゃんとの間に、お約束通りの三角関係が勃発。

困り果てたヴィンスは、何を思ったのか、二人と同時に結婚すると言い出した。

唖然とする家臣達。

だがしかし、真咲ちゃんとシャーディは何故か納得し、こうしてヴィンスがパインフィールド王を名乗る事になった。

そして押し寄せる帝国軍をバオア山の戦いで完膚なきまでに叩きのめし、遂には和平を勝ち取ったのだった。


「と、まぁこんな歴史なんだけど……黒兵衛、どう思う?この糞シナリオ……現代なら炎上間違い無しですぞ」


「どうよ、って言われたかて……ま、エエんやないか?あの世界の姉ちゃん達も幸せそうやし……」


「ど、どこがエエねんッ!?あの男が英雄?はぁぁぁ?まさに汚れた英雄なんだぞッ!!」


「あんなぁ…」

黒兵衛は何だか思いっきりな溜息を吐いた。

「ほれ、この報告書に書かれているヴィンスっちゅうのは……なんや、ワテ等の知ってるあの男とはえらい違うやないか。思うに、ワテ等と言う闖入者が、あの男を悪に仕立て上げたんやないか?本来あるべき歴史では、ナイスガイな設定やったんや」


「んな馬鹿な。アイツは絵に書いたような悪だったんだぞ。俺達が居ようが居まいが、根っからの悪に違いない。三つ子の魂百までも、と言うではないか」


「使い方間違ってるで」


「う、うるさいッ!!俺は断じて認めんぞぅぅぅ……こんな世界、お父さんは許しませんッ!!」


「何を興奮してるんやか……」

フンッと鼻で笑う黒兵衛。

それと同時に扉が短くノックされ、グライアイが顔を覗かせた。


「お、おおぅ……グライアイ!!。丁度良い所へ来た。一つ、頼み事があるんじゃが……」

俺はベッドから飛び降り、彼女の元へ駆け寄った。


「ん?何じゃ人の子よ?」


「いやなに、簡単な事さ。俺様をもう一度、あの世界へ連れて行ってくれぃ」


「……は?」

グライアイは目を瞬かせ、マジマジと俺を見つめた。

「そなた……頭が病んでおるのかえ?」


「何を仰る!?俺はいつだって本気なんだぜ?何故なら本気は俺様のミドルネームだからだ!!」


「何を言ってるのか分からぬが……そのような事は出来ぬ相談じゃ」

彼女はサッと長い漆黒の髪を掻き上げ、優雅な微笑を溢した。

なんちゅうか、ちょっぴり小憎らしいぞ。


「なんでだよぅ。ちょっとだけでも連れて行ってくれよぅ」

仕方が無いので、取り敢えず駄々をこねてみる。


「ダメじゃ」

取りつく島もなかった。

「既にあの世界は、定められた本来の歴史に沿って動き出しておる。今もし、新たに次元介入を行なえば、新たな因果により歴史は再び混沌の渦に巻き込まれるだけじゃ」


「え~……そんなぁ……洸一、いと悲しの巻だよぅ」


「……そなた、やはりどこか病んでおるのか?」

グライアイは心底呆れた様な溜息を吐いた。


「ぐぬぬぬぬ……」


「それより、そなたが連れてきたリステイン達の生まれ変わりじゃが……」

と、彼女が言いかけた時、突然隣の部屋から

「ンキャーーーッ!!」

壁を突き破らんばかりの悲鳴が響いてきた。


――真咲しゃんッ!?

俺は慌てて、グライアイの脇をすり抜け、廊下へ飛び出した。



「俺だ!!神代、本気〈ミドルネーム〉洸一だ!!入るぞ!!良いかッ!!」

廊下に飛び出した俺は、そう叫ぶや、隣の部屋の扉をブチ破り、突入した。

そしてそんな俺の目に飛びこんできたのは……

「……何してんの?」

何が何だか分からない映像だった。


真咲と優ちゃん、四本腕のルサールカさんと猫耳のバステトが、奇声を発しながらベッドの周りをグルグルと高速で回っている。

ひょっとして、僕の知らない宗教的儀式だろうか?

「あ゛~……何だか分からんけど、そんなに回ってると、バターになっちまうぞ」

取り敢えず俺は、頭を掻きながら注意を促がしてみた。


「――こ、洸一ッ!?」

「――神代先輩ッ!?」


「な、何だよ……」


「おおお…お化けがいるんだッ!!」

真咲と優ちゃんは、そんなヤバ気な事を叫びながら、俺の胸に飛び込んできた。

ひょっとして僕チンの知らない所で、揮発性の冷たいモンでもキメているのだろうか?

「め、目が覚めたら……目の前に化け物が……」


「ハァ?化け物?そんなモン、どこに居るんだ?」

俺はキョロキョロと室内を見渡す。

バステトもルサールカさんも同じように辺りを見渡し、『誰も居ないじゃん』と言うようなジェスチャーをした。

やれやれ……大方、寝惚けて死んだおじいちゃんの幻覚でも見たのだろう。

「はっはっは……誰もいないじゃないか。もしかして怖い夢でも見たんじゃないか?」

俺は優しく微笑み、彼女達の肩をポンポンと軽く叩いた。


「そ、そうかなぁ」

眉を八の字にし、不安そうな顔で俺を見つめる真咲。

そしてもう一度室内を見渡し

「ウキャーーーッ!!」

モンキーになった。

「いいい、居るじゃないかッ!!お化けがそこに居るじゃないかーーーッ!!」


「へ?ど、どこにだ?」


「ベッドの所だッ!!」

彼女はそう叫んで、俺の胸に顔を押し当てながらブルブルと震えた。


うぅ~む、何やよう分からんけど……真咲しゃんも意外に可愛い所があるじゃないか……

これがもし、のどかさんだったら、お化けと聞いた瞬間、嬉々として素っ飛んで行くだろうに。

しかしベッドの所って……

「あ、あの~……ルサールカさん。その辺に、幽霊とかお化けとか……居ますか?」


「いいえ神代様」

彼女は困った顔で首を横に振った。

バステトも

「なーんにも、居ないじゃん」

と、頬を膨らませてそう言う。


「そ、そうか。ほら、真咲に優ちゃん。彼女達も居ないって言ってるし……やっぱ気のせいだよ」

それとも、まさか……次元転移の後遺症的な何かを発症しているとか?

それだったら、グライアイに相談しないとな。


「か、彼女達って……」


「っと、そう言えば紹介がまだだったな」

俺はポリポリと頭を掻きながら、

「え~と、こちらがルサールカさんで、こっちがバステトだ」

ニコッと微笑む四本腕の警護役と猫娘を紹介した。


「はじめまして、二荒真咲さんに葉室優貴さん」

とルサールカさんは丁寧にお辞儀し、

「エヘヘ……人間の女の子って、見るのは初めてなんだよ」

バステトは興味深気な視線を送る。

それに対して真咲と優ちゃんは

「ば……化け物ーーーッ!?」

思いっきり無礼千万だった。


「ば…化け物……・」

ルサールカさんの笑顔がピシピシッと音を立てて氷ついた。

バステトも髪の毛を逆立て

「しょ、初対面の魔族に向かって化け物なんて……失ッ礼しちゃうわッ!!」

プンスカと怒る。


うむ。確かに今のは真咲と優ちゃんが悪い。

「お、おいおい。真咲達を介抱してくれていた女の子達に、ちょいと失礼じゃないか」


「だだだ、だってだって……どー見ても人間じゃないモンッ!!」

真咲はもう、何だか半狂乱だ。

「って言うか……ここはどこなんだッ!?」


「ふへ?どこって……魔界村……かな?」

しかも多分『超』なのだ。


「ま、魔界って……」


「何をそんなに驚いた顔をしているんだ?あの世界で何度も説明したじゃないか、魂が転生したとか色々と……それに、何で魔族を見て驚く訳だ?向うの世界じゃ、ゴブリンやオークなんかと、毎日顔を合わせてたじゃないか。な、そうだろ優ちゃん?」


「わ、分かりましたッ!!」

優ちゃんは突然、叫んだ。

「きっとこれは夢なんですッ!!」


「……はい?」


「そうに違いないんですッ!!私は……悪い夢を見てるんだ。は、早く目覚めないと……早く……」


こ、壊れた……

「も、もしもし?優ちゃん、これは夢でもなければ誰かの創り出した虚構でもないで御座るよ?現実なんですよ?」


「ウキーーーッ!!嘘ですッ!!あ、貴方も……神代先輩じゃありませんッ!!」


じゃあ俺は誰なんだ?

「うぅ~む、どうしたもんやら……」

取り敢えず俺は、頭を掻いて途方に暮れてみた。

すると、

「詳しい事は、妾がゆっくりと、順を追って話しておこう」

何時からそこに居たのか、扉の前で立っているグライアイが、微笑みながらそう口を開いた。


「な、なんだよぅ。見ていたのなら、早く出て来てくれよぅ」


「ふふ……つい面白くてなぁ」

彼女にしては珍しく、コロコロと笑う。

と、その姿を見て、真咲さんの顔が一瞬、強張った。

「あ……ぐ……グライアイ……か?」


「ほぅ……妾の魔力に、魂が微かに反応したかえ。久しいな、リステイン。一瞥以来じゃな」


「え…あ……誰?私は……真咲……」


「やはり一瞬だけかえ。ま、分割された魂では致し方無しじゃな」

そう言うや、魔神はパチンと指を鳴らした。

その瞬間、真咲と優ちゃんの体が、ゆっくりと床に崩れ落ちる。


「お、おいおい……」

俺は慌てて、彼女達を抱き止めた。


「なに、暫し眠らせただけじゃ。混乱しておるのでな。目が覚めたら、妾がもう一度、ゆっくりと説明してやろうと思うてなぁ」


「へ?」

それって、どう言う意味だ?



「……なぁ。説明って、どーゆー意味だよぅ」

俺は強制的に眠らされている真咲達をベッドに運びながら、それを黙って見つめているグライアイに尋ねた。


「分からぬのかえ?」


「分からんのぅ。サッパリじゃけん」(広島)


「……そうかえ」

軽く頷き、彼女は顎に手を掛け微笑んだ。

バステトもルサールカも、何だか分からないけど、取り敢えず黙って見つめている。

「ふむ……簡単に言うとじゃ、彼女達は、そなたが良く知っている彼女達なのじゃ」


「……はい?」

簡単過ぎて、意味がちーっとも分からんだす。

良く知ってる彼女?真咲は真咲、優ちゃんは優ちゃん以外の何者でもないんだけれども……


「ふふ……つまりじゃ、今の彼女達は、そなたの本来の世界における彼女達と言う事じゃ」


「……な、なるほど」


「理解したのかえ?」


「全く以ってサッパリです」


「……」

グライアイはこれ見よがしに、情け無い溜息を吐いた。

「もう少し、そなたは切れる男だと思うていたが……」


「な、何を仰るッ!?この俺ほど、切れに切れまくっている男はいないぞ。何てたって、二枚刃洸一と自称しているぐらい、キレッキレな男じゃからのぅ」


「……相変わらず、そなたは病んでいるようじゃな」


「……」

な、なんて失礼な魔神なんだろう……

いつかきっと『きゃん』と言わしてやるッ!!


「言うておくが、妾は少しぐらいなら人の心が読めるのだぞえ?」


「……きゃうん」


「全くそなたは……ま、良いわえ。さて、簡単に説明するとじゃ、人の記憶と言うものは、その次元世界における時の流れ、それが構築した歴史によって簡単に塗り変ってしまうものなのじゃ。無論、一度記憶した経験と言うものは永遠に不滅じゃ。だが全ての記憶を甦らせるほど、人と言う存在は、霊的能力に優れておらぬ。つまりはじゃ、人の記憶と言うものは次元世界の歴史が更新される度に……」


「あ、あ゛~……申し訳ないけど、今の真咲達がどうなっているのか、要点だけ掻い摘んで教えてくれれば有り難いんだけど……」


「何じゃ、話はこれからだと言うのに……」


「す、すまねぇ。生憎と俺様内臓のスーパーコンピューター(電脳洸一Ⅲ型)は、文字数が一定量を超えるとシャットダウンしてしまうんだ」

具体的に言うと、長い話を聞くと眠くなるのだ。


「ふむ……困った脳じゃな」


「すまん。文句は製造元に言ってくれぃ」


魔神はもう一度「やれやれ」と言った感じの溜息を吐いた。

「つまりはじゃ、今の彼女達は本来の世界においての記憶、即ち自分達が消える直前までの記憶しか持っていないと言う事じゃ」


「消える直前?と言うことは……俺の世界での夏休みに入る前の記憶……って事か?じゃあ……あのファンタジィな世界の事は?偉大な俺様の冒険譚とかは……」


「通常では絶対に思い出す事のない、記憶の底辺に眠っている筈じゃ。次元を飛び越えると言う事は、つまりはそう言う事なのじゃ」


「……うぅ~む」

そっかぁ……

何やよう分からんけど、パインフィールドの事なんぞ、何も憶えてないのか。

それはそれで悲しいけど……もしかして、ある意味ラッキーかも。

エッチをしたとか、その辺の事を憶えてないなのは、俺の平和を守る為にも良い事なのでは?

しかし……今の真咲達は、一学期の終業式時点での記憶しかないわけなんだよなぁ……

そこからいきなり記憶が飛んで魔界へ来ちまったワケだから、そりゃパニックにもなるわな。

ん?しかし待てよ?

「あ、あのさぁ。次元がどうとか時の流れがどうとか、まだ良く分からんのだが……」


「なんじゃ?」


「その……俺はどうして、全てを覚えていられるんだ?次元世界と記憶が連動しているのなら、今の俺は真咲達と同じように、あのファンタジィな世界のことも憶えていない筈なんだけど……」

パインフィールドの事は、物凄く鮮明に記憶に残ってますぞ。


「……そなたは既に、時の呪縛より解き放たれておるのでな」

グライアイは少しだけ、感心した様に言った。

「そなたは自分が住む次元世界で、本来は思い出す事の無い、リステインやプルーデンスの生まれ変わりである女達の事を独力で思い出したのじゃ。その時から既に、そなたの記憶や経験は、時の流れに干渉されない様になっておるのじゃ」


「な、なるほど。ま、さすがは俺様じゃのぅ」

また一つ、謎のアビリティが増えたと言った所か。


「さ、話は済んだようじゃな。妾はこれより、この者達に分かり易く話をする故……お主達は下がっておるがよい」






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