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亡霊と不死者の時間-Things separating ATHANATOI from ghosts-  作者: すたりむ
第三章:天変地異⇒天変地異!?
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29.亡霊/不死者-ghosts/athanatoi-(中)

 くらり、とめまいがして、わたし、高杉綾子はかろうじて踏みとどまった。


(ああ、やばいやばい。全力出した直後だから足がぐらついてるわ、まだ)

「貴様は……高杉綾子の……!」


 志津がうめくように言ったので、改めてわたしは、彼の方に向き直った。


「なによ志津、眉間にしわ寄せて。この展開、予想できてなかったの?」

「高杉綾子の影を殺せば、べつの影が現れる。そこまでは予想できていた」


 志津はうなりながら、言った。


「だがこんなに早く中華街に来れる道理がない! 中華街の中に二人目を侵入させた形跡はない、中華街の外からでは早すぎる! なにがあってこうなった!」

「中華街の中にいた二人目を見落としてただけでしょ。つーか、あのなんか要塞みたいな見た目の研究所? あそこで志津はわたしを殺したわけだけど、そのすぐ近くに最初からわたしはいたよ?」


 そして、いればあれくらいのことができるのがわたしである。手持ちの護符と魔力をありったけ消費して、特大の神魔咆吼アークスマッシュを上空からたたき込んでやった。

 志津が作ったあの城塞はたしかに堅固だったが、それは志津がいることを前提とした防御システム。それでも内部に入った人間を自動的に殺す仕掛けなんかはたくさんあったが――外から対城塞用砲撃を受けることに対する守りはおろそかだった。わたしが全力で撃てば、一撃で全壊である。

 志津は鋭い目でわたしをにらみつけ、


「そんな見落としがあり得るはずがない。いや、そもそも最初からおかしかった! あの部屋を半分以上渡れるほどの精度の偽物(・・)など用意できるはずがない。私が倒したのは確かに本物だったはずだ! それを――」

「そりゃあそうでしょ」


 わたしは研究室の壁に寄りかかりながら、言った。


「このわたしもあのわたしも本物。偽物なんて概念はないのよ。どうしてどちらかが偽物だなんて思ったの?」

「……貴様は何者だ」

「高杉綾子だよ?」

「戯れ言を……! それは死者の名であって、貴様の名ではないと言ったはずだ!」

「なんでわたしの名前をあなたが判断するの? 前々から思ってたんだけど、それって越権行為よ。他人ごときがわたしに価値観を押しつけるのはやめなさい」

「客観的事実を語ってなにが悪い!」

「おまえこそ! 主観しか見えてない馬鹿がなにを語る!」


 わたしは怒鳴った。


「現実から逃げるな! 目を逸らしてるんじゃない! これが現実だ、わたしたちはまだ生きている! 世界も――まだ、生きている! おまえの勝手な主張で死んだことにしてるんじゃない、志津方山!」

「貴様は何者だ! 高杉綾子とはなんだ!」

「高杉綾子とは――」


 わたしは決然と志津をにらみつけて、その言葉を口にした。


「おまえが言っただろう。それは自己領域という『魔術』の使い手の名だ」

「なにをいまさら……」


 志津の表情が怒りから驚愕へと変わった。

 そして、その顔がだんだんと青ざめていく。


「まさか……そんな馬鹿な」

「わかったでしょう? これが現実よ」

自己領域が(・・・・・)自己領域を作る(・・・・・・・)……!? まさか、それでは貴様は」

「そう。自分を複製できるのよ、わたしは」


 傲岸に、わたしは言った。

 志津が怪しいと言われた日から、わたしは志津に対する切り札たりうる駒を必死で探した。

 個人戦闘力では『セカンド・パーティ』を一人で壊滅させられる程度の力を持ったわたしだが、そんなものが周到に準備された志津の陣地で切り札になるとは思えなかった。

 そこで考えた結果、志津が在りし日に言っていた「自己領域とは魔術である」という言葉を思い出したのである。


『魔術であるというなら、もう一度使えるのでは?』


 その考えは正しかった。もっとも、やっかいな問題もあったが。


「ただし複製したもののうち、ひとつしかアクティブには動かせない。そういう制約はあるけどね」

「……馬鹿な。それでは自分を使い捨てにしたのか、貴様は」

「でないと裏をかけなかったからね」

「常軌を逸している! たとえ複製であろうと、意識としては完全に独立しているはずだ! 知識の受け渡し程度なら近くにいればできるだろうが、それでは毎回本当に死んでいるようなものだろう! 複製があるからいまの自分は死んでもいい、なんていうのは狂気の沙汰だ!」

「そう? まあ、そうかな。わたしもできれば死にたくないけど」


 わたしは言って、


「だから、なるべく古い方が残るようにはしてるけどね。ランドマークで関帝に殺されたのは「新しい方」のわたし。あの施設で志津に殺されたのも「新しい方」のわたし。彼女たちが活動している間、わたし自身は昏倒してただけ。彼女たちが意識を失ったり殺されたりしたら、わたしは起き上がって活動を再開する」

「そんな――そんなものが、高杉綾子を名乗るなど――」

「そも、高杉綾子とはもはや、死人の名前ではない」


 わたしは断言した。


「それは『現象』の名よ。『自己増殖する自己領域』――その在り方そのものにわたしがつけた名前が、高杉綾子。だから何度でも言うけど、わたしは高杉綾子。人間でも生命でもない、高杉綾子という現象(・・・・・・・・・)だ」

「……気持ちが悪い」


 志津は吐き捨てた。


「そんなものが生者の顔をして闊歩する。実に気持ち悪い! 貴様は死ぬべき存在だ、高杉綾子!」

「ほーら、やっと本音が出た。出会った最初からそう思っていたくせに、研究目的とか言って我慢して、そんなに手柄を自分のものにしたかったの?」


 からかい気味にわたしが言うと、志津はいまいましげに吐き捨てた。


「どちらにしろ、大義は貴様にはない。退場するべきは貴様だ」

「だからさ、現実を見ろって言ってるでしょ。横浜が死んだ? このしぶとく生き残っている世界が死んだって? あんたがそれを決めるの? なんで?」

「その代償の話もしたはずだ。……忘れているのか?」

「ああ、今回は近くにいたから死ぬ直前までの記憶、回収できたわよ。だから説明は覚えてる。関帝が強大化して、野放しにしてたら東京圏が滅びる、だっけ?」

「そうだ。止めるためにはこれしかない。なぜそれがわからない!」

「わからないわよ。だってなんで――関帝を説得しないの(・・・・・・・・・)?」


 言葉に、志津はなにを言われたかわからない、という顔をした。


「……馬鹿げたことを。神を説得などできるものか!」

「できないことにしないと都合が悪いだけでしょ。いや、その顔からすると、もしかして本当に気づいてなかったわけ?」


 わたしはあきれたように言った。


「だとしたら志津、そのへんがあんたの限界よね。なまじ『死んだ』ことに気がつける知性を持つせいで、『生きてる』という解釈を見つけられない。だからしょせん、あんたは天才ではあっても、大天才にはなれないのよ」

「なぜ関帝が説得に応じると言える。答えろ!」

「え、だって言葉通じる相手でしょ? なら説得もできるでしょ」

「な――」


 絶句した志津に、わたしはため息をついた。


「なーんでこんな簡単な話を思いつかないかなあ。志津、やっぱあんた名誉欲に目がくらんでたんじゃないの? そんなになりたかった? 東京圏を救った伝説の魔法使いに」

「貴様に……貴様になにがわかる……」

「わかるわよ、そりゃあ。わたしもしょせん、大天才じゃないからね。けどまあ」


 わたしはぺろりと、舌を出した。


「今回はわたしの勝ち。わたしがあんたを見下しているより、あんたがわたしを見下している方がひどかった。それがあんたの敗因よ、志津方山」

「……なにを言っている」


 志津は、怨念めいた執念を宿した目で、わたしを見た。

 同時に。



 なんの前触れもなく。

 鉄でできた巨大な杭のようなものがどこからともなく現れて、わたしの身体を貫いた。



「がっ、はっ……!?」

「中央施設を潰された。それは痛いことではあるがね」


 志津は傲然と言った。


「ただそれだけだ。研究室は残っている。ここさえ残っていれば中華街を掌握する力は使える。多少前より見劣りするが、貴様一人始末する程度なら簡単だ」

「し、づ、あんた……」

「貴様は不快だ。死ね」


 ぐしゃあ! とわたしの身体は破裂した。



 そうして、わたしは死んだ。

 だが、高杉綾子は死なない。

 それは現象の名だ。高杉綾子を名乗る人間は死ぬが、それは『高杉綾子現象』の終焉を意味しない。

 だから――これも織り込み済み。



「終わりだ。高杉綾子は死んだ。早々に降伏すれば命だけは助けてやる」

「ぬ……ぬう……」


 志津の言葉に松山がうなる。

 状況は決した。高杉綾子は死んだ。相手は高杉を瞬殺する悪鬼。もはや逆転の見込みはない。

 ……そう志津が考えていたとすれば、なんと滑稽なことか。


「状況開始だ。斉射!」

「……っ!?」


 完全な不意打ちだったが、それでも志津はなんとか防いだ。

 後ろから降り注いだ魔術弾丸を、空間を歪曲するような不思議な魔術で弾き散らす。


「な……裏切ったか、田中大五郎!」

「松山、手を貸せ! 志津を足止めしろ、いま高杉の本体は研究室(・・・・・・・・・)だ! 彼女が決定打を得るまで時間稼ぎするんだ!」

「う、うむ!」

「貴様……!」


 志津は舌打ちし、手をかざして、さらに舌打ちした。


「くそ、「桃源郷の桃」を切ったか! だがなぜだ田中、貴様が僕をどうして裏切る!」

「悠長な中年だなオイ。無駄話で時間を稼いでくれてるぞ」


 田中の横に立った佐伯が、不敵に微笑む。


「各自、防御は小辻に任せろ。こいつは第七軍でも折り紙付きの防御のエキスパートだ。こういう時間稼ぎには向いている」

「島田さん! 研究室のドア、もう結界がないよ! ちゃっちゃと道具持ってきて!」


 藤宮の声に我に返った島田が、研究室へとあわてて入っていく。


「待て……待たんか!」

「おっと、ここは我輩の出番であるな! ここを通りたくばこのマスカレード仮面を倒してから行くことだ! わーっはっはっは、ってあぶなっ!?」


 どしゃどしゃどしゃ、と降り注いだ鉄杭の雨をかろうじて回避する松山。

 志津はそれを無視して研究室へと駆け寄り、


「ていっ!」

「ぐはっ……!」


 ――韋駄天の速度で駆け寄った杉山が、全力の剛力で突き飛ばした。

 志津は空中を舞いながら次々と鉄杭を連打するが、小辻が大半を弾き飛ばし、残ったものは田中の防御部隊が防ぎきる。


「おのれ、おのれ、おのれぇぇぇぇぇ!」


 志津は着地すると、己が扱える詠唱の力、そのすべてをこの場にかき集めて魔力を集中させた。


「! ヤバいのが来る! 全員構え!」

「もう遅い! 街区ごと吹き飛べ!」


 志津は激昂した口調で叫び、



 爆音とともに、すさまじい破壊があたりにばらまかれた。

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