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亡霊と不死者の時間-Things separating ATHANATOI from ghosts-  作者: すたりむ
第三章:天変地異⇒天変地異!?
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28.不死者の時間-the time of athanatoi-(前)

「よーし、全員俺のまわりに集合! 全力で突っ走るぜ!」


 大東が言って、それでみんなが彼のまわりに集まった。


「おい高杉、おまえもこいよ。でないと術の効果がないだろうが」

「いや、行くけど、わたしは先頭じゃないとまずいでしょ、作戦的に。だからみんなが集まってから最後に先頭につくわ」


 わたしは言いながら、だいたい集まったみんなの最前列に行き、大東から反対側に向き直った。


「さっき練習したけど、一応確認しておく。効果範囲は?」

「半径十メートルの円周がいいとこだな。そこを下回られると振り落ちちまうから、離れすぎ注意」

「練習した感じだと大丈夫そうだったけど、万が一脱落者がいた場合、小辻くんが最後尾でレスキューする。小辻くん、いい?」

「ばっちりです! 準備、できてます!」

「了解。じゃあ大東、やっちゃって」

「ういうい。そいじゃあ、爆速突撃陣テリトリー・ジェットコースター展開ロールアウト!」


 彼の言葉と共に、周囲に力に満ちた赤い陣地が展開する。


「しっかし……陣地魔術を、いまさら『味方への補助』なんていう古典的な使い方することがあるとはな。人生わかんねーもんだぜ」

「行ける?」

「問題ねえ。全員行くぞ! 命がけで突っ走れ!」


 大東の言葉に、全員がうなずいて。

 そして走り出した。


(あ、これ便利だ)


 すぐ気づく。スピードを無理なく出せる感じがとてもよい。高級車に乗っている気分と、自分の足ですいすい動ける感覚の自然な融合。

 まあ、そんな論評はいまはどうでもよくて。

 警備課の秘匿アジトから、中華街の前まで。スポーツカー並の速度でぐいぐい移動したわたしたちは、あっという間に最後の直線に到達した。

 相手警備員は、わたしたちのことを目にしてぎょっとしたようだった。それでも一応反応はして、


「止まれ! ここは――」


 警告をここまでしゃべった時点でわたしが中華街目前まで到達。


回転尾撃サイクロン・テイル!」


 まず一撃目で中華街の結界を打ちつつ衝撃波でまわりの警官をなぎ倒し、


竜牙烈掌ドラゴン・ファング!」


 さらにたたみかけてダメ押し。結界を破砕した。


「はっはー! マジすげえ、皆川式で王竜の秘術を二連続で起動キャストできる第二世代セカンドが実在したなんてな!」

「無駄話はそこまでだ桂木。来るぞ、敵だ!」


 大東の言葉通り。不気味な赤い光に包まれた人間達が、こちらに一斉に襲いかかってこようとしている。

 すぐに、激戦が始まった。



--------------------



「おいおいマジかよこいつら、あたしが全力でぶん殴ってるのに倒れねえぞ!」


 桂木がぼやく。


「言ってる暇があったら戦え! それとももうバテたか!?」

「は、言ってろ涼真! あたしのかっこいいとこ見せて、うおあ危ねっ!?」


 ざしゅっ、と、相手の剣が彼女の頭をかすめて、数本の髪の毛を宙に舞わせた。


「この――」


 彼女が反撃しようとしたが、その瞬間には敵はきれいに胴体を両断されていた。

 ……俺、谷津田久則の精霊刀によって、である。


「戦闘中はしゃべらない方が効率がいいぞ」

「それじゃつまんねーんだよ。見てろおいコラ次だ次! ぶっとばーす!」


 照れ隠しかヤケか、とにかく彼女は叫びながら次の敵に向かっていった。

 一方、胴体を両断された敵はもがきながら、手で必死で下半身をつなぎ止めている。先ほど持っていた魔力剣も手放していた。

 どうやら死にはしないようだが、これは戦闘不能だろう。


(回復力は第二世代セカンドや俺よりだいぶ下。輪切りにしてしまえばとりあえず無力化できるが……それより武器の威力がやばいな)


 なにしろ志津が作った魔力剣。強いとは思っていたが第二世代セカンドが切られるレベルとは、いやはや。精霊刀ほどではないにせよ、普通に脅威である。

 と、ぱん、と爆ぜる音がして、大東がうめいた。


「ぐっ……! 敵、呪銃も使ってきたぞ! 俺の自己領域の防御を破る威力だ!」

「大東、損傷を詳しく」

「あん? 右腕が半分えぐれただけだよ! こんくらいなら大丈夫――」

「心臓をやられたら一大事だ。俺が当たる」


 言って俺は、相手銃手を探した。いた。隠れるより味方に守らせる方が有効という判断だろう。少し遠くの屋根に、ライフルを持った敵を認める。

 俺はその相手に対して一歩踏み出し……初めて実戦で使う術に内心で喜びながら、


「装備、加速重ね(アクセルチャージャー)


 ぐん、と魔力を持って行かれる感触に耐えつつ、もう一歩踏み出す。加速。もう一歩踏み出す。さらに加速。

 あたりの敵が、突出した俺を切ろうと魔力剣を構えた頃には、俺にかかっている加速はもう五重になっている。

 捉えられるはずがない。俺は一気に距離を詰め、


変異チェンジ!」


 俺は加速二つを跳躍力に変換し、屋根に飛び込んで即座に銃手を両断。

 念のために銃も破壊してから、来た道を戻って大東の後ろに帰ってきた。


「ただいま」

「……おまえすげえな。実は一人で戦えるんじゃね?」

「暗殺は得意なんだ。だが大人数相手だと息切れしてな。

 いまの装備術エクイップメントも十秒くらいしか持たないんだよ。そして切り札を使ったんで、しばらく休まないと戦えない。その間はよろしく頼む」

「そういうことかよ。まあ任せとけ! おまえの活躍を無駄にはしな、って危なっ!?」


 見得を切っていた桂木は相手の剣をかろうじてかわし、罵倒しながら戦いに戻っていった。

 俺は自分の状態をチェックする。


(威力と身体強化に変換して、加速残数四。魔力も大幅減。精霊刀は残せているが、しばらくはああいう無茶はできないな)


 そして思う。やはり高杉が勝負を急いだのは正解だった。

 あの呪銃、威力だけはたいしたものだったが、銃手が近すぎた。本来の軍用ライフルなら400から600メートルは距離を取って、安全に撃てるはずである。

 ということは、たぶん魔術武器化する過程で、威力を保証するために射程を犠牲にしたのだろう。だが、それでも第二世代セカンドの肉をえぐる威力だ。

 あれが量産されていたら勝ち目はなかった。


(まあ、東京圏でライフルを手に入れるルートは、さすがの志津や田中にも確保できなかった、ということなんだろうが)


 俺も伝聞でしか知らないが、どうやら『崩壊』前の東京圏は、銃の所持が法律で禁止されていたらしい。

 厚木に核兵器まで貯蔵しておきながらよくそんな体制が成り立っていたものだ、と思うが、そのおかげで銃は稀少品である。ましてや軍用ライフルとなると、それこそ横須賀や厚木といったかつての自衛隊、あるいは米軍の関係施設でしか手に入らないだろう。

 だが志津に時間を与えていたら、どうなっていたかわからない。

 この敵兵全員がさっきの呪銃を持っていたら、もうどうにもならなかった。それに、訓練した兵士なら一撃で大東の心臓を撃ち抜いたかもしれない。なにもかも、時間を急いだことが功を奏した。

 とはいえ、やはり敵は多い。

 白兵戦主体であることから、敵が集合して押しつぶそうとしてくる可能性もあった。そうであれば逆に好都合で、俺が加速して横を抜いてゲームセットだった。

 なのだが、相手はあえて戦力を散らしてこちらの行動を制御しつつ、少ない人数で組んで攻撃してきていた。これだと相手は数の優位を活かしにくいが、代わりにこちらも簡単には突破できなくなる。

 即席にしてはよいチームワークをしている。加えて、


「涼真、後ろからも来てる! はさみうちだ!」

「っ、ええい、田島! おまえ五人連れて後ろ抑えろ! 時間稼ぎでいい、どうせ突破するまでの辛抱だ!」


 大東が部下に指示を出す。さすがに『セカンド・パーティ』、訓練された傭兵を名乗るだけのことはある。この鉄火場でも一切の乱れなく、アクシデントにも果敢に対処している。


「……が、遅いな」


 俺の心を読んだかのように、隣にいつの間にかいた椎堂課長が言った。


「やはりこの戦力だと足りない。相手に強い対応を取らせる前に、最速最短で関帝廟を襲って封印を破壊する算段だったが、囲まれてしまったとなると苦しくなる」

「まあ、そうでしょうね」

「落ち着いているな、谷津田。なにか考えがあるのか?」

「考えるのはそちらの役目でしょう、課長」


 俺は言って、ため息をついた。


「そもそも、こんな鉄火場になんで課長が来てるんです? あっちの方が安全だったんじゃないですか?」

「馬鹿言え。相手が無策なわけがないだろ。私の考えだとこっちの方がまだ安全だ。戦闘力がない私を狙い撃ちにされる可能性も少ないからな。しかし……」


 椎堂課長は言って、鋭い目で前をにらんだ。


「気づいているだろうな、谷津田よ。敵戦力、まだ切り札を一枚も切ってないぞ」

「ですね」

「なにが来ると思う?」

「正直、予想したから課長はこっちに来てるんだと思ってましたよ」

「なんだ。じゃあ考えは同じか」

「俺相手なら志津は生け捕りを画策するでしょうから。だとすれば、生半可な戦力では無理です」

「だよな。どっから来るかな? 横からか、それとも上からかな?」

「なんで嬉しそうなのかわかりませんが……俺の予想では……」


 言葉を、途中で俺は止めた。


「おい、どうした? 言えよ予想」

「もう予想じゃなくなりましたよ。双眼鏡とか持ってきてます?」

「なんだおまえ、さらっと視力強化かけてるのか。まあいい、私も目はいい方でね。どこ見りゃいい?」

「正面です」

「あ?」


 いぶかしげに課長は前を見て、


「……げ、マジだ。不意打ちしねーのかよ」


 渋い顔をした。

 大東と戦う敵傭兵たちは、散兵のような格好で布陣しつつ突撃を要所要所で阻止しているのだが、その後ろ側から急激に近づいてきている影があった。


「大東、全力防御!」

「あ!? ち、大盾アーク・シールド――」

死の舞踏(ダンス・マカブル)ヤン

「ぐ、ぎゃあああ!?」


 どがああああっ! と大きな音がして、大東たち『セカンド・パーティ』の前方組が全員ぶっ飛んだ。

 彼らも第二世代。その程度の攻撃で死んだりはしないが、その間にぬるりと近づいてきた影が鎌を振り上げ、


死の舞踏(ダンス・マカブル)ヤン

圧壊刃プレス・ブレード!」


 ずぎゃああああ! と耳がおかしくなりそうな音と共に、俺とそいつは、二、三歩たたらを踏んで、それからお互いの得物を構えた。


「――やはりこちらに来たか、風見大助!」

「気が乗らんがな。雇い主の意向だ」


 風見は淡々と言って、そしてその横に、やはり騒乱に紛れて抜けてきた女が立った。

 椎堂恵瑠……いや、芦屋郁枝。


「もう一度確認するが。生かしておくのは谷津田だけでいい。椎堂卿は処分しろ」

「わかっている」


 彼女の冷たい言葉に、椎堂課長は肩をすくめた。


「なんだ。おまえ出てきたのか。出てくる度胸もないと思ってたのに」

「私ならともかく、椎堂英ならば出てきている。ならば私も出てくる。私たちはそういうものだろう、椎堂卿」


 淡々と言った芦屋に、馬鹿にしたように椎堂課長は鼻を鳴らす。

 と、ここで大東がようやく起き上がり、


「加勢する! 谷津田!」

「いらん! 先行け!」

「な……け、けどよ!」

「速度が勝負だと言っただろう! 俺はこいつを片付けてから向かう! 一刻も早く関帝廟にたどり着け!」


 有無を言わさぬ口調で言った俺に、大東たちは少しだけ迷ってから、


「相手は化け物だ! 死ぬなよ!」


 言って、前進を再開した。

 風見はそちらを見もしなかったが、


「ずいぶんと強気だな、谷津田久則」

「そうか? そうでもないだろうよ」


 言葉に、俺は軽く笑って、言った。


「おまえの戦力は割れている。はっきり言うが、いまは俺の方が強い(・・・・・・・・・)。命が惜しければそこをどけ、風見」

「ほう?」


 少しだけ、風見の口の端が上がった。


「言うようになった。今回は「藤宮」の手助けはないぞ?」

「そうだな。……椎堂課長、芦屋について指示は?」

「変に気を回すね、おまえも」


 椎堂課長は、あきれたように鼻を鳴らした。

 それから楽しそうに、


「ほっとけ。どうせ『椎堂計画』なんてバックがないとなにもできない雑魚だ。眼中に入れる必要もない。妨害しようとしたら私が止めるから、おまえはそこの『V3』殿にだけ集中すればいい」

「ほう、情報課長殿は、俺の古いあざなをご存知か」


 風見は愉快そうに笑って、それから鎌を構えた。


「だがあいにくと、いまは違う名を名乗っていてな。不本意ながら名乗らせてもらおう。俺は風見大助。二つ名は『暴風の暴君タイラント・オブ・テンペスト』――暴風の如き暴虐を振るう、川崎の傭兵だ」

「おい谷津田、あいつかっこいいぞ。おまえもなんかないのか、二つ名とか」

「そうですね」


 俺はため息をついて、それから精霊刀を正眼に構えてから、言った。


「ここを生き延びたら、考えてみますよ」



 死闘が始まった。

【魔術紹介】



1)『爆速突撃陣テリトリー・ジェットコースター

難易度:S- 詠唱:簡易詠唱(ショート) 種別:陣地構築

 周囲の味方の移動速度を激増させる魔術。

 陣地魔術としては珍しく、「術者に付随して移動する」性質を持っている。これを使って相手陣地に全速力で全員突撃して勝つ作戦が、アリーナの多人数競技で一時期流行った。が、メタられたことと、そもそも難しい魔術すぎて使いこなせない人間が多かったことから、現在は非主流である。



2)『回転尾撃(サイクロン・テイル)

難易度:A+ 詠唱:簡易詠唱(ショート) 種別:打撃

 竜刺鉄尖(テイル・スパイクス)と似て、竜の尾を生やす魔術なのだが、こちらは振り回して打撃することに特化している。

 繊細な使用を想定していないため、その分威力に特化。まわりの警官が『桃源郷の桃』でなければ木っ端微塵だっただろう。

 この魔術を使ってまわりを攻撃したこと自体が、高杉たちによる『桃源郷の桃』の強度テストの側面があった。



3)『加速重ね(アクセルチャージャー)

難易度:B+ 詠唱:完全詠唱(フルコーラス) 種別:装備

 谷津田久則が新たに作った装備術(エクイップメント)。効果は「時間経過で加速を自分に課す」ことと、「加速を変異してさまざまな身体強化術に変える」こと。

 加速ひとつ分が加速(アクセル)の魔術ひとつ分とほぼ等価。こんな馬鹿みたいな魔術を谷津田以外が使えば、自分が燃え尽きるのが関の山である。

 加えて魔力消費が存外激しく、谷津田にとっても完全にはまだ使いこなせていない技でもある。それでも、切り札たり得るほど強力な技なのは間違いない。

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