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亡霊と不死者の時間-Things separating ATHANATOI from ghosts-  作者: すたりむ
第三章:天変地異⇒天変地異!?
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27.見落とし-overlooked-(後)

 五時も近くなった頃、高杉たちがやってきた。


「みんな集まってる?」

「だいたいは。戦力になる人間は全員こちらにいるはずだ」


 言ったのは、楢崎である。

 高杉は少し考えて、


「片嶋さんはどうするって?」

「自分だけ残ると言っている。怪我人が赴いても役には立てない。この場もおそらく敵に見つかっているし、襲撃された場合の対処は不可能だが、人質に取られた場合は無視するようにってさ」

「……そう。わかった。そうする」


 高杉はうなずいた。

 一見して献身的な態度だが、俺は首を振った。


(……たぶん違うな。この片嶋の決断は、クソ度胸と言うべきものだ)


 片嶋の立場としては、この状況での横浜との戦いを情報課だけの、つまりは非主流派だけの手柄にしたくない。だから戦力を出さなければならないが、一方で自分が死ぬわけにはいかない。

 なぜなら、片嶋が死ぬと、警備課を仕切るのは楢崎になってしまうからだ。そしてこの楢崎は、どこの回し者とも知れないうさんくさい多重スパイである。絶対にろくなことにならない。

 だから片嶋は死ぬわけにはいかない。安全策を採るなら、拠点の警備と称して楢崎だけでも手元に置いて、守りを固めつついざというときには道連れにする手もあるが、


(それすらせずに手札を攻撃に全部回して、敵がここを襲撃する余裕はないという可能性に賭けた。いやはや……)


 本当にクソ度胸。そして同時に、これは片嶋の読みも表している。

 つまりは、そこまでしてリソースを全部攻撃に回さないと勝ち目はないと、彼は判断したのだ。

 ふと顔を上げると、高杉はちょうど、佐伯から説明を受けているところだった。おそらく、俺の話した「桃源郷の桃」の情報について、情報共有をしているのだろう。


「だいたいわかったわ。まあ、そのくらいの戦力はあるでしょうよ」

「おまえから見た勝ち目はどうだ、高杉」

「それはまあ、この戦力が全部使えると仮定すれば計算できるけど、その前に確認することがあるでしょ」

「確認、か」

「ええ。

 さて、みんな、この場にいる全員に聞きたいんだけど」


 高杉はぱんぱん、と手をたたいて言った。


「全員、これから死力を尽くした戦闘になるけど。ぶっちゃけ脱落したい人いる?

 戦いたいか逃げたいか。逃げたいなら理由は問わない。戦いたいなら、なぜ戦いたいか。それを聞いておきたい。不確かな覚悟で首突っ込まれても迷惑なだけだからね。てわけでまずは年長者のケイから」

「私か。いや、私に聞く必要あるか? こんなおいしい機会、この椎堂卿が逃すわけねーだろ。横浜にも『新生の道』にも一方的に私への借りを背負わせるチャンスだ。意地でも参加する」

「そりゃどうも。……佐伯は?」

「そもそも、俺が課長から志津方山の調査をして対策を打てって命令を受けたのは、高杉が倒れて中華街に運ばれた日だ。その命令はいまも生きていると考えているし、だったらこれは職務のうちだよ」

「ずいぶん律儀ね。いいけど。楢崎は?」

「右に同じ。片嶋さんに、警備課の残存兵力を率いて戦えと命令されちまった。つっても例の監獄襲撃で手持ち札はあらかた使い切った。あんまり戦力にはならねーぞ」

「ま、そうでしょうね。で、ここからわりと真剣に聞くけど、チカは?」

「うん。行くよ」

「なんで?」

「まあ、いろいろ理由はあるんだけど……」


 藤宮は真剣な目つきで、


「『セカンド・パーティ』を雇うって決めたのはあたし。そして子供に戦争を任せて、自分だけ安全圏に逃げるってのは、ちょっとね」

「……わかった。納得しとく」


 言って高杉は、今度は横手で手持ち無沙汰そうにしている女に目を向けた。


「じゃあ島田さんは? せっかく命が助かったんだから、逃げてもいいのに」

「おあいにくさま。こっちも雇われの身ですからね。中華街がどうなろうと報告書を書くのはわたし。ならついていって、最前線で見れた方がいいに決まってる」

「そっか。そういう考え方もあるわね」

「言っとくけどこれで貸し借りチャラよ、高杉綾子! 命を助けられた借りは、力を貸すことで返すんだからね!」


 胸を張って言う島田に高杉はほほえみ、それから今度は『セカンド・パーティ』の連中に目を向けた。


「あなたたちは……まあ、聞くまでもないか」

「おうよ。このまま逃げたら、俺たちは横浜で問題だけ起こして逃げ帰った腑抜けって評価になる。川崎ですら食っていくのが難しくなるのがいやだったら、選択肢はねえ」

「それ以前に、『セカンド・パーティ』は信頼できる傭兵集団だっての! ケーヤクした以上は力になるって!」


 どことなく嫌そうに大東が、楽しそうに桂木が言った。


「じゃあ、杉山さんは?」

「逃げてなんになりましょう。わたしは、わたしの過去と対峙しなければいけません」


 杉山は、決然と言った。


「小辻くんは?」

「当然、お供しますっ。僕の命じられた、高杉さんを助けるようにって命令は、まだ終わってませんよっ」


 小辻は当たり前のように意気込んで答えた。

 うん、とうなずいて高杉は、ぐるりと首を向けて――俺を見た。


「最後になるわね。……谷津田くんは?」

「そうだな……」


 俺は少し考えて、


「いろいろ言うべきことを考えていたんだが、その前に疑問がある」

「なに?」

「高杉、おまえはどうなんだ?」


 と、言った。


「みんなにしゃべらせて、おまえだけ言わないってのもよくないだろう。聞かせろよ。おまえだったら俺たちよりはるかに安全に、逃げ延びて見なかったことにできる。いまなら政治的なリスクもないだろう。じゃあ、おまえはなんで戦うんだ?」

「うん、そうねえ」


 高杉は楽しそうに、秘密の計画を打ち明けるように、言った。


「いろいろあるけど……一番は……」

「一番は?」

「志津にムカついてる。あいつの計画を失敗させて、指さして笑いたい」

「……はは」


 俺は笑った。


「結局おまえは、つくづく英雄じゃないな」

「ムカつく?」

「もうその話は終わった。他人に英雄を期待するのは筋違いだし……俺自身も、もう英雄には憧れない」

「そうなの?」

「ああ。だがまあ」


 俺は言った。


「俺は逆だ。志津はわりとどうでもいいが、関帝の方にいらついている」

「へえ。なんで?」

「神を名乗って人々を救いたいとうそぶきながら、結局自分が人々を殺しているあの馬鹿を、ぶん殴ってやりたい」


 拳を固めて、俺は静かに言った。

 高杉はにやりと笑って、


「やっぱ気づいてるか、君は」

「当たり前だろう。そしておまえの言う通りだな。こんな初歩的なことを見落としている(・・・・・・・)志津は、しょせん天才止まりだ。頭の良さに振り回されて、本質が見えてない」

「おい、どういうことだ? なにか追加的な情報があったのか?」

「なにもないわよ。ただ同類であるわたしたちには、それがわかるだけ」


 困惑した様子の佐伯に、高杉はあっさり答えた。


「かつてわたしは、志津に『おまえは高杉綾子ではない』と言われた。谷津田くんも、『おまえは谷津田久則ではない』から話が始まったんじゃない?」

「ああ、そうだ」

「それは志津の頭のいいところで、彼だから気づけたところだけど、気づいたからこそ逆にそれに囚われた。志津はわたしが高杉綾子でないと思い込むあまり、わたしが高杉綾子だと思えなくなった。谷津田くんを谷津田久則でないと喝破したせいで、彼を谷津田久則だと思えなくなった。同じように――」

「――関帝は(・・・)関羽だ(・・・)


 俺は宣言した。

 横浜に、世界に向けて、そう宣言した。


「それを志津はわかっていない。関帝を神だと、異形の生物だと捉えたせいで、あいつが人だということを見落としている。

 いや、おそらく関帝ですら、それを見落としているんだ。だから俺は、それを教えてやりに行く」


 俺は言って、くちびるをかみしめた。


「神なんぞと名乗って思い上がった馬鹿に、目覚めの一撃をくれてやる。俺がしたいことは、それだけだ」

「ふふ」

「なにがおかしい?」

「いやいや、ごめん。ただちょっと思っただけ」


 俺の言葉に、高杉は笑いながら言った。


「下手すれば百万人の無辜の民が死ぬ。そんな状況で、わたしたちは誰も義憤を理由に戦う(・・・・・・・・)と言わなかった。

 それがわたしたちの強みよ。義理人情や、世界のためなんてたいそうな目的じゃなくて――わたしたちは、わたしたちのために戦うの。人情と大義を盾にして意を通そうとしてきた志津にとって、この上もない脅威でしょうよ」

「それはけっこうなことだが、そろそろ本筋に戻ってくれないか?」

「本筋ってなによ、佐伯」

「だからさっきから聞いてるだろ。勝ち目はどのくらいだって。いい加減情報も出尽くした。答えてくれよ」

「ああ、うん。そうね」


 高杉は少し考えて、言った。


「いま仕掛けてる「爆弾」が全部きれいに爆発したら、なんとか五分の勝負くらいには持って行ける……んじゃないかな。たぶんね」



--------------------



 情報交換から作戦の立案まで、おおよそ二十分。そろそろ、夜が本格的に白み始めていた。

 作戦と言っても、シンプルなものだった。相手の情報が少なすぎる以上、こちらがやれることも少ない。

 シンプルだが――意外性がないわけではないこの作戦が、どうなるか。それはまだわからない。


「高杉、ひとつ提案したい」


 その相談の終わり際、俺は言った。


「なに、谷津田くん」

「関帝に知らせていいか?」

「ああ、例の感覚共有の話ね。これから行くぞって?」

「そうだ」

「たぶん志津に知られるけど、それでも?」

「どうせあいつも用意してる。いまさら知られて、リスクがあるわけでもない」

「なるほど。じゃあいいわよ」


 許可が下りたので、俺は目を閉じ、感覚を集中させる。

 俺と深層でつながっている関帝に向けて、声を放つ。


(いまから行く、行っておまえをぶん殴る。

 だから――期待して待っていろ)


 果たして。

 ごごごごごご……という、地鳴りのような音が、少し遅れて中華街の方から響いてきた。

 深刻な破壊音ではない。おそらくは身じろぎした程度だろうが、俺には彼の感情がある程度わかった。


「関帝、なんだって?」

「悲しみの中に、少しだけ怒りと、それから喜びが混じった」


 俺は静かに言った。

 そして息を吐き、


「つまりさほど期待してないということだ。頭に来る」

「そうね。それは頭に来るわ」


 高杉も言って、笑った。


「いいじゃない。こちらを甘く見てる志津と関帝。似合いのコンビに、鉄槌を下してやりましょう。どうせあいつら、そうでもしないと目覚めないでしょう?」



 決戦が、始まる。






---next, the time of athanatoi.

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