26.真相-truth-(後)
そんなわたしにも転機が来た。と言っても、いい転機とはとうてい言えなかったが。
起こったことは単純で、わたしは拉致された。警備が手薄だからという理由で、父の専横に怒る人々から、さらわれたのだ。
当然ながら、ひどい扱いを受けた。わたしが子供であることは、なんの免罪符にもならなかった。そもそも、子供を殺された親なんて、その人達の中には珍しくもなかったのだ。
それでも彼らは当初、どうやら父と人質交渉をしていたらしい。だが、父はわたしを見捨てた。
……いや、見捨てたのではないのだろう。
わたしは「周倉」だった。だとすれば、本気で抵抗すれば、その人たちを皆殺しにできたのだ。
それをしなかったことを、父はわたしの裏切りと思ったのだろう。結果は悲劇的だった。交換の交渉をしていた人質全員が、公開の場で、むごたらしく処刑された。
当然彼らは、わたしを殺そうとした。だが、そこに一人の少年が割って入った。
彼は……風変わりな少年だった。
後で聞いたところによると、彼は父にうらみを持つ人間ではなくて、ただの雇われた魔術研究者だったらしい。
高校生になっているかどうかも怪しい風貌だったが、その実力は本物で、彼が作った魔法の武器はこの集団の主戦力だった。
その彼は、わたしに特にうらみがなかったからだろう。相手が子供を殺したからこちらも子供を殺すというのであれば、そんなのは同列で、恨み言を言う資格はないと吠えた。
当然のように、一緒に殺されかかった彼だったが、殺されなかった。
わたしが助けた。
そのとき初めて、わたしは「周倉」の力を意識的に使った。一日千里を走る赤兎馬に自分の足でついていったという無類の俊足。それを使って、殺されそうになった彼と殺そうとした人の間に割り込んで槍を受けた。
結果として、槍の方が砕け散った。彼の魔法が籠もった武器だったにも関わらず、だ。「周倉」の持つ力は、それほど突出していた。
彼らはそれ以後、わたしを恐れて、殺そうとはしなくなった。目の前に現れることも、罵声を浴びせることもなくなった。
例外は、あの少年だけだった。彼は、復讐を目指す人々にはついていけないが、かといっていまの父のやり方も許容できないとわたしに言った。
わたしは注意深く彼の言動を観察した。もう、関帝の口車に乗った父のように、身を滅ぼす人間を見るのはいやだった。彼の人物としての長所は、人々をまとめ上げるものではなく、その創造的な発想力にあるように、わたしには見えた。
だからわたしは、ここで初めてためらいを捨てて、自分から行動を提案した。
――わたしを連れてこの集団を離れて、そして二人でどうすればいいかを考えよう、と。
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桃源郷の桃だ。わたしを調べ上げてこの異界のからくりを知った彼は、そう言った。
よくわからなかったわたしに、彼はていねいに解説してくれた。そもそも、関帝の逸話の中に桃源郷にまつわるものはない。関帝廟に合祀されていた神格になにか関係するものがあったのかもしれないが、それだけで真の桃源郷を作ることは不可能であると。
だからこの異界にある桃は、ただの桃だった。伝承にある桃源郷の桃のような、不老長生の薬として使えるような神秘を、この桃は有していなかった。
『けれど、人々はここを桃源郷と呼んで、それを信じている。
そして君の父さんの説によれば、信仰は力となる。だから――』
だから、これらの桃とは違う『桃源郷の桃』なる概念を、信仰の力を集めることで使えるようになるかもしれない。彼はそう言った。
最初のうちは失敗ばかりだった。
桃源郷の力を集約しようとして、できたのは人のできそこないのような影。自在に動かせるわけでもなく、ただ人のような動作を定期的に繰り返すだけだった。これはやがて人に見られ、最初は陽炎と呼ばれ、後に『陰楼』の字を当てられるようになった現象だった。
しかし失敗を繰り返すうちに、やがてだんだんと、なにがまずいのかということはわかってきた。
『人でないとダメなんだ……』
最初わたしたちは、『桃源郷の桃』という概念を反転させて、不老長生の相手からそれを奪い取る「武器」を作ろうとしていた。
だが、どうやらそれは難しそうだった。
わたしがまとう「周倉」と同じ。おそらくは関帝が作った世界だからだろう。すべての加護は「人」を経由しないと使えない。
『ならば、俺が「桃源郷の桃」になればいい』
彼は言った。
勝算ができたことで、わたしと彼は計画を新たに練った。その頃には外の情報もある程度伝わってきていて、横浜の外では凄惨な戦いが起こっていることや、横浜も魔力の不安定に苦しめられていることがわかってきた。
『この桃源郷と似たような、安定した空間を広げる。そのために関帝の力を利用する』
彼はそういう計画を立てた。
横浜全体を覆うような、巨大な桃源郷の力を、そのまま横浜に返す。それによって、この桃源郷は消え、横浜のすべてがこの環境を享受できるようにする。
そのために彼が考えたのは、関帝を傷つけ、地面に縫い止めることだ。
『恣意的に力が使えてはいけないんだ』
彼は言った。
それこそが間違いの源だと。父に力を託して善意で力を使ってもらうという関帝の発想は間違っている。そうではなく、関帝の力は「適切な手順を踏めば、誰にでも」使えるものであるべきだったと、彼は言ったのだ。
そのために、関帝の意思はいったん封じる。地面に縫い止め傷つけ、傷を治そうとする力を呪いによって誘導して、横浜の力とするのだと。
計算上、それはうまく行くはずだった。関帝を縫い止めれば桃源郷もあやふやになってやがて消えるだろうが、それには数ヶ月の猶予がある。そのうちに人々をゆっくり外に誘導して、そして畳んでしまえばいい。
だけどわたしたちは、まったく気づいていなかった。
人々の悪意に――わたしたちがつけられていることに。
復讐を志した例のグループは、出奔したわたしたちを放っておかなかった。監視し、利用し、父への復讐へと煮えたぎる憎悪を研ぎ澄ましていたのだ。
だから失敗した。
策を弄して関帝とわたしたちとの二対一の戦いに持ち込み、勝利寸前まで行った彼だったが、そうして関帝の力が弱った隙を突いて、そのグループは父を暗殺。
そして「関平」の力を失った関帝は激怒。暗殺者グループの半数以上をその場で殺した後、残った半数が逃げ散るのを追ってその場からいなくなった。
その後、調べてみたが、関帝の行方を知る者は誰もいなかった。生き残った復讐者たちは数名しかいなかったが、彼らは一様に、「急に関帝が追ってくるのをやめて逃げ出した」と言っていた。
いまならわかるが、関帝はそのとき、力尽きてしまったのだ。元々わたしたちとの戦いで大幅に消耗していたのに加えて、無理な動き方をして死に体だった。だから、力が回復するまでの間、彼はいったん身を潜めることにした。
関帝との戦いで、その身体のパーツがいくつか、地面に散らばっていた。彼は、当座はこれでしのごう、と言った。関帝そのものでなくとも、関帝の一部であれば、魔力を安定させるのに使える、と。
だからわたしたちは、どこに行ったかわからない関帝はいったん放っておいて、桃源郷から外に出て、横浜市と交渉した。そして、ランドマークタワーの地下を実験場として使わせてもらうことにして、関帝の一部を触媒に、横浜を安定させる結界の発動に成功した。
名前は、たしか……桃源領域と言ったか。かっこつけた名前だったが、発表するにはそれなりにかっこつけた方がいい、というのが、横浜側の言い分だった。
父を失ったわたしだが、それでも、それなりにうまく行っているように見えた。
誤算だった。
誤りだった。
わたしたちが見て見ぬふりをしていたいまの関帝。それがなにを企図して潜んでいるか……わたしも、彼も、完全に見失っていたのだ。
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「その結果、なにが起こったの?」
「虐殺です」
杉山さんはわたしの問いかけに、淡々と答えた。
「おそらく、結果だけはご存知ではないですか。中華街に集まった人々が虐殺され、とんでもない数の死人が出たと……そのくらいは開示されているのだろうと、わたしは思っていましたが」
「そうね。その伝説は、嘘じゃなかったわけね。
でもなんで? 関帝は結局、なにを考えていたの?」
「すでにお伝えした通り、桃源領域は、関帝が傷を復元しようとする力を横取りして、横浜を流れる魔力の安定のために使おうとする術です。
それと同じことを関帝はやったんですよ。すでに現存する桃源郷を少しだけ拡張して、桃源領域の消費している「回復させようとする力」を、横からかすめ取るようにした。そうして自分の傷を回復させると、彼は敬愛していた主君の敵討ちに乗り出したのです」
「主君って、あなたの父さん?」
「はい。「関平」を与えながらも……彼は結局、父を本来の主君である「劉備」としてしか捉えられなかったのでしょう。
主君を失った忠臣がどうするかと言えば、敵陣に乗り込んで力尽きるまで戦って仇討ちを果たすことだと、どうもそういうことのようです」
「でも、それなら虐殺にはならないでしょう? あなたの父さんの仇は、数人しか残っていなかったって……」
「そうです。ですが、残っていた。それが問題だったんです」
悲しそうに、杉山さんは言った。
「考えてみれば、最初の段階でわかっていたことだったんです。神である関帝にとって、人の区別なんてつかなかった。ただの探検家でしかなかった父さんと、その子供でしかなかったわたしに、重要な力を分け与えてしまったのもそのせい。彼は、誰が誰だかわからなかったんです。それにもかかわらず仇を討とうと思えば、目につく人間全員殺すしかないでしょう?」
ぞわっ、と、わたしの肌が粟立った。
「じゃあ、関帝は――」
「なにもかも殺しました。桃源郷にいる人間を、片っ端から」
杉山さんは、相変わらず淡々と言った。
「わたしや彼が止めようとしても、力を復活させた関帝は止められませんでした。そもそも、関帝にはわたしたちだけは区別できたんです。わたしは「周倉」だったから。そして彼は「桃源郷の桃」だったから。共に人間でなかったから、関帝には区別できました。
だから関帝はわたしたちと出会うと交戦を避け、べつの地区に出て殺し始めました。そうこうしているうちに、関帝への信仰が急速に失われたからでしょう。桃源郷自体が崩壊を始めた」
「『異界』が崩壊する……? そういうのって、あるの?」
「あるよ」
言ったのは、意外にも大東だった。
「いくつか、『パーティ』のレポートが報告してる。その『異界』がテーマにしているものが崩れた、あるいは目的が果たされて消えた場合、『異界』そのものが消える場合があるって。俺も目にしたことは一回しかねーけど、ひでーことになるぜ。探検映画の最後によく出てくる遺跡爆発オチみたいな展開になる」
「よくわかんないけど、つまり逃げ出せなければ死亡確定って感じなわけ?」
「だいたいはな。とはいえ、関帝結界がある横浜だとどういう影響が出るかはわかんねーけど。……あれ、その頃はなかったんだっけ?」
「厳密に言えばないですが、桃源領域の方が稼働してましたから。そうですね、桃源郷の消滅に関してだけは、わたしたちは被害を最小限に抑えられたと思います。それが救いになるかどうかは、わかりませんけど……」
「その後はどうなった?」
「ランドマークに囚われた半身を取り返そうとする関帝を追って、わたしと彼は必死で戦いました。結果、彼は関帝と相打ちになって死亡。最後の一手で、関帝を完全に封じ込め、その力を利用した新たな結界――『関帝結界』といまは言うのだと思いますが、それを発動させることに成功しました」
「関帝結界。そう、あなたたちがやったのね」
「桃源領域では、また関帝の復活のための力に流用させる可能性がありましたから。
それよりははるかに雑な仕掛けになりましたが、それでもなんとか、横浜の安定と、関係のない無辜の人々の命だけは守りました。それだけしか……できませんでした」
彼女はうつむいて、そう言った。
「――気に入らねーなあ」
言ったのは、背もたれにガラ悪く半身を預けた桂木ちゃんだった。
「気に入らねえ。気に入らねえよ。なんであんた、自分が悪いみたいな顔してんの?」
「え、いえ、しかし……」
「挙げ句に、なんで閉じ込められてんの? 聞いてみればあんた、横浜を救った英雄サマじゃん。しかもすげー力持ってるわけじゃん。横浜の言いなりになって、なんで閉じ込められてるんだよ」
「それは……横浜にとっては、わたしが真実を全部知る者でしたから。目障りだったんだと思います。
そしてわたしは、横浜に確実に関帝を封じ込めて欲しかった。だから、取引をしたんです。関帝にはこれ以上手を出さない、みなとみらい地区は封鎖する、代わりにわたしはあの施設から外に出ない、と……」
「んで約束破られたのか」
「……はい」
「そりゃ約束破られて当然だろうよ。だってあんた、相手をチェックできねえじゃん」
桂木ちゃんはあっさり言った。
そして、
「そもそもさ。もう一度言うけど、なんであんた自分が悪いみたいな顔してんの? たぶん負い目感じてたところを横浜から言いくるめられて閉じ込められたんだろうけど、なんでそもそも自分が悪いと思ったのさ」
「それは……だって、わたしは結局、なにもできませんでした。
関帝から与えられた超常の力がありながら……彼のように身を挺して横浜を救うこともできなかったし、それに関帝の虐殺を止めることだって……」
「んなもんあんたの責任じゃねーだろ。思い上がるな。自分を神だとでも思ってんのか」
桂木ちゃんの言葉に、杉山さんは目を丸くした。
「あたしたちは『セカンド・パーティ』だ。そりゃ世間から見ればガキどもの集団だが、第二世代、つまりは超人の集団でもある。
それでも失敗はするし、今回みたいに高杉にボッコボコにされて捕まることもある。しょせんは超人ったって人間だよ。あたしのヘマのせいで人が死んだことだって一度や二度じゃねえ」
「胸張って言うことかそれ。あといま言ってること、百地隊長の受け売りぐべ!?」
「涼真は黙ってろ」
さりげなく腰が入ったパンチを大東の顔面にたたき込んで、桂木ちゃんは胸を張った。
「それでも――全力でやった。できる限りのことをした。それだけは嘘をつかねえ」
杉山さんは、はっと息を飲んだ。
「いいじゃねえか。話聞いてたら、あたしが生まれる前の話みたいだけどさ。アンタ、全力でやったんだろ? がんばって工夫して、全力で自分の役目を果たして、それでもうまくいかないこともあって、でも最終的には一応そこそこの結果に落ち着いた。だったらそれでいいだろうが。
だから胸を張れよ。あんたは英雄サマだろ! なにをしょぼくれてやがる! 自分が横浜を守ったんだって、自分は偉いんだって、そこは胸張って言うとこだろうが!」
桂木ちゃんの言葉に、わたしは、
「あはは。あはははは」
「って、なに笑ってんだ高杉! テメエなんか文句あっか!」
「いや、なに」
わたしは笑いを収めて、
「どうやら本当にわたしたち、気が合うみたいだなって」
「…………ふん」
「マジかよ……桂木が二人ってそれ、もう制御不能じゃん……」
「おい涼真、いまいいとこだから黙ってろ」
桂木はジト目で言った。
わたしは笑顔で、
「同じ意見よ。わたしは一応、『新生の道』の元エースで、世間からは天才扱いされている。だけど世界にはわたしにできないことができる大天才が山ほどいるし、その大天才にだって――できないことくらい、ある。
できないことを求めたって仕方ないのよ。できることの手を尽くしたなら、それは立派にあなたの業績。あなたがなにもしなければ、もしかしたら横浜はもっと大惨事だったかもしれない。あなたは意図的にいまの話から自分の活躍を省いてたけど、話の裏でいろいろ手を尽くしていたんでしょう?」
「……そうかも、しれません」
杉山さんはそう言って、少しほほえんだ。
「たしかに、思い上がりだったかもしれない。わたしだけで責任を背負えるなんて……だからこそ」
「だからこそ?」
「今度は、ちゃんとやります。二度も悲劇が起こることは看過できない。横浜が関帝を用いてなにを企んでいるか知りませんが――それが悪事であるかどうかを見定め、必要あらば止めます」
「よく言った。じゃあ、ここからは同志ね。
さて、その上で、じゃじゃーん。これが今回の新兵器です」
「おおー! スマホじゃん珍しい! なにこれ触っていい?」
「いまは遠慮しといて」
桂木ちゃんにいったん釘を刺して、そしてわたしは言った。
「ただのスマホじゃないわよ。こいつは『新生の道』の秘密兵器。うちの課長から貸し出されたときには、正直開いた口がふさがらなかった」
「どんな機能がある?」
言う大東にわたしは笑って、
「横浜市内限定で、無線通信する機能」
「はあ!? すげえなそれ」
素直に大東は感心したようだった。
一方で、よくわからないという顔をしてるのが桂木ちゃんである。
「……? すごいのか? え、それ魔術通信となんの差があるの?」
「一言で言えば、距離。横浜の南端から北端まで繋げる魔術通信技術はいま、存在しないでしょ」
「ほー。じゃあ電波式なの?」
「それも無理。いまの東京圏では、電波通信は極めて短距離でも魔力によるノイズが混ざる。『崩壊』前にあった電話通信網はおろか、ルーターとの通信みたいなごく短距離の無線通信すら安定しないのが現状よ」
「……じゃあなにをしてるんだ?」
「うん。ほら、無線は無理だけど有線はいけるわけよ。そして『崩壊』による影響をあまり受けなかった横浜は、未だにインターネットの名残である通信網を持ってて、横浜市はそれをがんばって維持している」
「ふんふん、それで?」
「だからその通信網とだけ、魔術通信の応用でつないじゃえば使い放題なわけ」
バレたらけっこうきわどい話である。『新生の道』が、横浜市の重要インフラを勝手に流用できるシステムを作っていたというのは、外交問題に発展しかねない。
だが、これのおかげでいろんなことができるのだ。
「さて、そういうわけで、いままでの話はぜんぶ、もう一つの方のアジトに伝わってるはずだけど。
聞いてるわよね、谷津田くん? 所感を聞かせてもらえる?」
『ああ、問題ない』
スマホから、当然のように相手先にいる谷津田くんの声が流れた。
『まず、自己紹介しておこう。俺は谷津田久則。先ほどの話に出てきた言葉を使えば、現在『桃源郷の桃』の立場を引き継ぐ者だ』
「――なんと」
杉山さんは目を丸くした。
「そのような方がいらっしゃるとは思っておりましたが……こんなに早く、当たれるとは思っておりませんでした」
『ああ。そしていまの話と、俺とつながった『関帝』の知識を通じて、だいたいの事情はわかった。いまから致命的なことをいくつか言うから、落ち着いて聞いて欲しい』
谷津田くんは言って、軽く咳払い。
『まず第一。関帝は封印できてなかった。彼は封印のために相打ちになった少年を取り込み、『桃源郷の桃』の力を自分のものにして、それを使って回復していたんだ。今回の件は横浜市の裏切りじゃなくて、横浜は関帝が復活するのを予見し、最小限の被害になる手段を講じたに過ぎない』
「な……」
『そして第二。志津はそれを知っていたし、俺を調べることで『桃源郷の桃』と関帝についての情報を集めていた。だから早くから的確な処置をして、関帝を封印できたんだ』
「では、では横浜市は、裏切ってはいなかったと?」
『横浜市はな。だが、志津は違う。
第三。志津の目的はおそらく、関帝の破片を東京圏の各地に埋め込んで、『関帝結界』を普遍化することだ。だがそのためには関帝を生かしたまま細切れにする必要がある。
当然関帝は抵抗し、暴れるだろう。だから志津はそのために、関帝の攻撃力の元凶を関内から遠ざけ、外縁部に封じ込めた。それがいま、関内地区、つまり現在の桃源領域の外と内を隔てる壁だ』
「攻撃力……まさか!」
『そう。これが第四。関帝は敵が関内の「外」にいると思い込まされている』
わたしの焦った言葉に対して、谷津田くんの声は淡々として、しかし恐ろしく響いた。
『だから志津との戦いが本格的に始まれば、関帝の力は外へと向かって虐殺を始める。関内は無事だろうが、その外側の住宅街の連中は、数十万単位、へたすると百万以上死ぬぞ』
---next, overlooked.




