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亡霊と不死者の時間-Things separating ATHANATOI from ghosts-  作者: すたりむ
第三章:天変地異⇒天変地異!?
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25.切り崩し-splitting-(後)

 全員で今後の予定を確認し、いったん解散した後、わたし、高杉綾子は十五時を待って県警本部跡へと足を運んだ。


「案内役の鴻池こうのいけです、よろしく」

「どうも、高杉綾子よ。よろしくお願いするわ」

「面会人の名前は藤宮千景、及び、大東涼真。これで間違いありませんね」

「ええ。間違いないわ」


 わたしは、大きすぎて似合ってないスーツを着にくそうに着る少年、鴻池にうなずいた。

 間違いない。こいつは第二世代セカンドだろう。

 監視されるのも第二世代セカンドなら、監視するのも第二世代セカンド。でなければ、突発的な脱走などに対処できない。そういうことだ。


(となると、鴻池というこの少年は横浜のエース級、ということになるんでしょうね)


 まあ、わたしにとっては、どうでもいいことだ。

 そして、横峰は思った以上にこちらに譲歩してくれたらしい。チカだけでなく、大東との面会までちゃんと組んでくれた。

 してみると、志津のやり方には、横峰としても思うところがあったのだろうか。


(いや、そうじゃないな)


 たぶん志津は毒を隠し持っている(・・・・・・・・・)

 佐伯や島田さんなどを始末し、関係者を可能な限り少なくしようとしていること。そして、こんなにも秘密裏にかつ性急に、ことを成し遂げようとしていること。それが、彼が持つ後ろ暗いなにかを暗示している。

 おそらく彼の目的は、公開すれば絶対に止められるようなことだ。

 そして、横峰も御前崎も、それに薄々気づいているからこそ、迷っている。

 ……田中はわからないけど。あれは気づいた上で、あっさり許容して乗っかりそうなやつだ。

 ともかく、おそらくはそのあたりに、相手陣営を切り崩すヒントがあるはず。これはここから先、どんな真相が明らかになっても変わらないであろう箇所だ。


「こちらです」


 鴻池の声で、わたしは顔を上げた。

 面会室、と書かれたプレートのあるドアを開けて、鴻池は言った。


「事前に説明があったと思いますが、面会には私が立ち会います。

 禁止事項と思われることに触れた場合、私が止めますので、そのときはただちに中断してください。従わない場合、面会を強制終了させていただきます」

「わかったわ」


 うなずいて、わたしは部屋に入った。

 部屋は大きなデスクと、その上の穴が多少空いた大きなアクリル板で、完全にふたつに仕切られている。そのアクリル板の向こうに、目的の二人の姿があった。


「ドラマで見たことあるけど、ホントにこんな形状なのね、面会室って」

「やほー、綾ちゃん。ごめん、捕まっちゃった」

「見ればわかるわ、チカ。こちらこそ、無茶を言ってごめん。

 んで……お久しぶり、と言うにはあんまり時間が経ってないわね、大東くん?」

「ああ。俺としても、トラウマもんのあんたの顔をまた見たくはなかったよ」


 やや憮然と、大東――『セカンド・パーティ』のボスである大東涼真は、そう言った。

 わたしは仕切り板前の椅子に座り、さりげなく左右の足をバッテンの形に交差させながら、


「ま、それはわたしを調べずに突貫してきたあんたたちの自爆よ。『高杉綾子』の名前をちょっとでも調べれば、どんな相手かくらいはわかったでしょうに」

「まあ、そうだな。教訓にはなったよ」


 大東は言って、ため息をついた。

 わたしはチカの方を向いて、


「で、チカ。確認したいんだけど、なんで捕まってるの?」

「なんか、脱走幇助とか言われたよ? あたしはただ交渉してただけなのにね」

「どんな交渉?」

「んと、『セカンド・パーティ』って、綾ちゃんに襲いかかった罪で捕まってるわけでしょ?

 じゃあ綾ちゃんが被害届を取り下げれば、それで解放される。それと引き換えに雇われて欲しいって」

「なるほど。思いは一緒か」

「思いは一緒ってことは、綾ちゃんも?」

「うん。実は大東くんには、今回それを言いに来た」


 と、そこで背中から声がかかった。


「高杉さん」

「なに、鴻池?」

「それ以上は禁止事項に当たります。お控えください」

「なんの禁止事項?」

「横浜市の司法を経由せずに、直接面会で法規に関する取引をすることです。それは法律で禁止されていて――」

「ああ、そっか。じゃあ訂正するね」


 わたしはうなずいて、


「実を言うとわたしはチカより踏み込んでる。横峰さんを通じて、横浜市警に『セカンド・パーティ』の被害届、取り下げる手続きをしてきたわ」

「はあ?」


 大東はいぶかしげに首をかしげた。


「なんのために?」

「そりゃ解放して働いてもらうためよ」

「いえ、ですから高杉さん……」

「鴻池、これは「法規に関する取引」ではないわよ。相手がなにを言うかに関係なく、もう被害届は取り下げてる。そしてそれと関係ないところでわたしはこいつらを雇いたいって言ってるの。どうせすぐ解放されるなら、いまのうちに相談しておいても問題ないでしょ?」

「…………。まあ、形式的にはそうですが」


 鴻池は、いかにもなにか言いたげだったが、それ以上は言えなかったようだ。

 わたしはにやりと笑って、


「というわけで交渉よ。――いくらで雇われる?」

「……言ってくれるな」


 大東はため息をついた。


「そも、川崎の『藤宮』から依頼があった時点で、俺たちにとっては名を上げてのし上がる、またとないチャンスだ。だから受けたいところだが……どうせ危険な依頼だろ?」

「そうでなければ傭兵には頼まないわよ。当たり前でしょ」

「……相場の二倍は必要だ。出せるか?」

「出せないとすれば、そのときはあんたたちもわたしも全滅してるわよ」

「訂正、五倍だ。藤宮千景、どうなんだ。こいつは出せると思うか?」

「え、えっと。綾ちゃん、どの予算から出すって話?」

「ああ、課長のケイが生きてたから、たぶん情報課予算で出せるんじゃない? 足りなかったら片嶋さん強請って、警備課からもふんだくれるわ」

「ならギリギリ足りるかなあ……たぶん」

「おっけー。じゃあ交渉は成立ってことでいい、大東くん?」

「……。くそ、少し待て。この面会が終わったら仲間の同意を取る」

「ダメよ。ここで決めなさい」

「はあ? なんでだよ」

「いや、だってね?」


 わたしは言った。


「もう取り返しつかないから。どうせ乗るしかないのよ、君たち」


 わたしの言葉と同時に。



 ずどん! という大きな音が、建物全体を揺るがした。



「なんだ!?」


 大東が叫ぶと、同時に。


「動くな」


 わたしの首に、冷たい鉄の感触が突きつけられた。

 ――鴻池。彼が、わたしの背後にぴたりとつけている。


「高杉綾子。貴様、なにかを企んでいるな?」

「そんな問答をしている時間はないの。第一、無駄でしょ?」

「この警棒には特殊な魔化がされていて、精霊刀レベルの斬撃力がある。第二世代セカンドでも一撃で死ぬぞ」

「もう遅い」


 わたしは言って、すでに座りながら交差していた左右の足を戻す力を軸に、身体全体を起き上がらせながら右回りで回転しつつ裏拳を作って、


竜牙烈掌ドラゴン・ファング!」


 どがぁ! という轟音と共に、鴻池の身体が大きく吹っ飛んで壁にたたきつけられてバウンドして地面に落ちた。

 ぴくりとも動かない。


「あ、綾ちゃん大丈夫!? 首から血が出てるよ!」

「あー、大丈夫。動いた拍子に警棒がちょっとひっかかっただけ。わたしならすぐ治るわ。

 ……本当、『セカンド・パーティ』といいこいつといい、調査不足にも程があるわよ。よりによってわたし相手に近接する(・・・・)とは」


 通常の第二世代セカンドは精霊刀を怖がって距離を取る傾向にあるが、わたしは竜牙烈掌ドラゴン・ファングが主力なので、近接戦こそが最大の戦力である。少しでも情報を集めていれば、そのわたしに接近して脅そうなどという馬鹿な真似は普通しないのだが。


(いや、天際さんほど知名度がないことを嘆くべきかな?)


 思ってから、かぶりを振る。いまはそんなことを考えている暇はない。


「それより大東くん、チカ守ってて」

「は? なにがだよ」

竜牙烈掌ドラゴン・ファング!」

「どわああ!?」


 わたしは面会室のあちらとこちらを隔てるアクリル板に拳をたたき込み、盛大な音とともにそれが全損。飛んできた破片を大東があわてて受けて、おかげでチカは無傷で済んだ。えらい。


「なんだ、なんだ一体これは! おまえ、横浜と取引してたんじゃないのか!?」

「悪いけど待ってる時間がないし、それ以上に野暮用があってね。

 表の爆音も相変わらず聞こえてきてる。この間に、目的を済ませるわよ。チカ、大東くん」

「え、どういうこと? 目的ってなに?」

「道すがら話すわ。ここに捕まってるっていう人間は、第二世代セカンドとチカだけじゃないの。

 ……ええ、むしろそっちが本命。すべての真実を解き明かす鍵が、この施設に眠っているのよ」



--------------------



 通路を駆け抜けながら、大東が言った。


「つーか、表のこの爆音ってなんだ? 第二世代セカンド並の戦力でもぶつけてるのか?」

「あれはわたしの仲間が陽動してる。鴻池はそれにすぐ気づいたから、ああやって動いたわけ。

 ……まあ、無駄だったけどね。本当にわたしを止めたければ、なにも言わずに警棒で背中からぶった切るべきだった」


 それでも勝てなかっただろうけど。以前ならともかくいまのわたしは、身体を精霊刀で両断された程度では死なない。

 外の爆音はかなり派手で、施設全体がそれに対処するので手一杯であるのか、わたしたちを止める職員は誰もいない。

 まあ、こういう施設では、外部からの襲撃より内部からの脱走に対しての方が警戒が強くなるもの。こういう事態には対処法を考えてなかっただろうし、それ以上に……


(楢崎、そうとう貯め込んでたのね、魔術武器)


 あいつが『新生の道』内部のどういう組織に所属しているのかはいまも知らないが、魔術武器の試作品を使わされてたことだけは知っている。

 だから惜しみなく使ってもらった。小辻くんにもサポートを頼んだので、もうしばらくは保つはず。


「で、大東くん! 案内はここまででいいわ! 残った時間は『セカンド・パーティ』のメンバーを集めて脱出するのに使って! んで、関内駅前に集合!」

「ああもう、これ断る権利とかマジでないじゃん! いいよ本当に相場の五倍払ってもらうからな!」


 叫んで大東はその場を立ち去り、走るチカとわたしが残った。


「それで、綾ちゃん! どこに向かってるの!?」

「さっき大東くんから内側の間取りを聞いて、それで施設の形を見たら不自然な空間があってね!」


 言っているうちに、そこがわたしにも見えてきた。忍者屋敷の隠し扉みたいになっているそこを、


剛打撃スマッシュ!」


 爆砕。現れた階段を降りて地下へ。

 地下にあった部屋は一つだけ。その部屋に近づき、


握壊グラスプ!」


 ドアノブをにぎりつぶして中に入る。

 中には、ひとりの女の子がいた。年の頃は、見た目だとわたしよりだいぶ年下。小学生の高学年くらいに見える。


「……誰です?」

「わたしは高杉綾子。こっちは藤原千景」


 言ってわたしは、とても簡潔に説明した。


「いま横浜では、関帝の力を悪用しようとしてるやつが暴走中。対抗しようにもわたしたちには知識が足りない。力を貸してもらえないかな。名前は?」

杉山すぎやま羽菜はなです」


 彼女はたしかな意思を秘めた声で、言った。


「状況はわかりました。どういう経緯かは後でお聞かせ願うとして……あなたについていけばいいのですね?」






---next, truth.

【余談】

 アクリル板にはかなり強めの魔術防御があって、並の第二世代(セカンド)ではどんなにがんばっても壊せません。

 まあ、竜牙烈掌(ドラゴン・ファング)なら一撃です。あれを使えるのがおかしいんです。



【魔術紹介】


1)『握壊(グラスプ)

難易度:D+ 詠唱:完全詠唱(フルコーラス) 種別:身体強化

 単に握力を高めてなにかをにぎりつぶす魔術なのだが……

 高杉の魔力と、元々高めな身体能力のせいで、威力がおかしいことになっている。

 あの部屋のノブも、本来ならばかなりの防御能力を持っていたのだが、これだけで押し切った高杉恐るべし、である。

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