中央公園上空 壱
ガシャドクロのすべてのパーツが漆黒の霧に変化した。
「おじさんッ」
「大した魔物はいないッ、威力は弱くていいから数をこなすぞ!」
「うんッ、ヒートブレイド!」
「裂気斬!」
身近に存在する霧はヒートブレイドで焼切り、離れた所は裂気斬で次々滅していく。瞬く間に魔物の霧は無くなった。
「終わったね……」
「いや、まだだ」
悠輝は朱理の肉体を刹那たちのところへ急がせた。
あれは……?
壷内尊の様子がおかしい。身体が明らかに大きくなり、服が破け露わになった肌が金属のような光沢を放っている。
「永遠……」
刹那が蹲ったまま顔をこちらに向けた。
「姉さん!」
慌てて駆け寄る。
「しっかりして!」
「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ」
悠輝が直ぐさま薬師如来真言を唱えた。
刹那が大きく息を吐き出す。
「ありがとう、永遠、おじさん……満留も手当てしてやって」
「わかった」
悠輝が答えたので、朱理は満留の傍らに行った。
「何をしているんです……早く尊にとどめを……」
「安心しろ、直ぐに……」
言っている途中で突然異様な力を感じた。
「まずい……」
苦しげに満留が漏らす。
「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ」
素速く悠輝は真言を唱えた。
「おまえの言う通りだ、こいつはヤバイな」
朱理も叔父と同じ意見だった。
そこに立っているのは、身長が三メートルはあり全身が金属質の黒ずんだ光沢を放つ魔人だった。
「おまえ、いったい何をした?」
「対鬼多見法眼用に取っておきたかったんだがな、まさかキサマごときに使うハメになるとは。
教えてやる、これが完成形だ」
声まで金属音の様になり耳障りだ。
「完成形?」
「耶蘇未麓が使ったのは試作品に過ぎない」
朱理も話だけは聞いていた、アークソサエティの教祖だった耶蘇未麓が最後に呪術で怪物になったと。
「アークに関わっていた呪術者は私だけじゃない。でも、まさかこいつが……」
満留が絶句する。
「当然、オマエのことも知っていた。未麓は談合されるのを恐れて、それぞれの名前を明かさないようにしていたが、オレには知る手段がいくらでもある」
「どうして、何もしてこなかったの?」
「泥棒猫のコピー商品と本物じゃデキが違う。比べさせて、より高い値段でオレの呪具を売った」
満留は悔しそうに顔を顰めた。
「芦屋、安心しろ。こいつの呪具も大したことはない、アークを潰したおれが保証する」
「悠輝様……」
「その呼び方はやめろ」
「しかし、遙香様が……」
「頼むからやめてくれ」
悠輝が困っているのを尻目に尊はニヤリとした。
「試作品と完成品の違いを今から教えてやるぜ!」
魔人は見た目からは想像も出来ない速さで間合を詰め、朱理と満留を纏めて蹴り付ける。
咄嗟に悠輝は験力の壁で身を守ろうとしたが、魔人の脚が触れると消滅した。
「ウワッ」
「キャッ」
満留と共に朱理の身体も吹き飛ばされ地面に叩き付けられる。
「おじさん、今の……」
「ああ、想像以上に厄介な相手かもな。
芦屋、治癒の呪法は使えるか?」
「もちろん」
「梵天丸を頼む、可能なら座敷童子も」
「わかりました」
満留は立ち上がり、その場から離れた。
尊は彼女を阻止しようとはしない。
「さっきも言ったが、いくら雑魚を集めようともオレには勝てない」
「安心しろ、おまえも雑魚だ」
魔人は朱理に今度は拳を突き出した。
悠輝は躱して懐に飛び込むと、肘を相手の腹部にたたき込む。
分厚い鉄板を叩いた様な感触があり、腕が少し痺れた。
「なッ?」
思わず驚きの声が漏れる。
悠輝は朱理の身を縮めさせ尊の股をくぐり、魔人の背後に回った。
「裂気斬!」
験力の刃は魔人に触れると消滅した。
「烈火弾!」
今度は魔人の身体を焔が包んだ。しかし、燃えたのは巨大化した身体に貼り付いていたボロボロの服だけだった。
「そんな……」
戦慄覚える朱理を無視し、悠輝は急いで間合を広げた。
「先に謝っておく、おまえの肉体で多少ムチャをしなけりゃならない」
「ウソ、多少じゃ済まないでしょ? でも、いいよ」
何故か験力が打ち消され、鋼のような身体で素手でのまともな攻撃を受け付けない。ガシャドクロよりも小さいが、明らかにこちらが不利になっている。
相手は声優を連続で殺しており、朱理もターゲットだ。
それにわたしがやられたら、尾崎さんまで……
刹那や満留だけではない、佳奈の生命も危ないし、更に被害者が増える恐れだってある。
「ありがとう、愛してるぞ」
「バカ、そういうコト言うと、デスフラグが立っちゃうんだから」
「だいじょうぶ、朱理の身体だから叔父ちゃんは死なない」
「わたしが死ぬでしょ!」
「死なせないさ」
「心配しなくても、二人とも息の根も止めてやる!」
尊が一気に間合を詰め、朱理の胴体を蹴り付ける。
悠輝は素速く体勢を低くして躱すと、横に飛び退く。
「裂焔斬!」
験力を打ち消されたとしても、裂焔斬なら烈火弾よりも遥かに火力がある。
「ククク……ムダ、ムダ、ムダ、ムダだぁ!」
雄叫びを上げると今度は念動力の波が朱理たちを襲う。
「オン!」
悠輝が念動力で対抗する。
「どうした、『カルト潰しの幽鬼』? せっかくキサマの土俵で戦ってやってるんだ、少しはオレを楽しませろ」
朱理も験力に触れ、悠輝を支援する。発火能力を持つ彼女は念動力とは親和性が高い。
にも関わらず、魔人と化した壷内尊の念動を打ち破ることが出来ない。しかも、
「もう限界か? オレはまだまだ余裕があるぜ」
尊は念動を出し惜しみしていた。
魔人の念動が徐々に強くなっていく。
「クッ」
遂に朱理と悠輝の限界が来た。
「うわ!」
朱理の身体が吹き飛ばされる。
地面に激突使用とした時、身をていして彼女のクッションとなった三つの影があった。
「ボンちゃんッ、ザッキー!」
それに満留の八咫烏もいる。
「永遠!」
刹那と満留が駆けつけた。
「姉さん、走ってだいじょうぶなの?」
刹那はニッコリ微笑んだ。
「満留がザッキーを回復してくれたから。
おじさんと満留のおかげで完全復活よ!」
満留が独鈷杵を差し出した。
「尊が座敷童子に刺した独鈷杵です。これにはあいつの霊力が込められています。
これなら、傷付けることが出来るかも知れません」
朱理はそれを受け取った。
「助かる」
悠輝が礼を言った。
「おじさん、これなら……」
「ああ。みんな、力を貸してくれ」
刹那と満留が頷き、梵天丸は嬉しそうな顔をした。




