稲本団地中央広場 弐
ガシャドクロが拳を振り上げる。
「永遠、満留!」
朱理は咄嗟に刹那の考えを理解した。
「ノウマク・サンマンダ・バザラダン・カン!」
不動明王の一字呪を唱えながら、ガシャドクロの振り下ろされた拳をかわすと焔を放つ。
烈火弾よりかなり威力が劣るが、それでも梵天丸と八咫烏を援護することは出来るはずだ。
梵天丸はガシャドクロの足に齧り付き、八咫烏も空中から三本の足と嘴で攻撃を繰り返す。
この隙に刹那は座敷童子と共に、尊に向かって突進していく。
「ザッキー!」
刹那が叫ぶと座敷童子が尊に襲い掛かった。
次の瞬間、
「ウッ」
刹那が腹部を押さえて蹲った。
「姉さんッ?」
「バカな女だ。そんな下等な憑物で、オレを傷つけられるものか」
仰向けに倒れた座敷童子の腹に、独鈷杵が突き刺さっていた。「グフー、グフー」と呻き声を上げながら、それを引き抜こうと藻掻く。
「ザッキー……」
刹那は腹部を押さえながら座敷童子に近づこうとする。
「フン、無様だな。さっきの勢いはどうした?」
朱理は刹那のところへ駆けだした。
「お嬢様!」
満留の警告の声に振り返ると、ガシャドクロの拳が頭上に迫っているのに気付いた。
「キャッ!」
何とか直撃は避けたが、拳が地面を打つ衝撃で身体が吹っ飛んだ。
「グアッ」
「キャン!」
顔を上げると満留と梵天丸の悲鳴が聞こえ、慌てて首をそちらに向ける。
梵天丸は朱理と同じように吹き飛ばされ、八咫烏も叩き落とされていた。
そんな……
「少しは実力の差がわかったか? どうやったかは知らないが、付け焼き刃の憑物を使った半端な霊能者と、泥棒猫の三流外法師、それに少しばかり異能のある犬。そのガキはまぁまぁ異能は強いようだが、オレの敵じゃない。
しょせん、ゴミがいくら集まってもゴミに過ぎねぇんだよ!」
そう言って蹲る刹那に近づくと、いきなり蹴り上げた。
「ウァッ」
「姉さん!」
刹那は痛みで顔を歪め、涙を流しながらも尊を睨み付けた。
「何だ、その眼は? 気持ちだけじゃ、オレに糧ねぇぜ!」
尊は何度も刹那を蹴りつけた。
「やめてッ、お願い!」
朱理の声を無視して尊は執拗に刹那を蹴り続ける。
「やめて……やめてってば……やめろ!」
朱理は立ち上がり尊に向かって駆けだした。
ガシャドクロの拳が再び頭上から襲ってくる。
「クッ」
相手が大きすぎて攻撃を避けるのが精一杯だ、ヒートブレイドでは対抗できない。
「どうした、逃げてばかりじゃコイツを助けられないぞ」
尊が勝ち誇った笑みを浮かべ、刹那を踏みつける。
どうすればいいの……
「出でよ天手力男命ッ、急急如律令!」
突然現われたガッシリとした男が、ガシャドクロの拳を受け止めた。
「早くッ、長くは持ちません!」
「ありがとう!」
朱理は満留に礼を言うと、全力で走った。
「ヒートブレイド! 姉さんから足をどけろッ!」
腕から伸びる焔の刃を尊の顔面に叩き付ける。
しかし、焔は彼に届く前に掻き消され、逆に腕を掴まれ、捻り上げられる。
「ガルルル!」
梵天丸が尊の腕に噛みついた。
「クッ、この犬が!」
尊は朱理を放し梵天丸を殴りつけた。
「キャン!」
梵天丸は地面に叩き付けられる。
「ボンちゃん!」
尊は梵天丸も蹴ろうとしたが、座敷童子がその脚に抱きついた。
「クソ! クズどもがッ」
「ヒートブレイド!」
朱理は焔に包まれた脚で蹴りつける。
何らかの呪術を施しているのだろう、再び焔は消えたが脚は届き、尊は数歩よろめいた。
「いい気になるな!」
尊が殴りかかってきた。数発は受け流したが、脚を払われバランスを崩したところを顔面を殴られ、朱理は倒れた。
「永遠に、手を出すな……」
刹那がヨロヨロと立ち上がったが、尊は手の甲で刹那の頬を打った。
「姉さん……」
朱理は痛みに呻いた。
「もうお遊びは終わりだ、まとめて殺してやるよ」
負けるもんか……
朱理は身体を起こした。
「あんたなんかに、絶対にわたしたちは負けない!」
「ククク……いくら弱い奴が集まったところで、本当の強者には勝てねぇんだよ!」
「わたしたちは弱くない!
姉さんは、依頼者の問題だけじゃなく心まで救おうとする強い拝み屋だし、ボンちゃんはいつだってわたしを助けてくれるヒーローだ。
芦屋……満留は正直好きじゃないけど……でも、逃げずにあんたに立ち向かった。
みんな……みんな、あんたなんかよりずっと強い!」
朱理の言葉を聞いて尊はせせら笑った。
「なんだ、心は強いってか? それでオレをたおせるのかよ?
見てみろよ現実を!」
尊は両腕で周りを示した。
「御堂刹那と座敷童子も、おまえの犬も、そして満留も虫の息だ。もちろんおまえ自身もな」
「わたしたちは強い、わたしたちが力を合わせれば、絶対に負けない!」
「何度も言わせるな、雑魚がいくら集まっても雑魚なんだよ。それとも鬼多見法眼が助けてくれるとでも思っているのか?
残念だが、今回は来てくれないみたいだな。
真藤遙香はどうせオヤジのところへ行っているんだろ?
今頃、返り討ちにされてるさ。
それに『カルト潰しの幽鬼』も出てこないところを見ると、あいつも死にかけてる。
安心しろよ、みんな仲良くあの世へ送ってやる。ついでに鬼多見法眼もな」
ガシャドクロが朱理の背後に立ち、拳を振り上げた。
唵 鬼多見 薩婆訶……
拳が振り下ろされ、刹那が大きな悲鳴を上げた。




