智羅教本部
壷内尊は誰もいない智羅教の道場に立っていた、ここを訪れたのは三ヶ月ぶりだ。彼が生まれ育ち、呪術と式神の使い方を覚えた場所で、本来なら彼がこの智羅教団を継ぐはずだった。
だが尊はそれを拒んだ。こんなちっぽけな教団の教主で終わる人間ではない、彼はそう思っている。
そして呪術師として生きてきた。彼の使う式神は強力だ、それを阻む者など存在しない。はずだった、御堂永遠を襲う前までは。
あの小娘は打った式神を全て斃した。
強力な異能力があるマネージャーが着いていることと、本人にも多少の異能があることは調べがついていた。だからこそマネージャーが不在になった時を狙い、さらに式神も多く打った。
にもかかわらず、生命を奪うことはおろか、降板させるだけの怪我を負わせることすらできなかった。できたのは霊力が微弱な姉に重傷を負わせることだけだ。だが、彼女が降板しても依頼者に役が回る可能性は少ない、タイプが違う。
尊のプライドは酷く傷つけられた。だから確実に仕留めるために鵺を打ったのだ。今度は「カルト潰しの幽鬼」が想像以上に邪魔をした。いや、それより白犬に乗った子供さえ現われなければ……
「尊」
歯ぎしりをしていると、玄馬の声が聞こえ我に返った。
「オヤジ……」
「お前、自分のしたことが解っているのかッ、鬼多見法眼の孫娘に手を出しおって!」
いきなり一喝する。
「しょうがないだろ、依頼されたんだ」
子供のように口を尖らせる。
「また、彼奴からか」
玄馬は吐き捨てるように言った。
「そうだよッ、悪いかよ! オレにはアイツに対する責任があるだろッ?」
「そんな物などないわッ、私がとっくに始末を付けてある。それより、お前は彼奴に執着しすぎだ、何を考えておる?」
何を考えているかだって?
そんなのわかっているだろ、わかっているから口にしないんだろ。
「そんなに鬼多見法眼が怖いのかよ」
尊は話をそらした。
「ふん、愚か者、私が鬼多見ごときを怖れるものか。すでに奴のもとへ行き、警告をしてきた」
尊は瞠目した。
「警告? どうして始末しない?」
「こちらの被害も考えろ! 警告するだけでも信者を一人、意識不明にした」
父の言葉に尊は一瞬言葉に詰まったが、直ぐにニヤリと口角を上げた。
「オレが何もしなくても、『カルト潰しの幽鬼』がここに来たんだろ? なら、どっちにしろ鬼多見との戦争は避けられなかった、違うか?」
玄馬は顔を顰めた。
どうだッ、オレの情報収集能力をなめるなよ!
「お前、それを知っていて同じ時間帯に法眼の孫を襲ったのか?」
尊は勝ち誇った笑みを浮かべた。
「戯けッ、『カルト潰しの幽鬼』だけなら多少脅してやれば、信者一人を失っただけで済んだ。だが、法眼との対決となればこちらの被害も甚大になる!」
「それがどうした? 鬼多見法眼を斃せば智羅教の名もあがる」
玄馬の顔が怒りで黒ずんだ。
「名をあげてどうするッ? 智羅教に怨みを持つ者が、どれだけいるか考えてみよッ。
鬼多見と戦い、我らが痛手を負えば、奴らはどう動く?」
尊は父の怒りに満ちた双眸を見返した。
「だからなんだ? 全部蹴散らしてやればいい」
玄馬は眼を閉じ嘆息した。
「どこまで愚かなのだ……」
父の言葉にムッとする。
「幾つになった、尊?」
「自分の息子の歳を忘れたのか?」
「お前に自覚があるのかを知りたかったのだッ。三十半ばになっても、世間知らずの子供のままだ!」
「……………………………」
尊は黙り込んで玄馬を睨んだ。
「何だその眼はッ?」
「そんなことを言うために、わざわざオレを呼んだのか?」
踵を返す。
「待てッ」
玄馬が呼び止める。
「もう説教はウンザリだ」
「鬼多見が完全に手を引いたわけではない、ここにお前もいろ!」
尊は歩みを止めた。
「ちょうどいい、オレが鬼多見法眼も御堂永遠も、それに死に損なった『カルト潰しの幽鬼』も息の根を止めてやる!」
「忘れたのか我らを退けたあの子供をッ? あれも法眼の孫で相当な異能力をもっている。それに彼奴の娘は……」
「構わねぇ! ぜんぶオレが始末するッ」
吐き捨てるように言うと尊は道場を飛び出した。




