平和な日常
「ふぁ〜!!」
窓から射し込む太陽の光で目を覚ました。気持ちのいい朝だ。僕はベッドからのそりと起き上がる。
僕が転生して15年が経とうとしていた。
どうやら僕は生前の記憶を残したまま転生したらしい。
「おはよう、母さん。」
「おはよう、ヒロ。朝ごはん、もうちょっと待ってね。もうすぐパンケーキ焼けるから。」
母さんはフライパンをじっと見つめながらパンケーキと格闘している。
「父さんは?」「洗面…所っ!」
パンケーキが宙を舞う。そしてまたフライパンの上へ。まるで蝶のようだ。…いや、言いすぎたかな。パンケーキはどこまでいってもパンケーキだ。
「おはよう、ヒロ」「おはよう、父さん」
洗面所から父さんが顔を出した。
この世界での僕の名前はヒロ・ジェネシス
穏やかな父さんと、明るい母さんとの三人家族だ。
この世界は、あの女神さまが言っていたように不思議な生物や不思議な力で溢れている。時にそれらは人々の生活を脅かすが、少なくとも僕は一度も襲われたりしたことはない。住んでいるのが平和な地域ってこともあるのかな。この辺ではそういった危ない生物がいないようだ。ある一部の地域では獰猛な生物が生息しているようだが…「いただきまーす!」さっきまで宙を舞っていたパンケーキにかぶりつく。
とろとろの蜂蜜に蕩けたバターが絡みついて最高だ。「いや〜っ!」その横で母さんが悲鳴をあげた。
「もう……またゆでタマゴ失敗しちゃった…」母さんはゆで卵を見つめたままうなだれている。
「これのどこが失敗なの?美味しいじゃないか。大成功だよ!なぁ、ヒロ」父さんは嬉しそうにゆで卵を口に運ぶ。
「ありがと。でも母さんはもっとトロトロの半熟のゆで卵が好きなの!」
転生してから物心ついて少ししてから気がついたんだが、この世界には時計がない。というか、より正確に言うなら時計ではなくて、時間という概念がない…というか。陽が登れば朝で、陽が落ちれば夜で、といった感じだ。とてもざっくりしている。
だからゆで卵なんかは作るのが難しい。カチカチパサパサのかたいゆで卵なら長めに茹でればいいが、半熟のゆで卵となると難しい。
「ごちそうさまでした。じゃあ行ってきまーす。」