プロローグ1
本作品は先行作品からの影響を肯定的に受けて制作された
プロローグ 1994年 5月12日 未明 皇海沖
払暁から変わりゆく空は、二つの恒陽の影響を受けて淡い桃色になっていた。淡い光に包まれた海上に、二つの物体が接近しつつあった。
それはどちらも、巨大な星獣
人類が生み出すことに成功した。古神の似姿。
通俗的な表現をするならば巨大な海生哺乳類の上に城郭のごとき構造物を載せ、そこから巨人の腕のような砲が伸びている。といったところだ。
神の怒りの写しである巨砲と、如何なる攻撃も通さない鋼鉄の装甲。ただ同格の怪物を倒すためだけに作られた神像兵器。どちらも海上を支配するために存在している。
怪物はかつて同一の似姿だった。
彼女たち――星獣は大きさを問わず女性形で表される―― は同一の母から生まれたからだ。
しかし、同じ母から生まれた姉妹でも長い年月を経て全く別人のようになってしまうことがある。
片方は明るいネイビーブルー。洗練されたデザイン、騎士のごとき気高さ。
列島自衛隊 超大型護衛獣「やまと」
もう片方は暗いダークグレー。ハリネズミの如き武装、怪物の如き凶暴さ。
連合皇国海軍 戦艦「武蔵」
例えば、生き別れて半世紀近いとなれば。
例えば、その間全く別の国で暮らしていたとなれば。
二人の違いはそのまま彼女たちが歩んだ歴史を示し。
二人の姿は祖国が辿った道のりを示していた。
約半世紀近い時の中で、二人の祖国は彼女たちを海の象徴として維持し、飾りたて、その美しさを競ってきた。
互いに相手を生涯の敵としていた二人は今、海上で向き合おうとしている。
それぞれにとっての「皇国」に、勝利をもたらすために。
*** *** ***
やまと 戦闘指揮所
艦長の席は、一段高い位置にある。
巨大星獣の体内に存在している指揮所は、多くのコンソールとディスプレイというSFもかくやという内装だった。目の前の壁面には複合大型モニターがある。
司令官である神崎葵はトラックボールとタッチパネルを使った操作にいまだ慣れない。コンピュータに疎いわけではないが、新人として乗り込んでいたころ、電子機器と言えばテレビモニターとレーダースコープだけだった。それに比べて進歩しすぎた。ということもある。
(うーん、私が前いた時とは色々違うなぁ)
などと思いながら、前方の大モニターを見ていた。ひとたび行動の方針を決めてしまえば、案外指揮官とは暇な仕事。それにこうした方が恰好が良い。と思っていた。
息子が好きだったアニメでは、艦長はそうしていたはず。あれ、いい作品だったけど。あの艦長のモデルが私ってのがダメ。やまとが宇宙船になったのは許してあげてもいいけど。
もちろん、周囲の人間は彼女がそんなことを考えているとは気が付いていない。
長髪に幼さの残る顔立ち。年頃の息子がいるとは思えない(本当は年頃どころか戦闘機乗りとして戦っているのだが、親子を知る艦内の人々には、未だに子どものままだ)
母となってもなお若さと己を維持し続けている剛の者だ。まして『列島』自衛隊に勤めるには女性としてのどこかを麻痺させなければならない。彼女は組織が女性職員に求める一つの成功例と呼べるかもしれなかった。
大型モニターに目をむけると、そこにはワイヤーフレームで描かれた海岸線があり、その周囲には簡単なシンボルで兵力の配置が描かれていた。
内容を要約すると、付近の海上と空中に敵戦力は存在していない。
「センサ、レーダー共に反応ナシ」
「こりゃ逃げたかな」
オペレーターと副官の言葉。現状では警戒機からの情報もない。魔術的な対索敵技術は存在していたが、彼我の技術レベルを考えるならば敵を見落とすことは考えられない。
「艦長、偵察からの報告もありません。連中、この海域にいないのでは? 」
「来るわ、必ず。こっちが大戦艦を持ち出したんだもの、向こうもそれ相応の備えをしていないと」
「戦艦を沈めるのは戦艦だけ、ですか」
戦艦−− 超巨大な海洋星獣 を沈めるには、それと同等の戦艦が必要になる。桁外れの防御力と火力を持つ戦艦はほかの攻撃では沈まない。
この時代においては航空機や誘導弾は非常に発展していたが、それでもなお航空攻撃で沈んだ戦艦は存在しない。副官の言葉はそれを受けていた。
しかし、彼女にはもう一つの予感があった。
ハッキリ言って彼女が本当に必要となるのは魔導砲を打つときだけだ。それは半世紀変わらない魔女の、星獣遣いの仕事だ。彼女の母もそうだったように。水上打撃戦が始まろうというときには、彼女は「やまと」の指揮所ではなく、砲撃制御魔方陣のある子宮にいなければならない。
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1994
5/13第二次皇海海戦 連合皇国艦隊壊滅
同日白虎平野戦車戦
5・9連合皇国 列島侵攻
1991
7/19バーラト争乱停戦
7/10バーラト湾にて合衆国空母「ユナイテッド・ステーツ」沈没
6/10バーラト争乱連合皇国軍事顧問団介入
1987
ぶつ切りっぽいけど続きます。
某作家みたいにはじめにプロローグで未来のことを書いたり、年表出しておけば打ち切ってOKとか考えていません