赤井流星 その15
「サンキュー、しばらく戻ってこねーかもだから、ちょい待っててくれ」
「了解です」
作業員を残して、戦車から下車。
雪道をザクザク歩いて、ドーム状の基地局に入ると、通路を進んだ後、奥の小部屋の扉を開けた。
「……っと」
真っ暗な部屋の足元に、ポッカリと大きな穴が開いている。
うっかり進んだら、あーれーっつって落ちちまう。
とはいえ、俺の考えじゃ、ここからダイブしても死にはしない。
この穴が魔族の世界に繋がっているんなら、境目に重力が発生していることになる。
だから、ここから落ちても、発生している重力の中心で止まって、身動きが取れなくなるだけだ。
「そこから這い上がるには……」
俺は、リュックから吸盤を取り出した。
こいつは、掴む所の無い壁面をよじ登るためのもんで、宇宙船の外壁が損傷した場合に使う。
ちなみに、手元のスイッチで、吸盤を付けたり外したりできる。
「さーて、行くぜっ」
俺は、穴に飛び込んだ。
「ひいいいーーーっ」
俺は、情けない声を出しながら、穴を落下していく。
よくよく考えて、絶叫系の乗り物とか超嫌いだし、バンジージャンプなんてもってのほかだったのを、今思い出した。
落下したかと思いきや、今度は飛び上がっている感覚。
そして、空中で静止して、また落下。
「い、いひぃっ」
どこから声が出てんのか、自分でもよく分からない。
子供が祭りで釣ったヨーヨーを激しく振り回してるみたいな状況で、脳みそがグチャグチャになりそうだ。
「……あれ」
数回、飛んだり落ちたりを繰り返す内に、完全に静止していることに気付いた。
「い、生きてたか…… うぶっ」
ものすげー吐き気に見舞われ、その場でゲロった。
そのゲロは丸い球体となり、その場にとどまる。
「……俺の考えは正しかったか」
平泳ぎで壁に取り付くと、手にした吸盤を貼り付けた。




