スラムの子供
慌てて口をつぐんだが、もう遅ぇ。
こうなったら、強行突破だ!
剣を両手で握ると、俺は一気に飛び出した。
トカゲ共の叫び声がする。
飛びかかってきたのは、黒いパーカーの奴。
俺は駆け出しながら、そいつ目がけ剣を横なぎに振るった。
「……なっ」
しかし、相手は前方宙返りでそれをかわし、俺を飛び越え背面へ。
振り向き様に剣を振ろうとするも、それより早く蹴りを食らい、地面に倒れ込んだ。
……ぐっ。
体がクタクタで、素早く起き上がれねー。
黒パーカーのトカゲに馬乗りにされ、首を締め上げられる。
ダメだ、抵抗できねぇ。
やられるっ……
その時、トカゲに何かが命中した。
ガラス瓶みたいなものが砕け、中の液体がトカゲの目にかかる。
「ギャアアアーーーーッ」
「くっ」
前のトカゲを蹴り飛ばし、這うようにして起き上がると、声が飛んできた。
「あんちゃん、こっちだ!」
声の方を向くと、ボロボロの服に、ボサボサの頭の子供が、手を掲げている。
俺は、無我夢中で、そっちの方に走った。
がむしゃらに剣を振り、トカゲの壁を突破。
「あんちゃん、絶対生きてると思ってたよ! さっきのは、アオガラシエキスの入った瓶で、目に入ったら、めっちゃ痛いんだ」
アオガラシってのは、恐らくトウガラシみたいなもんだろう。
さっきのは、お手製の催涙スプレーか。
つーか、それより気になるワードがあった。
こいつ、俺のことをあんちゃんって呼んだよな?
「一つ聞きてーんだが、俺はお前の兄貴か?」
「今更何言ってんのさ。 決まってんじゃん!」
なるほどな。
こいつに色々質問すりゃ、この体のやつの正体が分かる。
でも、そいつは後だ!
俺は、この子供から離れまいと、必死に走った。
走り続けると、ようやく森から脱出することができた。
俺は、剣を投げ捨てて地面に倒れ込んだ。
「はあっ、はあっ……」
「あんちゃん、そんなとこで寝ない方がいいよ。 うちまでもう少しなんだからさ」
家か。
確かに、こんな所で寝るより、一片風呂に入ってから、ゆっくり布団に包まりてー。
体に鞭打って、俺は立ち上がった。
「……あれっ、こっちじゃねーのか?」
建物の並ぶ大通りの入り口を避けて、人気の無い道へと歩いて行く。
「俺ら、お尋ねものだよ? 表通りを堂々と歩けるわけないでしょ」
「……お尋ねもの? はぁ!? 俺が何したってんだよ!」
子供は立ち止まると、くるっとこっちに向き直った。
「あんちゃん、どうしちゃったのさ。 森に入って、頭でも打ったの?」
体はお前の兄貴だけど、中身が別人なんて説明しても、混乱を招くだけだ。
ここは、一時的に記憶を無くしたってことにしとくか。
「……そーいや、森でトカゲに襲われて、頭打ったかもしんねー。 お前のことも、ここのことも、覚えてねんだわ。 だから、説明してくれ」
「えーーーっ、超面倒くさいじゃん!」
「まあ、そう言わないで、教えてくれよ」
子供は、渋々納得してくれたらしく、話始めた。
俺の名前はミナトで、こいつはヒロハル。
もう一人、モグって子供もいて、そいつらと3人で街の片隅にあるスラムで、盗みを働きながら生活しているらしい。
だが、そんな生活から抜け出すべく、20になったら受けられる兵隊の選抜試験に志願しようとしていた。
いつもみたく、森でトカゲ相手に剣の腕を磨いていたが、その日は戻ってこなかった。
「あんちゃん、いつまで経っても帰ってこないから」
「……」
俺は、しくじった。
こいつらの稼ぎ頭だってのに。
ヒロハルは、俺の手を引いて、こう言った。
「あんちゃん、兵隊になんかならないでよ! 俺、強くなって、魔物を倒せるようになるから。 そしたら、メタルを集めてそれで生活していけるから!」
「……」
こいつらのこと、放っておけねーよな……