カラスのメッセージ
日が昇ってきた。
昼間は相手から姿が見える分、動きにくくなる。
だから、夜の間に距離を稼いでおいた訳だが、その甲斐があったらしい。
「……街だ」
眼下に、街が見える。
まだかかりそうだが、確実に目標に近づいてい
る。
つっても、油断は禁物、こっからが本番だ。
俺は、辺りを警戒しつつ、木の裏から裏へと移動していく。
もしトカゲに見つかれば、仲間を呼ばれる。
このヘトヘトの状況で、街まで戦い抜く自信はねー。
「……っ!」
早速、一匹のトカゲがキョロキョロしながら徘徊してるのを見つけた。
このままスルーすべきか?
相手は後ろを向いていて、急襲のチャンスでもある。
悩んでいる暇はない。
逃げながら先に進めば、いずれ取り囲まれると判断した俺は、一気に駆けだした。
どういう訳か、習ったわけでもないのに、足音を立てないで足運びで、距離をつめる。
そして、剣を背中に突き立てた。
「ギャアアアアアーーーッ」
「……! やべっ」
絶対、声を聞かれた。
急いで離れねーと!
って、もたついてる間に、青いやつが走って来た。
「ギャアーッ」
「ギャアギャアうっせーんだよ!」
剣を構えたが、目の前にツタがぶら下がっている。
駆けだしてそれに掴まると、木の周りを周回して、トカゲの背後を取る。
「エッ」
「らあっ!」
その勢いのまま、剣を突き立てる。
今度は、入った所が良かったらしい。
一言も発さず、トカゲは息絶えた。
まともに戦って体力を消耗する必要はねーぜ。
トカゲの死体を踏み越えて、川沿いを下る。
すると、妙なものが道端に転がっているのが見えた。
「……何だ、ありゃ」
よく見ると、あれはカラスだ。
でかいカラスの死体が道端に転がっている。
仲間同士でケンカでもして、死んじまったのか?
そん時は、そんな風に思って、とっとと通り過ぎた。
だが、立て続けに2匹、3匹とカラスの死体を発見した。
「何だよ、薄気味わりーな……」
何かのメッセージか?
俺は、眉間にしわを寄せて、立ち止まった。
カラスは黒い。
俺も、黒のパーカーを着ている。
つまり、お前もこうしてやる、っつートカゲの伝言とも取れる。
「それなら、こうしてやるぜ」
俺は、黒いパーカーを脱ぎ捨てた。
あくまで可能性だが、相手は俺のことを「黒い奴」って認識している訳だ。
トカゲに人の顔の識別ができるとは思えないしな。
ツタを使った森特有の戦い方と、ふわりと着地する走り方で、順調に前進していく。
日が頭上に昇った頃、俺はトカゲの縄張りの境界線に辿り着いた。
木の裏から覗き込むと、色取り取りのトカゲがその一帯に集まっていたが、一匹、妙なやつがいる。
「俺のパーカーじゃねーか!」
そいつは、俺の投げ捨てたパーカーを羽織っていた。
オシャレトカゲか?
……って、やべっ!
俺は、大事なことに気が付いた。
あのパーカーのポケットに、コアを入れたまんまにしている。
コアがあれば、木の実を爆弾に変えて、場を混乱させることができた。
「ばっか野郎!」
思わず感情的になり、俺は地面を叩いた。
「……ギャ?」
トカゲが、こっちに反応した。