チズルサイド
私たちは今、並木通りを走っている。
あの茶色い猫は、すばしっこいけど、今回は相手が悪いわ。
私とヒロハルには、こんな悪名が付いているから。
スラムのブサハヤ(ハヤブサ)
それにしても、この辺りはさっきの場所とは違って、割と自然が多い。
木の上だから、当然といえば、当然かもね。
しばらく追いかけると、建物の密集した、ごちゃごちゃした一帯に到着した。
「ねーちゃん、猫、右に行ったよ!」
「了解、私らをここでまく気かも」
どうやら、ここは飲み屋街らしい。
魔族の人らが、酒らしきものを飲み交わすのが、チラと見えた。
私の住んでた森の街にもあったけど、それより建物と建物の間隔がずっと狭い。
「……っと」
「あっぶねぇな!」
通りすがりの人と肩がぶつかる。
私は、気付いたら右手に財布を持っていた。
悪いクセが出ちゃった。
でも、今更返せないから、貰っておこう。
「ヒロハル、出口に向かって!」
「オッケー、ねーちゃん」
私とヒロハルは、二手に別れて猫を追い詰める作戦に出た。
私が猫を追い込んで、声で合図を送ったら、ヒロハルが反対側から現れて捕まえる戦法だ。
この一帯は升目状になっている為、ジグザグ移動されると、すぐに見失ってしまう。
でも、私だって今までスラムで生きてきたんだ。
逃げるのは大得意だし、追いかけるのだって同じよ。
「まちっ、なさっ、いっ!」
「ニャーン」
それでも、単独で猫に追い付くのは難しい。
猫は人の股の下をくぐって、最速で通路を駆け抜ける。
私は、目の前に人が現れたら減速しなければならない。
それでも、どうにか猫を追って、広い通りにやって来た。
チャンス!
「ヒロハル!」
「待ってました!」
反対側に、ヒロハルが待ち構える。
挟み撃ち。
ジ・エンドよ。
と思った矢先、猫が身を翻し、宙を舞った。
「あっ……」
高くジャンプしたかと思うと、屋根の上に着地した。
……甘いっ。
私は、中腰になり、背を向けた。
ヒロハルが私の背を踏み台にしてジャンプ。
スラム流、二段ジャンプだ。
屋根の上によじ登ることに成功。
「ねーちゃん、下から追っかけて来て!」
「いいから、猫、追いなさい!」
ヒロハルが屋根の上の猫を追跡。
私も、ヒロハルの声を頼りに、後を追う。
すると、飲み屋街から抜け出し、今度はギラギラとした看板が目に付く場所にやって来た。
何やら、黒い服に、頭が金色の、格好つけた感じの男らが、そこら辺を徘徊している。
「何か、怪しい……」
ヒロハルがぽつん、と立っている。
「どうしたの? 猫は?」
「あの中、入っちゃった」
ヒロハルが指差した先。
それは、先ほど街を徘徊していた怪しい男達の看板を携えた、建物の扉だった。




