赤井流星について
「はあっ、はあっ……」
……逃げ切れたか?
トカゲが追ってくる気配はない。
聞こえるのは草木の擦れる音だけだ。
「助かった……」
俺は、思わず安堵した。
同時に、今までしまっていた感情が溢れてくる。
何で、こんな目にあってんだ……
俺は、ここに来る前のことを思い出していた。
俺は、いわゆる引きこもりだった。
高校までは、率先して友達なんか作らなくても、通ってさえいれば、それで卒業できた。
だが、大学に入ると状況が一変。
生徒の数が多い上に、毎回隣が違う生徒だ。
友達を作りたければ、サークルとか、自分から相手に話かけなきゃならない。
いつの間にか、俺はグループから孤立していた。
(居心地、悪ぃ……)
俺は、1年で大学を辞めた。
そこからはずっと引きこもりで、1年は親も何も言ってこなかった。
俺も、不安になるから、将来のことなんで出来るだけ考えないようにしてきた。
ところが、2年目に入ると、母親が将来のことをちょいちょい口に出すようになってきた。
「考えてるって、うっせーな」
そうやって毎回逃れてきたが、親の口調も日に日に強くなっていく。
「私だっていつかはいなくなるんだし、どうするのよ!」
「……」
何かが、ぷっつんした。
一番、憤りを感じてるのは俺だ。
分かってる、どうにかしなきゃいけないなんて。
でも、大学に入り直すにしても、専門に行くにしても、絶対、人と関わらなきゃならない。
俺と気が合う奴がいなけりゃ、また孤立する。
俺は、怒鳴り声を上げた。
「うるせーーーっ!」
テーブルをひっくり返して、家にあるものをめちゃくちゃにした。
ふざけんな、と叫んで、ドアを蹴破る。
こうすると、親は何も言わなくなった。
俺は、暴れてうやむやにすることを覚えた。
そんなある日、父親が部屋に入ってきた。
「流星、話がある」
「……」
いつもと違う感じがした。
平静を装ってはいるが、心臓がばくばく言ってる。
そして、
「家を出ろ」
「……」
ぐっ、と喉に何かがせり上がってきた。
泣きそうになるのをこらえ、父親を睨み付けた。
本当は、家に残りたかった。
明日から頑張ると、そう言いたかった。
だけど、出来なかった。
最後まで、つまらない意地をはって、こんな所までやって来た。
こんな所に来てまで、俺は引きこもりを続けている。
やりたくないことは、全部コピーの俺に押しつけやがった。
「……だったら、変わってやる」
ここで、生まれ変わるしかねぇ。
できなかったら、一生まともには生きていけないだろう。
クエストをこなして、俺にもできることを見つける。
そんな姿を、俺のオリジナルに見せつけてやる。
頑張れば変われたのにな、ってな。
「……!」
ごちゃごちゃ考えてる内に、気付いたら川沿いを歩いていた。
足の裏も痛ーし、元々体力ねぇから涙が出そうなくらい、しんどい。
だけど、オリジナルに見せつけてやる、という気持ち一つで、俺は歩き続けた。