アパート
熊手に掴まると、柄が縮み、体が宙を浮いた。
ヒロハル、チズルは俺の体にしがみついている。
「あんちゃん、頑張って!」
俺がこの熊手を離したら、後は想像通りだ。
助かる見込みはゼロだろう。
グングン上昇していくと、熊手が引っ掛かっている枝が見えた。
そして、天井と、そこに通じるタラップがある。
どーやってあそこまで行けばいい?
枝からはまだまだ距離がある。
「……うおっ!?」
ぐるん、と体が枝の周りを1周した。
「わあっ」
「きゃああっ」
そういうことか!
引っ張っても全然落ちてこなかったのは、引っ掛かってたんじゃなくて、枝に巻き付いていたからか。
俺たちは、2周、3周と回転した後、反動でタラップの方へと投げ出された。
ハンマー投げの弾じゃねーんだが!
「うわあああっ、ヒロハル、チズル、掴ま……」
ガシャアアアン、という音を立てて、激しく梯子にぶつかる。
くっ。
俺は、何とか手を伸ばして、梯子に掴まった。
「……ヒロハルッ!」
ヒロハルが、掴み損ねた。
「あんちゃ……」
「ミナト、ヒロハルが……!」
くそっ。
手を伸ばしても、届かねー。
「熊手、ヒロハルを助けろっ」
ダメ元で叫ぶと、熊手は言うことを聞き、伸びてヒロハルに巻き付いた。
「うっ……」
ぐん、と腕にヒロハルの体重が乗る。
だが、俺はどうにかこらえた。
腕、鍛えておいて良かったわ……
何とかヒロハルを助けて、タラップを上り、マンホールのようなフタを開ける。
そこから這い上がると、目を見張った。
「……すげぇ、人混み!」
そこは、俺の住んでいた世界とそっくりの、都会。
ビルが乱立し、縦横無尽に人が歩いている。
「わっ、すいません」
「ど真ん中で邪魔なんだよ!」
向こうから人(魔族)が歩いてくるため、俺たちは一旦、道の隅へと移動した。
「さすが魔族の街ね…… それより、どうやってスラッシュさんの家族、探すの?」
「家族を探すには……」
俺は、剣を引き抜いて、一礼して素振りした。
剣先から猫が飛び出す。
これは、招き猫か。
「ニャーン」
栗色の猫はそのまま人混みへと紛れた。
「あっ、後追わなきゃ!」
せっかちな猫だ。
俺たち3人は、猫の後を追った。
……つか、見失った臭いな。
「……ん?」
俺たちを挟んで、左右に2匹、同じ種類の猫がいる。
猫は、示し合わせたかのように、それぞれ反対側へと走り出した。
「ミナト、私とヒロハルで右のを追うから、左の追って!」
俺が止めるより早く、2人は右に駆けだした。
馬鹿ヤロ……
しかし、迷ってる暇は無かった。
俺は、左の猫を追った。
猫を追って、たどり着いたのは、住宅街。
その中の、ボロいアパートにある102号室の前で、猫が鳴く。
すると、煙になって消えた。
「……こっちが招き猫だったか」
多分、そうだよな?
向こうが心配だったが、とりあえず、102号室の扉をノックした。
すると、一人の女性の声が、返ってきた。




