掃きだめの街の頭
俺らの目の前に現れたのは、人。
だが、顔がやたら毛深い。
つーか、オオカミだ。
人型のオオカミ。
「おめえら、匂いが違うな。 まさか、人間か?」
「だとしたら、どうする?」
すると、オオカミ男はガッハッハ、と声を出して笑った。
「マジで、人間かよ! どうやってこっちに来たんだ? まあ、こっちに来て話しようや」
オオカミ男は、そう言って向こう側へと行ってしまった。
「……どうすっか?」
「後、ついてってみようよ」
あの様子からして、敵っぽくはねーな。
とりあえず、話が通じる相手なら、色々教えてもらえるかも知れない。
俺たちは、男の後を追った。
オオカミ男は、ブルーシートの屋根の部屋で暮らしていた。
完全、ホームレスだわ。
「汚くてすまねえな。 適当にあぐらかいてくれや」
確かに、客人をもてなすような部屋じゃない。
俺は、さりげなく床に散らばったゴミをどけて、あぐらをかいた。
「……で、あんたは何者なんだ?」
「俺の名前は、スラッシュだ。 この掃きだめの街の頭ってとこか」
掃きだめの街。
スラッシュが言うには、ここはゴミ処理場であり、同時に罪を犯した魔族の監獄の役割を兼ねているらしい。
魔族の世界にもちゃんと法律があって、犯罪者はそれに則って裁かれるらしいが、もっとも重い罪を犯したものは、死刑か、姿を獣に変えられて、ここに落とされるらしい。
「魔族だったころの記憶を持ってんのは、俺だけになっちまった。 上の世界で、誰かが自分のことを覚えていてさえくれれば、見てくれはこんなんだが、犬畜生に成り下がることはねえ。 だが、それも時間の問題だがな」
「誰かが、あなたのことを覚えてくれてるの?」
「家族がいんだ。 俺がこっちに来てから、もう10年も経っちまったから、ガキも嫁さんも、俺のこと、そろそろ忘れちまうんじゃねーかな」
ふっ、と自虐的な笑みを漏らすと、よくわからない飲み物を口に運ぶ。
「戻りたくはないの?」
「簡単に戻れんなら、監獄にはならねーだろ。 でも、トライしてみたことはあるぜ」
スラッシュは、一度、このゴミ溜めの中から、プロペラと車のエンジンを見つけてきて、手製のヘリコプターを作ったことがあったらしい。
だが、所詮手作り。
10センチくらいしか宙に浮かなかったらしい。
「ま、そういう物づくりのセンスは俺にはねーってことだ」
また、ガハハ、と豪快に笑う。
「……つか、それじゃ困るんだよな。 何とかして、上に行く方法はねーのかよ?」
「上の世界を支えてんのは、世界樹だ。 その世界樹をよじ登れば、上に行けるハズだぜ」
船から見えた、この島の軸の部分。
リンゴの芯みたいなアレは、世界樹っつー、バカでかい木だったのか。
「そういえばさ、何で俺たちを見て驚いたの?」
ヒロハルが、質問を投げかける。
「俺ら魔族には、角がある。 その角は、魔力を発信したり、受信したりするんだが、たまに別世界の映像を拾うことがあんだよ。 つまりは、夢ん中で、お前ら人間の世界を覗けんだ。 それで、存在は知っていたが、どっからそっちに行けるかってのは、誰も知らねえ。 だから、俺たちはお前らの世界を楽園って呼んで、いつか行ってみてーなー、みたいな憧れを抱いてるっつーわけよ」
……だから、俺ら人間を見つけて、感嘆したってわけか。
魔族は俺らの世界を知らないって言ってたが、必ずしもそうじゃない。
見つけた奴が、こっちに紛れ込んで来てるのが現状だ。
「世界樹を、登るしかねーみてーだな」
俺は、立ち上がって、そう言った。
「やめとけ、骨折り損だぞ」
「まあ、見てろよ」
俺は、背負っていた剣を引き抜いて、一礼して素振りした。
すると、剣先からあるものが飛び出した。
「なんだ、これ」
……熊手?




