反転
何やかんやあって、俺らは真っ暗な海を進んでいた。
「おじさん、どうなったのかな?」
ヒロハルが船の後方で、手すりに掴まりながら呟いた。
「わかんねー、何も見えねーし」
ヒロハルに並び、船が沈んだと思われる方向を見やる。
海は不気味な静けさで、戦いが行われている気配はない。
「……まあ、おっさんだし、心配は無用だろ」
「……だね」
おっさんだから大丈夫っていう根拠は1個もねーんだけどな。
でも、現状魔族が追ってくる気配はない。
「ねぇ、アレ!」
その時、舵を握っていたチズルが叫んだ。
俺も船の前方へと移動する。
「おいおい……」
ぽっかりと空いた穴。
そこに、この船が突っ込もうとしている。
「大丈夫なんでしょ?」
「……のハズだけどな」
流星の話じゃ、このまま穴に突っ込めば反転して魔族の世界に行ける。
だが、それは常識的とは言えない。
頭がおかしな奴以外は、やろうとはしないだろう。
「いいの? いっちゃうよ?」
「……」
やるしか、ねーよな。
もし、この穴の先が冷たい地面だったら……
そん時は、化けて出てやるか。
「面舵一杯! 穴の先に、飛び込めっ」
「アイアイサー!」
チズルが敬礼をして答える。
船は、真っ暗な穴へと飛び込んだ。
「あんちゃん、目、開けて」
俺は、ナンマンダブツナンマンダブツと唱えながら、デッキの上で手を合わせていた。
「……はっ」
辺りを見回すと、チズル、ヒロハルが俺に冷めた眼差しを向けていた。
「面舵一杯! とか、格好つけてたクセに」
「う、うるせー! それより、魔族の世界に来れたのか?」
周りに広がるのは、黒い海。
特段、何かが変わった気配はない。
「どうなんだろ…… でも、あそこ」
ヒロハルが船の針路を指差す。
よく見ると、無数の光の点々が、はるか先の方に見える。
「街か」
俺はこういう景色を見慣れていた。
あれは、電気の明かりだ。
俺の元いた世界並に、こっちの世界も発展してるのか?
チズル、ヒロハルはこういう景色を見たことが無いためか、めちゃくちゃでかいランタンの明かりかな? とか言っている。
「説明しても分かんねーだろうけど、あれは電気の明かりだよ」
「デンキ…… オーロラのこと?」
……そういや、オードリーがオーロラの光のことを放電現象っつってたな。
オーロラと電気はイコールではねーだろーけど、説明できねーわ。
「まあ、そう思っといていんじゃねーかな」
「オーロラを瓶の中とかに入れるのかな?」
「違うわよ。 オーロラを切り取って、窓とかに貼ってるのよ」
……全然ちげーし。
ただ、質問されても答えらんねーから、俺は黙ってその会話を聞いていた。




