故郷
この世界の街には、それぞれ神社みてーな場所が設置してあるらしい。
街の安全祈願ってとこか。
もしかしたら、この街を興した奴らん中に、俺らの星出身者がいたのかもな。
「はあ、結構登るね」
神社は、スノーポイントの一番端にあって、階段を登らねーと、そこには辿り着けない。
「ジャケット、いらねーな」
外気は冷たいが、汗が滲む。
ようやく、最後の一段を登り終えた。
目の前には、寺とかで見慣れた木造の建物。
更に、賽銭箱と、上からつるされた縄がある。
「みんな、願い事は決まってるわね?」
当然、無事に帰ってこれるように、だ。
「ああ。 じゃ、1シルバー、入れるぜ」
3人それぞれ、1シルバーのコインを投げ入れると、2礼2拍手をして、目をつむる。
俺ら3人とも、ぜってー、無事に帰って来れますように。
願いを伝えると、俺は目を開けて、後ろを振り返った。
眼下に映るのは、スノーポイント。
「……」
森の街でカスガさんが言ってた、この街を立ち上げた人らの苦労。
魔族のやつらから、この街を守る意義は、大いにあるハズだ。
「あんちゃん」
「……何だよ」
「ちゃんと願い事した? やらしいこと、考えてたらダメだよ!」
「ばっ、馬鹿ヤロ! お前こそ、今年こそ彼女できますように、とか考えてたんじゃねーだろな?」
ヒロハルは、そ、そんなこと考えてないし! と何故か慌てた様子で答えた。
……人に振っといて自分が一番やましいじゃねーか!
「……2人とも、魔族の恋人でも作ればいいのよ」
チズルが後ろから、シラけた目線を投げかけてくるのを感じる。
結局、俺も巻き添えかよ。
「俺はちゃんと願い事したっつの。 それより、港町に行く前に、どこか寄ってきてーとこ、あるか?」
港町にはおっさん船長が向かっていて、先に船の手配を済ませておくらしい。
だから、到着次第すぐに乗船することになる。
「んー、強いて言うなら、カスガさんのとこかな?」
カスガさんか。
身寄りの無いこいつらには、カスガさんが父親みてーなもんだ。
「じゃあ、カスガさんに挨拶してから、港町に向かうか」
馬車を使って、森の街に下車。
大通りを歩いて、ツリーハウスを目指したが、そこに人影は無かった。
「みんな、スラムの方かな?」
スラムに向かうと、焼けて無くなっちまったかつての住まいの跡地に、筋肉質な職人らが出入りしていた。
「新しい家を建ててんのか」
木の柱で骨格が作られており、着実に工事は進んでいるみたいだ。
しばらく眺めていると、カスガさんが現れた。
日に焼けていて、こういう作業がいかにも似合っている。
「あっ、カスガさん、久しぶり!」
「ミナト、チズル、それに、ヒロハルか! 元気そうだな」
この後、スラムの様子を聞いて、魔族の都市に向かうことを説明。
すると、カスガさんはチズルの方を見やった。
「……」
「どしたの?」
「随分、明るくなったな」
そういえば、チズルは住まいが燃えた時、私も殺してよ、的な発言をしてたな。
カスガさんから見たら、昔と今とじゃ、言ってることが真逆だ。
「……毎日忙しくて、死にたいとか考えてる暇無くなっちゃったのよね」
てへ、とチズルははにかんだ。
暇な時間があるから、余裕なことを考えちまう。
今は大変だけど、それを乗り越えながら生きてる。
だから、自然と前向きになれてるんじゃねーかな。
「……気を付けて行ってこいよ」
挨拶を終えると、俺たちは馬車亭へと向かった。




