説得
声の主は、おっさん船長だった。
扉の裏に隠れて、俺らの話を盗み聞きしていたらしい。
キモイんだが。
「俺もその旅に同行していいか? お前らの保護者としてな」
「……いやいや、ドラゴン観光の方が忙しいでしょ」
「そっちはイッテツさんに任せてあっから、俺は手があいてんだ」
おっさん船長は、目をキラキラさせながら、行っていいだろ、なあ、なあ? とすり寄ってくる。
「いや、エンリョ……」
「俺の知り合いに、船を持ってるやつがいんだ。 な、頼むって!」
……!
船を持ってるってのは、でかい。
こいつ、保護者よりか、今は変質者に近いが、ここは利用しておいた方がいいか?
「船持ってんだったら、借りろよ。 チャンスじゃねーか」
流星の奴もそう言ってる。
……しゃーねーな。
「分かったよ。 つか、何でそんな旅に同行したがんだよ」
「何でって、俺は冒険者の端くれだぜ?」
要するに、ただの冒険バカか。
何か企んでるわけじゃなさそーだし、まあ、連れてってやるか。
「……あれ?」
気が付くと、部屋には流星の姿がなかった。
いつの間に帰りやがったんだ、あいつ。
……結構、人見知りだからな。
「ヒロハルとチズルんとこ、行くか」
病室から出ると、風が冷たい。
俺は、ジャケットの襟を立てて、ヒロハルらの泊っている宿に向かった。
その時、向こうから知ってる女がやって来た。
チズルだ。
何か、久々会った気がする。
「……よう」
俺は、目線を落として返事をした。
顔を直視するのがハズい。
多分、あの夢を見たせいだわ。
「ケガは大丈夫なの?」
「ああ、何事もねーっつか、ダイジョブだ」
俺は、腕をぐるぐる回して、健在なのを示した。
「てか、ちょっと話があんだ」
道の端に移動して、魔族の街に行く話をした。
チズルとヒロハルは、いつも俺の後をついて来るし、簡単に説得できるもんだと思っていた。
ところが……
「……それって、危ないんじゃない? 私は、やめた方が良いと思う」
マジかよ。
そういや、ずっとブタの墓参りしてるっつってたな。
これ以上、危険な目に会いたくないってことか。
「あなたもヒロハルも、死ぬような目に会ってほしくないのよ。 帰ってこれる保証だって、無いんでしょ?」
確かに、安心安全な旅ではない。
おっさん船長(変質者)もいるし、目的地は魔族だらけ。
無事に帰ってくるっつー保証なんて、できねー。
「……保証はねえけど」
願掛けなら、できる。
俺は、背中に携えていた剣を抜いた。
うまくいけば、あの縁起物が出てくるはずだ。
「これ、十福神の剣っつって、おみくじが引けんだ」
「おみくじ?」
流星に言われた通り、一度礼をしてから、剣を振る。
すると、狙い通り、剣の先からあるものが飛び出してきた。
「ゲコ」
緑色の、ちっさいかえる。
無事かえる、だ。
「ゼッタイカエル、ゲコゲコ」
「どうだ?」
「……」
どうだと言われても、みたいな顔でこっちを見ている。
……これは滑ったか。
チズルは、握った手を口元に当てて、ぷっ、と笑った。
「何が、絶対帰るよ。 はあ…… だったら、もっとちゃんとした所にお参り、行きましょ」




