救世主
「ゲエエエエエエエーッ」
「うわあああああっ」
驚いてのけ反った瞬間、引き倒された。
右足に何かが絡みついて、そのままズルズル引きずられていく。
俺は、背負っていた剣を握り、振り下ろした。
ギャアアッ、という耳障りな声。
尻尾が切れ、やつはそのまま闇に消えた。
「待ちやがれっ、おわっ!?」
体が坂を転がっていく。
「うぶっ」
頭から泥に突っ込んじまった。
つーか、また沼地かよ。
トカゲの耳障りな声が、そこら中から聞こえてくる。
……俺は、ここに誘い込まれたのか?
だとしたら、かなりやばい。
「来るんじゃねええええーっ」
俺は、ところ構わず剣を振った。
さっぱり相手の姿が見えねー。
逆に、相手からは俺が見えてんのか?
だとしたら、無様に踊ってるように見えてるハズだ。
体力が消耗した所を狙う気か?
まだ生まれて一日しかたってねーのに、ここで死ぬのか?
ふざけんなっ!
とか何とか言ってるうちに、息が上がってきた。
「はあっ、はあっ……」
剣を担いで振り下ろすのも、きつい。
つーか、こんな振り回してるだけの剣、当たってもかすり傷にしかなんねーよ。
時間の問題か?
流星の野郎、あいつは今頃、ゲームでもしてんのか?
もしかして、俺は何体目かのコピーで、死んだらまた新しいのを作ればいいや、とか思ってんじゃねーだろーな……
「くそがっ」
イラついて振った剣が、固いものに当たった。
金属音がして、火花が散る。
一瞬、白い球体が浮かび上がった。
「オードリー!? お前、何でここに……」
「今ハ、敵ヲ退ケテクダサイ」
オードリーが光りを灯すと、数匹のトカゲが見えた。
やっぱり、囲まれてやがったか。
すかさず剣を振って、相手を斬る。
ギャアッ、という断末魔と共に、生暖かい血がかかる。
俺は、意識を保つために声を張り上げ、剣を振った。
苦しいが、ここが正念場だ。
「トカゲハ、目ハイイデスガ、夜目ハキキマセン。 肌色ヲタヨリニシテイルノデショウ」
肌色って、俺の肌のことか。
なら、パーカーで顔を覆っちまえばいい。
「ヒカリヲ消シタラ、走ッテクダサイ。 川シモニ、街ガアリマス。 夜ノ内ニ、デキルダケ距離ヲカセイデクダサイ」
「お前は、どーすんだよ!?」
「アトデ、タスケテクレレバイイデス」
「……」
こいつに、助けられるとは。
いや、まだ包囲を抜け出せたわけじゃねーし、街に辿りつけなきゃ意味がない。
オードリーが光を消したのを合図に、俺は坂を一気に駆け上がった。