夢の中で
「誰だ?」
俺が起き上がろうとすると、チズルが言った。
「居留守決め込みましょう」
……いいのかよ。
起き上がるのもダルいし、このままでいいか。
しばらくして、またノックの音が聞こえた。
「……何だよ」
「出なくていいわよ」
一体、何の用だよ?
まどろみそうになるタイミングで、ノックが聞こえる。
くそ、先に要件済ませちまった方がいいか。
「ねえ、行かなくていいわよ」
「すぐ済ませっからよ」
立ち上がって、扉に向かう。
ノブをひねると、見慣れた顔が現れた。
「あ、あんちゃん」
ヒロハルか。
「どうした、何かあったか?」
「何って、物語が途中なのに、こんなとこで道草食ってていいの?」
何のことだ?
物語?
わけわかんねーって。
「分かるように言えよ」
「このメタリックファンタジーが、まだ途中だって話だよ。 せっかくブックマーク付いたのに、このまま進めないつもり?」
……メタリックファンタジー?
ブックマーク?
俺の頭の中は、ハテナだらけになった。
「なあ、余計分からねーよ。 何なんだよ、それ」
「あんちゃんの話を、見てくれてる人がいるって話だよ。 それなのに、もうやる気なくなっちゃったの?」
俺の話?
……何となく、分かって来た気がする。
これは俺の物語だ。
ヒロハル曰く、こんな俺が主人公の話でも、見てくれてる人がいるって話だ。
「ありがてーよ。 こんな話でも、見てくれる人がいるってのは」
「じゃあ、起きて話を進めてよ」
灌漑深いもんあがる。
何をしても失敗ばかりで、うまくいかねー話なのに、見てくれる奴がいる。
もっと、天才が活躍するそう快感のある話なら、いくらでもあるハズだ。
それでも、この話を見たいのかよ。
「この先も、うまくいく保証なんてねーぞ?」
「……そりゃそうでしょ。 人生なんだし」
……そうだ。
これは、人生だ。
仕組まれた物語じゃない。
「この先、もっとロクでもないことが起こるかも知れねーのに」
「それをどうやって乗り切るのか、みたいんだよ」
これを見てる奴は、俺の幸せなんか望んじゃいない。
俺がここで幸せな気分でいれたら、俺はそれでいいかも知れない。
だけど、そうじゃねー。
俺は、この物語の主人公だ。
この先辛いことが起きようが、そこに身を投じていかなきゃならない。
「覚悟はいい?」
「ああ、読者のために、な」
俺は、扉を開け、外に出た。




