南の島病院
ダメージを数値化して表示される動画を見て、イーダは驚愕した。
そして、次の瞬間、画像は途切れた。
「……何かで撃ち落とされたみたいッスね」
この映像、上空を飛来するタカの目を通して送られていたが、光の追尾レーザーによって、迎撃された。
「地上にある技術じゃなくないスか? 俺のHP、980なんで、かすっただけでも結構やばいッスよ」
「ああ、計画に支障がでる程度には、な。 この球体をどうにかしなければ、地上を手に入れることは難しい」
今まで、圧倒的な戦力差がありながら、地上を手にできなかった理由に、ドラゴンの存在があった。
追い詰められて、人間がなりふり構わずドラゴンを解放した場合、地上は未曾有の戦場と化す恐れがあった。
そこで、この侵略推進部は、先にスノーポイントを落とし、拠点を奪うことで、ドラゴンへのアクセスを封じる手に出た。
ここまでは良かったが、オードリーの出現によって、この脅威への対処を余儀なくされた。
「一度、地上に出て、この球体を奪還する」
アーロの下した決断。
それは、直接地上に乗り出し、オードリーを奪う、というものだった。
「うっ……」
ここは、どこだ?
何か、左右から生ぬるい風を感じる。
起き上がって見渡すと、白いローブを着た女が2人、両脇から団扇をあおいでいた。
「お目覚めになられましたか」
「どこだよ、ここ」
「ここは、スノーポイントから北に位置する、南の島病院です。 あなた様は、シロクマとの戦いで傷を負われ、気を失っていたのでございます」
……北にあるのに南の島かよ。
確かに、エキゾチックな雰囲気があるし、南の島っぽいけどな。
あの時、角を頭から生やした奴を見かけて、何だこいつ? みたいに思ってたら、オードリーが俺の肩を見てこう言った。
「お前、その傷でよく平気だな」
周りの出来事に気を取られていた俺は、指摘されて改めて肩を見た。
「……うぷっ」
中の肉がむき出しで、肩が血に染まっていた。
俺はそこで、気を失ったんだ。
団扇をあおいでいた巨乳のお姉さんから、鍵を貰う。
「こちらがあなた様のお部屋でございます」
「501号室か」
そこが俺の病室らしい。
1階にはドリンクバー的なものがあり、リンゴジュースをコップについで、部屋へと向かった。
階段を上っていると、聞き覚えのある声を耳にした。
「よう」
……ボウズ?
「おめーも、ここにいたのかよ」
「ああ、俺も深手を負っちまってよ。 しばらく、ここにお世話になることになりそーだわ。 ところで、お前の部屋、何号室だ?」
まさか、部屋まで競争だ、とか言い出すんじゃねーだろうな?
リハビリ中だっつの。
「教えねーよ。 じゃーな」
俺は、そそくさと階段を上がっていった。
501号室に入ると、またしても予想外の光景を目の当たりにした。
「おかえりなさい、あなた」
チズルが、なぜか501号室にあるソファでくつろいでいた。
「何でお前がいんだよ」
「何でって、ひどくない? お腹に赤ちゃんいるのに」
「……はあっ!?」
どういうことだよ!
俺は、赤ちゃんができちまうような行為を、こいつとした覚えはねーんだが……
でも、よく見ると、腹が膨れてるし、マジで妊娠?
俺の子供なのか?
「ケガが治っても、しばらくここにいていいみたい。 お金なら、いくらでもあるし」
「いくらでもって、俺とお前の金、あわせてもせいぜい100シルバーだろ?」
基地の修繕で50シルバー。
2人合わせて100シルバーだが、いくらでもあるってのは大げさだ。
まあ、チズルが貯金してたのかもだが。
だが、俺の予想は外れた。
「オードリーが1万シルバーで売れたのよ。 だから、生活にはもう困らないわ」
オードリーを売っただって?
あんな奴、売れんのかよ。
AIの機能を外してくれんなら、500円くらいの価値はあるかも知れねーけどな。
しっかし、急展開だ。
仕事から離れて、こんな楽園みてーな所にこれるとは。
今までずっとしんどかったし、罰は当たらねーか。
「なあ、ちょっと膝枕してくれねーか?」
「いいわよ、こっち来て」
……簡単に承諾されたんだが。
怪我が完治して、冒険を再開できる自信ねーわ。
もう、ずっとここにいていいんじゃねーか?
うっとおしいオードリーのやつもいないしな。
俺が、膝枕でくつろいでいると、扉をノックする音が聞こえた。




