コア飛来
しばらくして、ようやくブタが清掃作業に加わった。
「おっせーな、そんなたくさん穴開いてたのかよ?」
「違うよ、オードリーがさ、ほんの少し痛んでる壁も直せって。 僕、キレそうになっちゃったよ」
あいつ……
監督気取りはいいが、ちょっと完璧主義すぎるだろ。
どんなに頑張ったって、報酬は50シルバーだ。
そんなことを言ってる内に、オードリーが中に入って来た。
「なんだなんだ、全然汚れ落ちてねーぞ! メロンパン、こっちやり直しだ」
……あー、うっぜ。
ああいう監督気取りが、一番厄介だ。
「そっちはそれ以上落ちねーよ」
「いいから黙ってやれ。 お前は奴隷なんだからよ」
オイルぶちまけて、もっかい漏水させてやろうか?
俺は、そんなことを思いながら、半ばやけになって床を磨いた。
作業が終わったのは、外がだいぶ暗くなってからだ。
オードリーは、明かりをつけてでも作業しろと言ったが、おっさん船長に止められた。
「これ以上は、外が吹雪いて寒くなる。 作業は継続できねーから、終わりだ」
助かったぜ。
オードリーは、相変わらず無表情だが、何か言いたげな顔をしているようにも見える。
ま、ここのリーダーが中止っつーなら、中止だ。
俺たちは雪かき丸に乗り込んで、来た道を引き返した。
その道中だった。
「大変、見て!」
声を上げたのは、チズルだった。
またオーロラか?
そう思ったが、声の様子からして、もっと危機的な何かのように思えた。
「えっ……」
ブタも、目を見開いて固まっている。
「俺に見せろ!」
俺は、ブタを押しのけて、窓の外を見た。
「……何だ、ありゃあ」
流れ星か?
赤い隕石のようなものが、尾を引いて、夜空から地面に向かって飛来している。
「違う、あれは、メタルだ」
おっさん船長が言った。
そして、次の瞬間、物凄い轟音が鳴り響き、地面が揺れた。
「うっ」
30センチくらい、ケツが浮いたんじゃねーか?
チビは、体が軽い分高く浮いたらしく、頭を抱えていた。
「いてて…… 天井に頭ぶつけました」
そんな中、オードリーがLEDの明かりを点滅させて、お祭り騒ぎみたくなっている。
「コア飛来! コア飛来! 現地に急行せよっ」
確かに、落ちたのはここからかなり近い場所のハズだ。
「船長、どうする。 メタル、回収しに行くか?」
「予定外だが、これはチャンスかもな。 落ちたメタルがでかければ、俺らで山分けだ」
うまく行けば、宇宙船を飛ばせるだけの分を、ここで回収できちまうかもだ。
胸が早鐘を打っている。
落ち着け、俺。
「よし、進路変更だ!」
船長が舵を切る。
雪かき丸は、態勢を右斜め45度変更し、飛来したメタルの元へと向かった。
「こんなチャンス、めったにねーだろ」
「僕ら、億万長者になでっ」
ブタがしゃべってる途中、船がガクン、と揺れた。
それと同時に、雪かき丸の速度が上がる。
「え、何が起きたの?」
ぐんぐんスピードが上がる。
これは、斜面を下っている!?
「まずいっ、みんな、捕まれっ!」
船長が叫んだ。
捕まれって、どこに捕まりゃいいんだ?
俺は、わけがわからず、頭を抱えて床に丸くなった。
そして、ふわり、と体が浮く感覚。
雪かき丸ごと、どこかに落ちたのか?
「きゃああああああああああっ」
「うわああああああああああああっ」
何度か壁に激突して、ようやく収まった。
「……みんな、大丈夫か?」
どうやら、船ごと、雪原の裂けめに落ちちまったらしい。




