別れ
「マデエエエエエエエ」
「うわあああああああああっ」
俺は全力で太刀ゴブの背を追ったが、間に合わねー。
誰か、いねーのか!?
「フォローーーっ!」
俺は叫んだ。
誰でもいい、ヒロハルを助けてくれっ。
太刀ゴブが刀を振り上げる。
もうだめか?
すると、刀に何かが命中した。
「チッ」
飛んできたのは、矢だ。
それが弾けて、地面に刺さった。
JDの矢のおかげで、太刀ゴブの足が一瞬止まる。
「てめえの相手は、俺だっ」
俺は、剣を掲げて、太刀ゴブに振り下ろした。
相手もすぐ反転。
刀でガードされたが、俺はめげずに連打。
更に、ガリクソンが斬りつけた脇腹を、柄で殴りつけた。
「グフッ」
思いっきり顔を歪める。
これは効いたか。
「おらおらおらっ」
何度も殴りつける。
剣を持った手で、顔だろうが脇だろうが、お構いなしに殴り続ける。
とうとう、相手は膝をついた。
「はあっ、はあっ……」
くそ、殴るのに夢中で、息が上がっちまった。
これからとどめだってのに、力が入らねー。
そんなことをしている内に、相手は立ち上がって太刀を握りなおした。
「くっそ……」
「わああああああーーーっ」
いきなり、太刀ゴブの背後に誰かが突進してきた。
ブタだ。
こいつの存在を完全に忘れてた。
太刀ゴブの背には、剣が突き立てられた。
「…………」
太刀ゴブは一言も発さず、太刀を手から離す。
死んだみてーだ。
「まだ、終わってねぇ!」
休憩してる暇なんてねえ。
次は、ボーガン使いの方だ。
だが、そっちはもう戦闘が終わっていた。
俺が向かった頃には、ボーガンゴブは、チズルの短剣で首の頸動脈を切られて、息絶えていた。
「ハナ、大丈夫!?」
チズルが叫んで、JDの方へと走った。
JDは、ヒロハルを援護するため、太刀ゴブに向けて矢を放った。
その隙に、ボーガンを肩に食らっちまったらしい。
「すまねえ、助かった」
「いだだ…… みんな、平気?」
JDは、自分で矢を引き抜くと、布で肩を巻いた。
なんか、たくましいな。
戦闘は終わった。
負傷者はボウズ、JDで、ボウズは今、馬車で横になっている。
「……」
ガリクソンは、死んだ。
俺たちは、ガリクソンの死体を埋葬してやることにした。
手斧で地面を掘り起こして、そこに体を横たえる。
土をかぶせ、みんなで探した手頃な石を、そこに置く。
「お前に助けられたわ。 ありがとうな」
「ありがとう」
俺とヒロハルは、石の前に手を合わせた。
「これ、天国に行く間に、食べてよ」
ブタが、持ってきたワッカケーキを石の前に添える。
「これも持って行って下さい。 道中、退屈でしょうから」
チビは、自分の本を添えた。
JDは、荒野に咲いていた花を摘んで、そこに添えた。
「ごめんね、あげれるもの、なくて」
最後に、チズルが石の前に歩み出た。
「私は、歌を」
チズルは、胸に手を当てて、空に向かって歌い始めた。
私は今、南のひとつの星を見上げて誓った
どんな時も、微笑みを絶やさず歩いて行こうと
あなたを思うと、ただせつなくて、涙を流しては
星に願いを、月に祈りを捧げるためだけに生きていきたい
だけど今は、あなたへの愛こそが、私のプライド
どっかで聞いたことある曲だ。
俺も、ガリクソンのことは忘れねーよ。
ふと、空を見上げると、雪が降っていた。
まるで、舞い散る桜のみてーだ。
この先はスノーポイント。
俺たちは、ガリクソンに別れを告げて、先へと進んだ。




