戦闘開始
「おっ、一発芸でもやんのかよ?」
ボウズがそう言うと、ガリクソンが指を口に当てて、ピューッ、と音を立てる。
おめー、そんなことできんのかよ。
「えっ、いやっ」
「やめなさいよ男子、ミニーが困ってるじゃない!」
ここは一体どこ中だよ……
てか、JDもチビに勝手なあだ名付けてやがる。
「おい、お前ら静かにしろよ。 これからこいつ、重要な話すんだからよ」
ブタは興味なさそうに、剣を鞘から出したり戻したりしている。
チョークがあったらぶん投げてんぞ。
「ご、ごほん。 えーと、ですね。 これから僕らは野党ゴブリンと戦うことになりますが、相手がどういった特徴を持っているか、というのを話たいと思います」
野党ゴブリンは3匹。
手斧と盾を持ったゴブリン、太刀を持ったゴブリン、弓を持ったゴブリンとのことだ。
「こっちは8人いるので、一匹につき2人以上で挑めばいいかと」
「あん、ゴブリンなんて俺一人で十分だって」
ボウズは自信満々そうに、言った。
「少しでもリスクを下げないと」
「それなら、他の奴らが勝手に合わせろよ。 俺、連携とかあんま得意じゃねーし」
確かに、昨日今日あったやつらと連携なんて、簡単には取れないだろう。
俺だって、やったことねーし。
すると、チズルが手を上げた。
「あなたが状況に応じて指示、出したら?」
「それでもいいですが……」
どうすっか。
戦う前に、チビの言うことに従うみたいなルール作っといた方がいいか?
「多数決で決めっか」
俺は指示なしの方に手を上げたが、結果的に2対6で、指示アリの方に決まった。
まあ、確かに、パニックになった時とか、冷静に物事を考えてくれる奴に従った方がいいかも知れない。
昼食を終え、俺たちは更に渓谷の先へと進む。
野党ゴブリンの出現ポイントまで来ると、さすがに無駄話をする奴はいなくなった。
道幅が10メートルくらいしかなさそうな、うねった断崖の道を進む。
左は崖、右は傾斜のきつい坂だ。
「……」
その時、カラカラ、と小石が斜面から落ちて来た。
坂を見上げる。
ゴブリンが3匹、こちらを見下ろしていた。
チビの言う通り、一匹は手斧と丸い盾を携えており、もう一匹は2メートルくらい長い太刀を背負っている。
そして、もう一匹は、ボーガンを抱えていた。
「敵襲っ!」
俺が叫ぶと同時に、みな、エモノを構える。
手斧ゴブリンと、太刀ゴブリンの2匹が坂を駆け下りて来た。
「おらあああああああああ」
かけ声を上げながら、ボウズが走り出す。
「おまっ」
「100シルバーは、俺のもんだっ」
早速、指示に従わないで、単独行動に出やがった。
坂を下り切った手斧ゴブリンに向かい、斧を振り下ろす。
ガアンという音がし、ボウズの斧は盾で受け止められた。
「……!」
「ギエエエエエエエエ」
飛び出すのが早すぎたせいで、間に合わない。
次の瞬間、ボウズの肩から血が噴き出した。
相手のゴブリンをよく見ると、俺がイメージしていた、猫背の醜い魔物とは全く違う、引き締まった筋肉の、戦士風ゴブリンがそこにいた。
身長は、俺と同じくらいあんじゃねーか?
戦闘不能になったボウズを押しのけ、こちらに向かってくる。
俺は、背負っていた剣を抜いた。




