打ち上げ
「ほんとに、すまねえっ」
ボウズは頭を、90度を通り越して、180度下げて見せた。
いやいや、それ、真剣に謝ってねーよな?
「もういいって、つーか、帰ろーぜ」
マジでクタクタだ。
オイルの入ったランプを一日中持ち上げてたから、腕が限界だしな。
これも剣の修行だと思わねーと、やってらんねーわ。
俺が踵を返そうとした時だった。
「お前ら、ついてこい」
突然、飲んだくれがそう言って、暗闇の方に歩き始めた。
「どこ行くんだろ?」
ブタが不安そうにつぶやく。
「……ついて行ってみるか」
しばらくして、飲んだくれは居酒屋の前に立ち止まると、こう言った。
「今日は、俺の奢りだ」
奢り?
俺は一瞬、耳を疑った。
でも、他の奴らも、え? みたいな顔をしている。
聞き間違いじゃなさそうだ。
「奢ってくれるんですか?」
JDが念のため、聞き返す。
「お前らのしけた面見てると、毎日クエストばっかで、辛い思いしてるってのが分かる。 だから、たまにはいい思いもさせてやらねーとな」
飲んだくれは、振り向くとニカッ、と笑って見せた。
こいつ、実は超いい先輩じゃねーか!
みんなで顔を見合わせると、ようやくその日、笑顔になった。
「かんぱーい!」
俺たちは、キノコビールの入ったグラスを重ねて乾杯した。
カッキーン、という音が響く。
運ばれてきた料理を口に運びながら、最近あった話題で盛り上がる。
「あん時はお前、絶対死んだと思ったぜ」
ボウズが、屋敷の清掃の時にあった、スライム騒動の話をする。
「グルグル巻きに、ですか。 もしかしたら、脂肪分が多くて助かったのかも」
チビが真剣な表情でそう推察した。
スライムは酸で獲物を溶かすらしい。
脂肪が多いとか、オブラートに包む必要ねーだろ。
「要するに、デブだから助かったって訳か」
「その話はトラウマなんだよー。 思わず漏らしちゃったんだから」
……漏らした?
「あの時頭に落ちた雫、おめーのしょんべんかよ!?」
飯を食っていたJDの顔が、思い切り引きつる。
「ねー、汚いんだけど」
そういや、JDだけあの場にいなかったな。
そんなことを思いながら、グラスを仰ぐ。
すると、飲んだくれが話に割って入って来た。
「ところでお前ら、明日はどうするんだ? クエストがあんなら、ほどほどにしとけよ」
明日か。
オイル交換のクエストは失敗に終わっちまったけど、そのまま次のクエストを受けるつもりだ。
「明日は、馬車の護衛のクエスト、やろうかなって思ってます」
「馬車の護衛か。 最近、とある野党ゴブリンの出現で、西への物資の運搬が困難になっている。 そのゴブリンからの護衛のクエストだが、難易度はランプ交換の比じゃないぞ?」
…………役所の戦士っぽい奴も、同じことを言ってたな。
「一体、どんな奴らなんすか? 野党ゴブリンって」




