屋敷の清掃
「どないするん?」
すると、チズルが右手を上げて返事をした。
「私、やってみたいです!」
「俺も!」
チズルとヒロハルは弟子入りを志願した。
俺はどーすっか。
クエストがまだ中途半端だし、とりあえずそっち頑張ってみっか。
「俺、クエストを受けながら剣を磨いてくつもりなんで、今はちょっと難しいっつーか……」
「んー、私もあんま時間あらへんのよ。 だから、弟子入りって言っても、せいぜい2日しか教えられへん」
「少なっ」
ヒロハルが思わず呟く。
「まあ、二日でもみっちりしごけば基礎は身につと思うで」
「しごく……」
ヒロハルが一瞬引きつった顔をしたが、その2日を凌げば何らかのスキルが身につくかも知れない。
安いもんだろ。
2日の内に、屋敷の清掃とランプ交換だっけか? それを終わらせて、合流すっか。
「チズル、ヒロハル、2日後に、森の広場で合流しよーぜ。 んで、一緒に馬車の護衛のクエスト、やらね?」
「いいかも」
「っし、決まりだな!」
その夜は、ユメリーさんの奢りで、チップスアンドフィッシュ(いわゆるフィッシュアンドチップス)の美味しい店に連れてってもらった。
魚のフライは皿からはみ出すくらいでかくて、俺たち3人は満足して帰った。
つっても、帰路は別々で、チズル、ヒロハルはユメリーさんの宿へ、俺は、ラスト1シルバーを使って、馬車で森の街へと戻った。
そして翌朝、屋敷のクエストを受け、広場へと向かった。
「これで全員かしら? じゃあ、早速向かいますよ」
集合したのは、全部で5人。
昨日小指を骨折した小太りの奴もいる。
メガネをかけた、ぱっと見家庭教師みたいなおばさんに連れられ、屋敷へと向かった。
「ここが今日の現場よ。 まず始めに、ここにある荷物を全部外に出して、それから雑巾がけをするから、みんな中に入りなさい」
ぞろぞろと屋敷の中へと入る。
「みなさん、ご苦労さまですね」
杖をついた、ここの主と思しき老人が挨拶してきた。
俺も軽く会釈する。
建物は2階建てだけど、1フロアがかなり広い。
ちょっとした学校みたく、廊下が長え。
俺らは、まず倉庫に向かい、机やら、でかい壺やらを外に出した。
「ふーっ、この壺、めちゃくちゃ重てーな」
「そこ、私語は慎みなさい」
……るせーな。
このおばさん、マジで家庭教師だな。
「あなたは2階の床拭きをしなさい。 あなたは倉庫の埃をはいたあと、床拭きよ」
はいはい。
俺が2階に向かうと、同い年くらいの、ボウズの奴に声をかけられた。
「なあ、ただ床拭きしても面白くねーから、勝負しねーか? 俺には、この廊下はそのためにある様にしか見えねんだけど」
「……乗った」
俺らは、廊下の端に移動して、位置に着いた。
「いいか? よーい…… ゴッ!」
ドダダダ、という音を立てながら、雑巾がけレースが始まった。
「おらあああっ」
ほぼ同時に向こう側に到着した為、結果はドロー。
「はあっ、はあっ……」
手を膝について、息を整える。
「はあ…… なあ、もっかいやって、白黒……」
「白黒どうするつもりですか? あなたたち、廊下に立ってなさい!」
まさか、こっちの世界で廊下に立たされることになるとは。
つーか、今まで立たされたことなんてねーんだが。
昼になって、屋敷の外で飯を食うことになった。
芝生の上にあぐらをかいて、支給されたおにぎりを食べる。
「具、何もなしかよ」
すると、監督のおばさんがこっちに来た。
「あなたたち、おにぎりが1個余ってしまったんだけど、もう一人どこにいるか知らない?」
「もう一人?」
……そういや、ブタがいねぇ。




