海沿いの街
これで俺の手持ちは、合計15シルバーだ。
明日はヒロハルとチズルを劇に連れて行くから、9シルバーは使うことになる。
今から飯食って5シルバー。
金、マジで足りねーな。
明日は自給自足になりそーだ。
森にキノコが生えてるから、それを食うしかねーか。
俺はこのまま、昨日と同じ居酒屋に向かい、キノコ料理のフルコースを堪能し、ツリーハウスに戻った。
「うし、行くか」
早朝、街の広場に、俺、ヒロハル、チズルの3人が集まった。
「あんちゃん、そんな気合入れなくていーんじゃない」
「うっせーな。 で、港町はどうやって行くんだ?」
すると、チズルがある方向を指差した。
「あっちの馬車停よ。 とにかく、行きましょ!」
バス停ならぬ、馬車停には、港町行きの馬車が止まっていた。
既に何人かが馬車に乗り込んでいて、俺たちも3シルバー払ってそれに乗り込んだ。
隅の方に陣取ると、俺はチズルに質問した。
「今日見る劇って、どんな内容なんだよ?」
「よくぞ聞いてくれました。 今日の劇、結構前から楽しみにしてたのよね」
何やら鼻息を荒くさせ、チズルは語り始めた。
「リメンバーミーは、私の大好きな女優、ユメリーが主演の劇で、あらすじとしては、かつて戦いで亡くなった元カノが、主人公の元に幽霊として現れるって話なの。 でも、主人公は既に結婚していて、元カノの幽霊はそれを知って発狂。 そして、悪霊となり、街の人間に牙をむくっ」
むくっ、の所でヒロハルに指で形づくった牙を向ける。
「あはは、やめてよ」
チズルって、劇とか好きなんだな。
てか、そういう情報、どっから仕入れんだろな。そんな話をしてる内に、馬車は出発。
ガタゴトと揺れながら、川沿いの道を走る。
川沿いには、釣りをしている人や、ランニングをしてる人がいて、ここら辺は魔物が出そうな気配はない。
平和だ。
「ふあ~……」
馬車に揺られてウトウトしていると、いつの間にか港町に到着していた。
劇の場所を、馬車の運転手に聞き、そこへと向かう。
「劇場は海鮮通りを抜けた先だよ」
「海鮮通りね。 ありがと、運転手さん」
通りは、活気のある市場のようで、様々な海の幸が店頭に並んでいる。
その通りを抜けた先の広場の中央に、劇場はあった。
「めちゃくちゃ人いるじゃん!」
ヒロハルが興奮し、叫ぶ。
「まだ早朝なのに、すげーな。 チケットはどこで……」
俺が言い切る前に、チズルがダッシュで列に並ぶ。
「あなたたち、チケット売り切れちゃうわよ!」
「……」
俺とヒロハルは、顔を見合わせると、噴き出した。
劇場の中は、思っていた以上に本格的な作りだった。
扇状に席が並んでいて、舞台が一段高くなっている。
暗幕が垂れ下がっていて、劇が始まるまで、もう間もなくとのことだ。
席は自由席で、チズルに連れられ、俺たちは最前列に陣取った。
しばらく待っていると、身なりの整った男が、説明を始めた。
「皆様、お集まり頂き、ありがとうございます! これより、リメンバーミー、開幕です!」




