壁の補修
「くっあ……」
俺は、ツタの裂け目から漏れる光で目を覚ました。
ヒロハルたちの、このツリーハウスは、森に落ちている枝を組み合わせて骨格を作り、その周りをツタで囲って、最後にトカゲの嫌う植物の葉を張って作られている。
ちなみに、トカゲよけのエキスは、この葉っぱから抽出されているとのことだ。
「……いででっ」
完全に筋肉痛だ。
どうにか剣を拾い、肩に背負って、川の近くに向かう。
腰を落として水をすくうと、それを顔にバシャッ、とかけた。
「……ぷはっ」
冷てーけど、一発で眠気が吹き飛ぶ。
俺は、深呼吸して、森の空気を肺に取り込んだ。
周りは川の音と、鳥のさえずりだけが聞こえてくる。
何か、すげー贅沢な朝って感じだわ。
俺はその足で、街にある役所に向かった。
役所に到着したら、早速、壁の補修のクエストを申し込み、集合場所に向かった。
街の広場に到着すると、頭にタオルを巻いた、細マッチョなおっさんらが数人、道具を担いで待っていた。
多分、あいつらだろ。
「あっ、すいません。 壁の補修のクエスト受けたんすけど」
「……ん、新人かな? よろぴこ」
何だよ、よろぴこって。
まあ、前の怖いおっさんよりか、とっつき易くていいけど。
それから少し待って、メンバーが揃うと、現場へと向かった。
「ここが依頼のあった屋敷だ。 先に挨拶してくっから、マルモト、そこの3人にレクチャーよろぴこ」
「おう」
リーダーと思しきおっさんが屋敷に入ると、マルモトさんがトンカチを手にした。
「じゃあ、まず始めにお前の頭をたたき割る」
「えっ、うそっ!?」
小太りの丸めがねをかけた奴が、ひいっ、と身を引く。
「ばっか、冗談だよ。 まず最初に、腐った壁をくり抜く作業から始める。 こいつを使うんだ」
手には、ギザギザの筒みたいなやつに、クランクがくっついた道具が握られている。
「こいつの名前はグリグリだ。 グルグルじゃねーぞ」
マルモトさんは、木の壁にグリグリをあてがい、クランクを掴んでクルクル回転させて、使い方を見せた。
「腐った壁を放置してっと、虫が湧いちまうからな。 腐った壁は黒く変色してっから、みりゃ分かる。 こいつで穴空けたら、木の板をあてがって、カンカンで釘を打っていけばいい」
カンカンってのはトンカチのことか。
説明が終わると、道具を手渡され、みな散り散りになった。
職人のおっさんらは、かなり長い脚立を使って、2階の壁を調べている。
俺たち素人組は、脚立の必要ない1階担当だ。
クエストの用紙には、脚立作業って書いてあったたが、とりあえずはやらなくていいらしい。
俺がグリグリで壁に穴を空けていると、上から声がした。
「おーい、スパイラル持ってきてくれ!」
スパイラル?
何だ、そりゃ。
「スパイラルって何すか?」
「ばかやろ、おめーが手に持ってる奴だよ!」
「えっ、これ、グリグリじゃないんすか?」
「マルモトあの野郎、また嘘教えやがって。 そいつはスパイラルだ。 早く持って来い!」
……ちゃんと教えろっての!
完全にグリグリで覚えちまったじゃねーか。
穴を空けた後は、ひたすら板を釘で打っていく作業。
的確に、スピーディーに釘を打たねーと、日が暮れる前に終わらねー。
さっきの小太りの眼鏡は、指をトンカチで打って、泣きべそかいて床で横になっている。
マジ、使えねーな。
結局、日が暮れても終わらず、ランタンを腰に下げつつ、作業する羽目になった。
補修が全て終わったのは、夜更けだ。
「みんな、並んでくれ」
リーダーが順番に10シルバーずつ渡していく。
俺の後ろの眼鏡も同じ10シルバーってのが、ちょっと気に入らなかったが。
「ははっ、やったー!」
「小指、折れてっから、ちゃんと医者に診てもらえよ」
「うん!」
折れてんのかよ!




