約束
「連れてくのはいいけど、その後は?」
…………え、その後?
いや、勢いで連れてくとか言ったけどさ。
ぶっちゃけ、先のことまで考えてなかった。
当面の目的はコアを集めることで、後はどうなるか分からない。
正直、家に帰りてーって気持ちもあるし、流星のやつも、そんな風に考えてる頃かも知れない。
あいつは別にそれでもいいが、俺はどうする?
容姿は別人だし、何より、ヒロハルもいる。
俺が、あー、とか、えー、とか言っていると、チズルが切り出してきた。
「考えてない、のかな。 …………やっぱり、あなたとミナトは別人みたいね。 ミナトは、兵隊になるとは言ってたけど、私たちのことを見捨てるとは言ってなかった。 いつか、ちゃんとした暮らしをさせてやる、って」
ヒロハルは、ミナトのことを慕っていた。
カスガさんからも一目置かれてる感じだったし、何となく俺の中でイメージはできてた。
俺の思い描いてるミナトは、俺と真逆の、できる奴だ。
そんなやつが、自分勝手に兵隊になって、どっかいっちまうってのは、考えにくい。
だから、チズルの言ったことは、なるほどな、とすぐに納得できた。
俺は選択を迫られてる。
赤井流星のアンドロイド(奴隷)として生きるか、ミナトとして生きるか、だ。
「俺に、ミナトの代わりが務まるとは思えねーけどな」
思わず、そんな弱音が出た。
ミナトとして生きるってことは、ミナトが考えてたみたく、ちゃんとした職について、養っていくだけの力をつけなきゃいけないってことだ。
「いいのよ。 でも本当に、ミナトはもうミナトじゃないのね」
そのことを確認する意味合いもあったのかも知れない。
チズルとミナトがどれくらい親しかったのかは分からねーけど、知り合いが別人になったら、少なからずショックを受けるだろう。
もう、俺はミナトじゃない。
でも、ミナトがこなしていた役割は、負わなきゃいけない。
へたこいたら、またがっかりされちまう。
「なあ、今度、ヒロハルと一緒に、飯でも食いにいかねーか?」
そんな提案をするのが、今の俺にできる精一杯のことだった。
「それだったら、劇、見に行きたいな。 ここから東の海沿いの拠点に劇場があるんだけど、今度そこで「リメンバーミー」っていう新作が公開されるのよ」
「劇か、見に行ったことねーけど、それっていくらすんだよ?」
「港街まで馬車で行くんだけど、一人1シルバー、劇は2シルバーだから、3人で9シルバーかな。 ご飯までは奢れっていわないからさ」
……それ以外は奢らせる気かよ。
まあ、元々奢るつもりだったから、別にいいけどよ。
「分かった。 明日は、壁の補修のクエストがあっから、明後日どっかで待ち合わせて、港町まで行くか」
こうして、俺とヒロハル、チズルの3人で、劇を見に行く約束を取り付けた。
ちなみに、今夜はヒロハルらの作った、森のツリーハウスで一晩を過ごすこととなった。




