チズル
一体、今何時だよ……
もう10時くらいじゃねーか?
周りはほとんど人が残っておらず、俺とおっさん、木を運ぶために待ってくれてるおっさん、合計4人だけになっていた。
「っし、これを運べば最後だ!」
「っしゃ、暗いから注意しろよ」
「……」
俺は、返事する気力もなく、斧を置いて木に手を添えた。
木を運んでいる途中、俺の肩からはブチブチと何かが切れる音がしたが、構わず進んだ。
本当は超痛かったけど、こいつらに言っても取り合ってくれねーし。
木を下すと、俺の目からはなぜか涙があふれた。
もう、ぜってーこんな仕事はしねーぞ。
「初めてにしちゃ、よく頑張ったな! 今日はこれで終わりだ。 親方がそこにいっから、金を受け取ってくれ」
俺は、ヨタヨタと歩いて、朝あいさつしてた口の悪い親方の所へと向かった。
「オメーが最後だ。 ほら、受け取れ」
親方は、俺の手のひらに、5シルバーを乗せた。
5シルバーがこんな重て―とは……
手がプルプルして、思わず金を床にばらまきそうだ。
「……って、5シルバーっすか?」
「ああ、おめーはひよっこだからな」
「は、はああっ!?」
「なんてな、がっはっは」
……ふ、ふざけんな。
今、そんなボケかまされても、つっこむ気力なんてねーから。
俺は、更に5シルバー受け取り、合計10シルバーを手に入れた。
そういや、斧を森に置きっぱなしだ。
斧がねーと、こいつら困るよな。
「はあ……」
俺が森に行こうとした時、おっさんが声をかけてきた。
「斧は俺が拾っといてやるからよ、お前はもう帰れ」
今日、ペアになったおっさんだ。
「んで、明日は来るのか? 来るんなら、俺が言っといてやる」
「……」
行きたくねー。
仕事そのものに行きたくねー。
だけど、金稼がねーと、生きてけないし。
俺は、役所で助言をくれた戦士の言ってたことを思い出した。
上から順に、クエストを受けてけばいい。
確か、2番目は壁の補修のクエストだったっけか。
「明日は、また違うクエストにしようかなって、思ってたとこす」
「そうか。 じゃ、また気が向いたら、だな」
「……そっすね」
夜になり、テンションはがた落ちだ。
社会人をしたことねーからピンとこなかったが、今、初めて理解した。
クタクタになるまで仕事をして、終電で帰っていくサラリーマンの気持ちは、こんなんなのか。
飯食って寝てすぐ仕事。
ゲームする暇もない。
クソみてーだな。
「まじで、クソだわ」
俺は、石を思い切り蹴飛ばした。
……ああ、腹減った。
ふと、隣から笑い声が聞こえて来た。
すぐ横は、居酒屋か?
一人でこんなとこ入ったことなかったが、どうにでもなれ、みたいな気持ちで、俺は中に入った。
中は戦士や、今日一緒に働いた、ガタイのいいおっさんらでひしめいていた。
どっか隅っこ、あいてねーかな。
あのカウンターにすっか。
俺は、たまたま空いていたカウンターの隅に座った。
壁に貼ってあるメニューを見ると、キノコのソテー、キノコの刺身、キノコのリゾット、など森の幸的な料理がたくさん書かれている。
居酒屋だけど、がっつり系のやつにすっか。
「あ、すいません。 キノコの盛り合わせ、キノコのリゾット、あと、キノコビール」
ビールも飲んだことなかったけど、やけくそだ。
てか、キノコビールってどんなだよ。
しばらく待っていると、今頼んだ料理が運ばれてきた。
「ハフ、ハフ…… んぐっ、んぐっ」
俺は、目の前の料理を一気に腹に収めた。
ビールの味はよくわからねーが、喉はからっからだ。
水分なら何でもうめえ。
「ミナト、クエストしたんだ?」
突然、耳元から声がした。
……誰だ?
振り返ると、何か見たことあるような女がそこにいた。
こいつ、確か、チズル?
「ねえ、5シルバーでやらない?」




