いきなりクライシス
「コノトビラカラ外へ」
「……どーやって出んだよ」
オードリーは丸っこい球体だ。
壁についてる開閉スイッチは押せねー。
「ったく、俺がおせばいいん……」
出口に向かった瞬間、扉がスライドし、そこから猛烈な風が吹き込んできた。
「んがっ!? トラップかっ」
「フザケテネーデ、イクゾ」
「……!」
何だこいつ、主人がいなくなったとたん、タメ口かよ!
てか、どーやって開けた?
床をよく見ると、オードリー用に設置された、踏みつけタイプのスイッチがある。
……どんだけ親切なんだよ、この宇宙船。
まあ、それは置いといて、この船、かなり厄介な所に不時着しちまったらしい。
やたら強い風が扉から吹き込んできてやがる。
「ココハ、地上10メーターハ、アル。 マッ、キヲツケテオリルコッタ」
「てめーはどーやっておりんだよ。 カタコトハゲ」
「口調モード変更。 スパイクモード起動」
あん? いきなり、オードリーの体からトゲが生えた。
「カタコトでも、ハゲでもねぇわ。 行くぞ、メロンパン」
こ、この野郎……
モード変更で急に流暢に喋るようになりやがった。
しかも、その名前でよぶんじゃねぇ!
……頭んなかでごちゃごちゃ考えてたら、話が進まねーから、ここら辺にしてさっさと進むけどな!
先に飛び降りたオードリーを見ると、トゲを出した意味が分かった。
この宇宙船は、かなりでかい木の枝に引っ掛かってるような状態になっていて、オードリーは体の針を木に刺しながら、地面へと向かっている。
「俺にはそんな機能ねーから、慎重に進むしかねぇか」
出来るだけ下を見ないようにして、木の幹の方に体を向け、そのままゆっくり、足元を確かめつつ、降りる。
右足に取っかかりがあったら、そこを起点にして両手を使って降りる。
今度はその逆だ。
「ったく、こんなめんどくせー所に不時着しやがって」
っても、それをやったのは俺のコピーだ。
いや、俺がコピーなのか……
自業自得ってやつかも知れない。
俺って、自分でそこまでアホとは思ってなかったけど、さっきの白衣を纏ったやつは、絶対アホだ。
あれが自分だとは思いたくない。
「……ん?」
何かいま、グニャ、っていう感触が右足にあった。
ウンコよりは弾力のある感触だか、得体が知れない分、こええ。
次の瞬間、今度は左足に劇痛が走った。
「っでええええーーーっ!」
俺は、思わず幹に掴まってる手を離した。
体が落下する感覚。
そして、ズン、という音がした。
「がああああっ……」
どうやら、ケツからもろに地面に落ちたらしい。
「ケツショートカットか。 頭の悪いアイデアだな」
「ふざけんなっ……」
左足を確認すると、血が滲んでいる。
やっぱ、何かの生物に噛みつかれたのか。
しかも、今の衝撃で忘れていたことを一つ、思い出した。
多分、この元の体の奴の記憶だろう。
「思い出したぜ、オードリー」
カサカサッ、と音がした。
正面の草木から、紫やら、緑やらの二足歩行のトカゲが現れた。
その中に、一匹だけ、剣を手にした奴がいる。
「俺は、こいつらに殺された!」