孤軍奮闘
「1階は片付いたか?」
角で胸を突かれたネズミは、床に伸びて息絶えている。
俺は、落ちてる剣を拾い上げた。
念のためフロアを一周し、天井から音が聞こえないのを確認すると、2階へと延びる階段に向かった。
「って、軽くパニックじゃねーか!」
階段には人が殺到しており、押すんじゃねえ! みたいな怒号が聞こえる。
「お前らっ、落ち着」
「どけどけどけええええ」
階段の上から、聞いたことのある声。
キリウラのおっさんだ。
「こんなのやってられるかいっ、あっしが一番に逃げるんじゃい!」
オイオイオイ、早速裏切ってんじゃねーよ!
名前を逆さにしたら、裏切らないになるとか、いつも裏切りって言われるんで、絶対に裏切りませんとか、そういう信条はねーのか!
キリウラは、つむじ風みたく一瞬で消えた。
何だったんだ、あいつ。
「ちょ、みなさん、道あけて下さ…… 開けろっつの!」
強引に逃げ行く人を押しのけ、2階へと到達。
「はあ、はあ……」
人を押しのけて体力を消耗したのと、ドーナツのかけらしか食ってねーから、腹が減った。
だが、そんなことを敵は気にかけてはくれない。
むしろ好機と、通路の向こう側にいたネズミ4匹が、こちらに向かってきた。
「てめーら、ちょっと待てよっ」
休憩する間と、作戦を立てる時間が欲しい。
ふと、地面に変な生き物がいることに気付いた。
「……カナリア?」
カナリアのじじいのカナリアじゃねーか!
使えるもんは何でも使うしかない。
「ちょっと借りんぞ!」
俺は、カナリアを拾い上げ、パチンコにあてがうと、ネズミ目がけて発射した。
「ビエエエエエエエエエエエエエエッ」
「チチチ!?」
カナリアはネズミの前で羽ばたき、それに気を取られてる隙に、俺は脇の部屋に飛び込んだ。
「ふーっ」
一息ついて、呼吸を整える。
さて、どうやって4匹を始末する?
コアはもうねーし、体力もあんま残ってねー。
缶詰でも落ちてりゃ、少しは体力回復できると思うが……
「お、あるじゃねーか!」
奇跡的に、缶詰が床に落ちているのを発見。
と思ったが、空だった。
「お預けばっかじゃねーか!」
俺は粗相をした犬かよっ。
もういい、何とかしてあの4匹を倒す。
パチンコをうまく使うしかねー。
「……」
部屋の中から、顔だけ出して通路を伺う。
ネズミ4匹は、姿を消していた。
「また天井か?」
俺は、片手に剣を、片手にパチンコを持って、ゆっくり通路を進んだ。
全く音が聞こえない。
超、不気味だ。
どっかに潜んでるハズだが……
十字路の真ん中まで来ると、ズボボッ、という音と同時に、4匹が頭上から落ちて来た。
やっべ!
完全に取り囲まれた。
前後左右から、ネズミが迫る。
「おらああああっ」
俺は例のごとく、スライディングで一匹の背後に回った。
相手は初見で、この戦法は知らないから、うまくいった。
これで一対一×4になったわけだが、4匹も相手にする気力は残ってない。
俺は、床に転がっている石を掴み、パチンコでネズミの抜けた穴をねらった。
パアアアアン、という音と共に、ランタンの管が砕け、オイルがネズミらにかかる。
俺は飛び上がってランタンのひもを斬った。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアーーーッ」
炎が燃え広がり、ネズミの断末魔が響き渡った。




