ドブネズミ
最近、雨が降ったせいか、天井からはポタポタと水がもっている。
そーいや、森もぬかるんでたな。
……何か、忘れてね?
「オードリー! やっべ、忘れてた!」
これが終わったら迎えに行かねーと。
とにかく、今はネズミだ。
建物内には、ちらほら人が残っているため、俺はそいつらに呼び掛けた。
「こん中に魔物が潜んでるかも知れねー。 一旦こっから出た方がいい」
みな、裸足で外に出ていく。
俺は、人を避難させつつ、建物を徘徊した。
「しっかし、見つからねーな」
もしかして、グルグル回って行き違いになってるとかねーよな?
その可能性が無きにしも非ずと思った俺は、一旦立ち止まった。
ふーっと深呼吸して、剣を構える。
前からでも、後ろからでも、かかってきやがれ。
……上からとかは、やめろよ?
「……マジ?」
意識を天井に向けると、音に気付いた。
時折、ガサガサ、という音。
天井のランタンもプラプラしてるし……
「何か、下がってね?」
天井が、もこり、と下がっている個所がある。
「何か、いる!」
気づいたと同時に、天井が抜けて何かが落ちて来た。
「うぷっ……」
俺は、目の前の相手を見て、吐きそうになった。
ネズミはネズミだが、人型のネズミだ。
どういう訳か、服を着ている。
こいつが魔物の正体か。
まさか、2重になっている天井に潜んでいたとは。
天井内は、ランタンのオイルを入れるための管が張り巡らされており、毛細管現象を利用して、循環させているようだ。
俺は剣を構えて、距離を詰めようとした。
「チチチ……」
俺は、ビクっとなった。
背後から、似たような呻き声。
2匹目が背後から現れやがった。
クッソ、どーする!?
示し合わせたように、同時に踊りかかってくるネズミ。
左右の相手を同時に斬り伏せるほど技量はもってねーぞ!
俺は、駆け出してスライディングをかました。
「チチ!?」
一匹をすり抜けることに成功。
これで、一対一を二回やれば済む形となった。
「おらああっ」
剣を握り、思い切り斜めから振り抜く。
肉を切る感触。
相手の背を斬りつけた。
「ビエエエエエエエエエエエエーッ」
「おらあああああああああっ」
剣を担ぎ上げ、今度は両手で握って振り抜く。
手ごたえはない。
ガチン、と地面に剣が当たって火の粉が散る。
「くそっ、力み過ぎたか」
再度、剣を掲げたところで、ムチでしばかれたような痛みが腕に走る。
俺は、思わず剣を取りこぼした。
どうやら、ムチみたくしならせたシッポの攻撃を受けたらしい。
痛みで顔をゆがめている内に、相手が視界から消えた。
「……!?」
足にスネに痛みが走る。
姿勢を低くして、回し蹴りの要領で尻尾の攻撃を食らったのか。
俺は、地面にしりもちを着いた。
「らあっ」
後転でマウントを取られるのを回避。
俺は、ケツポケットに入れてあったパチンコを手にし、ポケットからコアを2つ取り出した。
馬、イッカク、と胸の中でコールし、パチンコでネズミの後方の水たまりに打ち込む。
「行けっ、ユニコーン」
水たまりがモコモコと立ち上がり、ユニコーンを形作ると、背後からネズミを一突きにした。




