裏路地メシ
俺たちは、秘密の地下室まで戻って来た。
「んで、飯はどーするよ」
運動した分、何か食わなきゃ割りに合わねー。
ってか、トラブルもあったし、缶詰だけじゃ足りなかったんじゃね?
「んー、奥の手使っちゃうか」
ヒロハルは、モグを連れて、地下から出た。
俺も後に着いていくと、今度はそのまま外へと出る。
「どこ行くんだよ?」
「まあまあ、黙って着いて来なされ」
何だよ。
じらすってことは、結構いいとこ連れてってくれるんだろな?
なーんて、期待している内に、表通りの路地にやって来た。
「ここだよ」
「……どこだ、ここ」
全然食べ物とは縁のなさそうな、建物の裏。
しかし、何やら香辛料っぽい匂いが漂っていて、もしかしたら飲食店の厨房の裏かもしれない。
「じゃあ、目をつぶって、イメージしてみて」
「何を?」
「もちろん、食べ物だよ。 ここはチューカ料理屋の厨房の裏。 ショウマイ、ラーミン、ホイホイロー、はい」
はい、って、何だよ。
何か、嫌な予感がして来た。
「イメージできた?」
チューカ調理ってのは、中華料理のことだろうな。
で、ショウマイはシューマイ、ラーミンはラーメン、ホイホイローはホイコーローのこったろ。
「イメージ、できた!」
「じゃ、匂いを一気に吸うんだ。 スウウウウウウウ」
「スウウウウウウウ……」
鼻から一気に匂いを吸い込む。
例えるなら、目の前にシューマイ、ラーメン、ホイコーローを乗せたカートがやって来て、ああ、うまそーだなー、と思って眺めてたら、そのままスルーしていった、そんな感じだ。
「余計、腹減るな。 ヒロハル」
目を開けると、ヒロハルがいなくなっていた。
「あれっ、どこ行ったあいつ!?」
気が付くと、ヒロハルは反対側の路地で、何かを貰っている。
「いつものワンちゃんね、はい」
「ワン!」
モグは、嬉しそうに尻尾を振っている。
「やったね、モグ」
「おいおいおいおい」
何だよ、俺を放置して、何貰ったんだよ!?
ずかずかと歩いて行き、ヒロハルに尋ねた。
「何だよ、それ」
「どっからどーみても、ワッカケーキでしょ」
ワッカケーキ……
ヒロハルは、手にドーナツ見たいなやつを持っている。
「俺をハメて、二人でそんなもん貰って、ずるくね?」
「んじゃ、分けてあげる」
ドーナツを3等分すると、随分小さなかけらになってしまった。
「……サンクス」
「味わって食べなよ」
くっ、これだけかよ……
まあ、スラムで生活してたら、これだけでも感謝して食べなきゃいけないのかもな。
かけらを口に運び、良く咀嚼して、飲み込んだ。
「……」
たったこれだけか、と口に出しそうになったが、そこはこらえる。
育ちがよろしいんですね、みたいなこと言われちまいそうだしな。
ヒロハルみたいな奴らを見ると、いかに自分が恵まれてたかってのが、良く分かる。
そんな帰り道だった。
向こう側から、妙な奴がやって来た。




