ケンカ
俺が何も知らねーのをいいことに、この野郎……
拳をプルプル震わせてる内に、ヒロハルは向こうの建物まで移動していた。
「あんちゃん、この梯子使い回して進むんだから、早くしてよ」
「てめっ、ちょ、まっ」
梯子はかなり不安定な状態で渡してあり、転落したら骨折じゃ済まない高さだ。
俺は四つん這いになり、生まれたての子鹿みたいになる羽目になった。
「あんちゃん、はーやーくー」
ばっ、馬鹿野郎!
ヒロハルは梯子を掴み、ガタガタ揺らしてくる。
「やめてくださいっ、ゆるじでぐだざいっ」
俺はプライドをかなぐり捨て、とにかく必死に懇願した。
ヒロハルは、哀れむような目で俺を見下し、ボソりとつぶやいた。
「カッコ悪」
「……」
どうにか隣まで渡りきると、ヒロハルは梯子を持ち上げ、次の場所まで移動し、同じように渡していく。
俺はさっきの件を問い詰めることにした。
「お前、なんでそんな悪ガキなんだよ」
「えっ、いつもあんちゃんがしてくることやり返しただけじゃん。 もしかして、怒ってるの?」
「怒ってるとかじゃないの。 ただ、アレはマジで危ないし、悪ふざけでもやっちゃダメだと思うんだわ」
ヒロハルは、めんどくさ、と小声でつぶやき、先に進んでいく。
いや、聞こえてるし、そういうの傷つくし。
心の中でぶつくさ言っていると、ヒロハルは梯子を脇に寄せ、壁に手をあてがった。
「ここが社長の家。 で、壁に切り込みが入れてあって、外せるようになってる」
ヒロハルが、感情のこもってない声で説明する。
いや、何が気に食わないのか知らねーですけど、こっちは正しいことしか言ってないし。
壁の切り込みに爪を立てて引っ張ると、四角い蓋が外れた。
その穴に手を突っ込むと、中から缶詰のようなものを取り出した。
「食料庫か」
「うん」
「……」
会話みじけーな。
あんま取り過ぎるとバレるからと、5個だけ取って、引き返すことになった。
要領は何となく分かったから、梯子を持って渡そうとすると、
「ねぇ、一人で5個も持てないんだけど。 2個でいいから持ってくんない?」
「……何だよ、その言い方」
逆ギレかよ。
ちっ、こっちまで気分わりーわ。
俺が2個受け取ると、ヒロハルはそそくさと梯子を渡っていった。
つーか、俺は慣れてないからあんな風に手を使わないで渡れねーんだが。
「おい! 両手塞がってんだけど!」
「だったら投げればいいじゃんっ!」
とうとうヒロハルはキレてでかい声を出した。
はあああ!?
悪いのは全部てめーだろーが!
手に持っていた缶詰を思いきりぶん投げる。
「ふざけんなっ、このっ」
本気で投げた為、ヒロハルはキャッチできず、ガンっ、と屋根にバウンドする。
「何すんだよっ!」
「投げろっつーから、投げただけですけど!?」
ヒロハルも手に持っていた缶詰を投げつけてくる。
缶詰は放物線を描き、俺の頭上を通過。
そのまま、ルネサンス運輸の社長宅の倉庫の窓ガラスにぶち当たり、派手にくだけた。




