スラムの生活
「しっ、吠えたら気付かれちゃうよ!」
「ヘッヘッ」
目の前のちっさい子犬は、大人しく座って尻尾を振っている。
こいつがモグかよ……
犬も家族って言う奴も、確かにいるけどな。
「あんちゃん、ちょっと休憩したら、ご飯調達しに行こうか」
「飯か、賛成だけど、その前に……」
言い切る前に、俺は剣を壁に立て掛けて、地べたに横になった。
耳元で、バチコーン、という音がする。
「くっ……」
起き上がると、全身がいてー。
筋肉痛か。
体には布がかけてあり、多分、ヒロハルが気を遣ってくれたんだろう。
「ヒロハル、サンキューな」
「やーっと起きた。 退屈しちゃったよ」
仕方ねーだろ、昨日は丸一日以上動いてたんだからよ。
……てか、こいつ、テーブルの上に並べられてる木の筒を、パチンコで狙う遊びをしている。
めちゃくちゃ音出てんじゃねーか!
そんなのは些細なことと言わんばかりに、ヒロハルはこれからやることを説明した。
「これから、ルネサンス運輸の社長の所に行くから、着いてきて」
「社長って…… ひとんちに盗みに入るのかよ」
「うん。 記憶を無くしたあんちゃんでも、楽勝だと思う」
難しいとか、簡単とか、そういう問題か?
てか、生まれてこの方、万引きだってしたことねーのに、本当に大丈夫か?
ヒロハルは階段を登って、慎重そうに木箱の蓋をずらした。
誰もいないことを確認すると、手招きして、早く出てくるよう合図を送る。
物置から出ると、思っていた方向とは違う場所を目指す。
「あれっ、外に出ねーの?」
「出るけど、屋上経由で行った方がいいんだ。 夜に街をうろついてたら、職質されちゃうからさ」
なるほどな。
階段を使い、屋上に出る。
そこから、建物のふちまで移動。
向こうに似たような建物があるが、どうする気だ?
「あんちゃん、ジャンプで向こうまで飛び移るんだ」
「はあっ、マジで言ってんのか?」
向こうまでそこそこ距離あるぞ……
ミナトは走り幅跳びの選手だったのか?
でも確かに、ミナトは盗っ人だから、身体能力は高いのかも知れねー。
ちょっと心配だが、やってみっか。
俺が助走をつけて走ろうとした瞬間だった。
ヒロハルが横に置いてあった梯子を持ち上げると、それを投げて橋変わりにした。
「あんちゃん、流石にそれは無茶でしょ」




