プロローグ
メタボリックじゃないよ
「めざめろっつの」
……誰かが耳元で言っている。
嫌な夢を見たせいか、まだ眠い。
魔物に襲われる夢だ。
ってか、今日が休みだったら、このまま寝てるのはもったいねー。
ガバ、と起き上がると、そこには白衣を身にまとった、俺によく似た男が椅子に座っていた。
「……あれ? もしかして先生。 俺、寝ちゃってました?」
推測するに、ここは歯医者だ。
俺の部屋とは違い過ぎるし、何か全体的に白い。
歯を見てもらってる最中に寝るとか、どんだけ疲れてんだ、俺。
「ばーか、ここは医者じゃねーよ。 お前は俺の記憶を元にして作られたアンドロイドで、これからこの惑星を抜け出すために、コアを見つけてくんだよ。 寝ぼけんな」
……医者じゃない?
まあ、こんなアホ面が先生なわけねーか。
そんなことより、俺がこいつを元にして作られた、アンドロイド!?
「いやいや、寝ぼけてんのはそっちでしょ。 俺は正真正銘の赤衣流星ですよ」
「それは、オリジナルの俺の名前な。 お前の名前はメロンパン。 いいからさっさとコアを見つけて来いっての」
誰がメロンパンだ!
俺の好物じゃねえか。
こんなネーミングセンスのねー奴の言うことが聞けるかっての。
「先生、俺、帰ります」
「ん」
突然、俺を名乗る男は手鏡を取り出し、俺の方に向けて来た。
そこに映っているのは、全く見知らぬ男の顔だった。
こいつ、整形外科だったのか!
でも、こんな顔にしてくれなんて頼んだ覚えはねえ。
それとも、本当に俺は、容姿が別人のこいつのコピーなのか?
それを疑っていてもラチがあかないと思った俺は、話を先に進めることにした。
「仮に俺がアンドロイドだったとして、お前、コアがどーの言ってたよな?」
「ああ。 この宇宙船の動力にコアを使っていて、それがこの星にもある。 オードリーの調査によれば、そのコアは金で売買されていて、クエストをこなすことで、金が手に入るって話だ」
「……オードリー?」
すると、俺のオリジナル(と思われる)の後ろから、丸いサッカーボールみたいな奴が転がって来て、俺に挨拶をした。
「ハジメマシテ、メロンパン様」
「オードリーがお前を拾ってきた。 お前はこの星の近隣の森で魔物に襲われて息絶えていたんだ」
……マジかよ?
推測するに、こいつは燃料切れでこの惑星に不時着して、不時着した先は魔物がうようよいる森、ってことか。
夢なら覚めてくれ……
「オードリーがお前を案内する。 ここから抜けた先の街に行って、クエストをこなして来い。 あと、こいつを着ていけ」
俺のオリジナルである流星は、黒いパーカーを投げつけて来た。
「そいつを着て、顔を隠せ。 そいつの知り合いに気付かれたら、色々と面倒だろう」
「……」
全く気乗りはしなかったが、そのパーカーを着込むと、部屋の扉を開けた。