38.まずは使い方を知りましょう
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「え~っと、まず………このオプションを使うのならこちら側でyesを押せばいいみたい」
研修の時にもらったマニュアルを確認しながら琴美は2人に説明する。その説明を聞いた明美は自分のタブレットをチラッと見て、何とも言えない顔を向ける。
「向こう側が選んだのにこっちが決めるのかい?」
その言葉に聡子もどこか納得出来ない表情で口を開く。
「なんかこう、付属品みたいな感じで自動的に使われてるものだと思ってたんだけど」
“無意識のうちに使える”という触れ込みの元に進めるこちら側とては少し複雑なものがあると聡子が呟くのに琴美もマニュアルを呆れたように見る。
「確かに。これだと私達が魂を見守ってないと使えないわよね」
自分達は自分の送り出した“これから人生”を見守っているが、自分達のように見守る人がいなければこのオプションは発動しないことになる。
『………………………………』
何とも言えない顔で互いに顔を見合せた後、ため息を吐く。
「……とりあえず、押してみようか」
「そうね」
「そうしましょう」
『神』という存在への文句は一先ず横にどけると3人はそれぞれ自分のタブレットを手に取って“yes”を選択する。
ーー次の瞬間
3人のタブレットに『オプションを起動します』という文字が浮かび上がった。
「はぁ…………」
あの後、全てを諦めたように笑う貴史に何も言えずに帰って来た幸哉はベッドの上で横になっていた。目を閉じれば貴史の声が甦る。
『それに俺が怒って叫んで、何とかしてくれって言って2人になんか出来るのかよ?』
“俺は無力だな”
あの言葉に自分は何も言えなかった。
『だったら、諦めて少ない時間をお前らと楽しく過ごせればいいんじゃない?』
自分達の負担にならないようにそう笑う親友の顔を思いだし、幸哉は目元を腕で覆う。
“悔しい”
何も出来ないことが悔しくて堪らない。意味をなさない声が漏れそうで幸哉は唇を噛みしめる。
“アイツが苦しんでる時、俺は何にも出来ない”
貴史は常に何かあっても1人で解決しようとする。親友である自分にぐらい一言、相談して欲しいと思った。
“相談する相手にも選んでもらえなかった”
相手の力になれないことも辛いが1番傷ついたのはそこかもしれない。
「俺には相談する価値もないのかよ……」
そう呟いた声が幸哉の耳に届いた瞬間だった。
“バサバサ”
その音に釣られるように視線を動かせば何故か乱雑に積み上げられていた棚から色んなものが崩れ落ちているのが分かる。
“タイミング悪いな”
無気力に崩れ落ちたものを眺めていた幸哉はため息を吐いてその場所から目を逸らす為に体勢を変える。
ーそして
体勢を変えた先にある昔に撮った写真を見つけて嘆息する。
“確か、貴史の父方の田舎に3人で遊びに行った時のだよな”
貴史の両親が離婚する1年前の出来事を幸哉は思い出す。
“まだこの時は何も考えてなかったな”
ただ3人でいることが楽しくて仕方なかった。どんな理由で貴史の父親の田舎に行くことになったのかは忘れたが、この1週間が楽しかったことは覚えている。
「朝から晩まで遊んでさ」
目にした写真から幸せな過去の思い出を思い出した幸哉は目を細める。
「今じゃ考えられないけど」
3人で泊まり掛けで出かけたのはこれが最後だ。その1年後に貴史の両親が離婚して3人でどこかに行くことは少なくなった。
“3人で絵はがきを作って送りあったもの懐かしいな”
互いに届くまでは秘密だと見せずに作って、貴史の祖父母宅からそれぞれに送りあったのだ。思い出した過去にため息を吐いた幸哉はそこで動きを止める。
“待てよ……”
そこまで考えて、幸哉はベッドから素早く身体を起こして雪崩を起こした棚に近づく。
「確か、ここに入れた筈」
当時の自分が宝物を保管する為の入れ物として使った箱の中にその時のハガキは入れている。少しの間、がさがさと雪崩の中を漁ること数分。
「あった………」
幸哉は箱を見つけ出すと蓋を開けてハガキを取り出す。
「確かこれには貴史の親父の実家の住所を書いて出したんだよ」
その事を偶然目にした写真で思い出した幸哉は思わぬ偶然に目を瞬かせ…………
「神様の奇跡は凄いわ」
オプションの起動後、僅か数分で訪れた奇跡をタブレット越しに見ていた琴美は思わず、そう呟くのだった。




