夢のあと。
手早く着替えを済ませホテルを飛び出した。ひとりで歩く都会は冷たく感じる。隣りに人が居ることはとても温かい事なんだ。
ぼんやりとフリーのボンボンさんの顔を思い浮かべる。今日は本当に来られるのだろうか?
私は頭に浮かんだ不安を打ち消すように近くのデパートに入った。物産コーナーに入り持って行くお土産を探す。ひよこに東京ばな奈。東京に住む人に東京土産を持っていくのも何だか変だ。悩みに悩んであの年頃の人が好きそうな水菓子の詰め合わせにした。鮮やかで上品な感じがぴったりな気がした。
ふと、フリーのボンボンさんにも何かお礼の品を渡そうかと思ったけれど止めることにした。きっとあの人はそういうの嫌がって絶対に受け取らないだろう。短い付き合いなのにとても分かりやすい人であることに笑えてしまう。考えていたらお腹が空いて来た。
最上階のレストランフロアでパンケーキが食べたくてお店に並んだけれど、ひとりランチが恥ずかしくてドキドキした。案内された店内は意外にもお一人様が多く安心して食事を摂ることができた。ゆっくり食事を済ませ携帯の画面を見ると12時40分。もう直ぐ約束の時間だ。
お店を後にして約束のホテル前に向かう。
12時55分。
胸が苦しくなってくる。
たった数日の付き合いでこんな気持ちが芽生えるなんて不思議だ。私は落ち着かない気持ちで回りを見渡した。頭上で何かのメロディーが流れ出す。1時だ。フリーのボンボンさんは現れない。
私は呆然と立ち尽くした。
来られないかもとは聞いていた。
だから驚かない。
精算していない立て替え金のことを思うと、それだけでも取り立てにやって来そうな気がするけど現れる気配はない。きっと初めからお金は取らないつもりで照れ隠しにやっていたのだろう。
距離を縮めた2人なのに連絡手段さえ持っていなかった事に今さら気付かされる。あの人には好きな人が居た。だから私達は繋がらなくて良かったのかもしれない。あれだけの愛情を打ち明けられて割って入る気持ちには到底なれなかった。好きな人が好きな人と幸せになれればそれでいい。そう思えた。例え、今日会えたとしても私達の未来は一緒だったはずだ。
約束した場所を離れ、ひとり歩き出す。
電車に乗り流れる景色を見ていたら、涙が自然に流れてきた。人に見られないように慌てて拭う。
気持ちを切り替えなくちゃ。いくつかの駅を通り過ぎ目的の駅に着く。
小さな家の前に着き、小さく呼吸を整える。
思い切ってインターホンを押してみた。
「はい。どなた?あらっ、この間の子よね?ちょっと待っていらして」
ガチャリと扉が開いた。
「いらっしゃい。また来るような気がしていたのよ。私の感は当たるのね。」
叔母を好きだったという人のお姉さんは小さく笑った。
「さぁ、上がって。今、お茶を入れますからね。」
「ありがとうございます。これつまらないものですが。」
お持たせを渡す。
「まぁ、ありがとう。素敵ね。こちらで座ってお待ち下さい。」
どこかに出掛けて居たのだろうか?髪を綺麗に整えてメイクも施してありよそ行きな感じがした。
「お待たせしました。お茶、どうぞ。頂いた水菓子も出させてもらいますね。とっても美味しそう」
柔らかで柔和な雰囲気を纏った人だ。話しやすそうで良かった。
「ありがとうございます。毎回突然来てしまってすみません。お忙しくはなかったですか。」
「実は、ついさっき帰ってきたの。良かったわ。帰ってから訪ねてくれて。」
ちらりと時計に目をやると3時過ぎだった。
「今日はね、弟の四十九日だったの。」
「そうだったんですか。お忙しいところに来てしまってすみません。」
「いいのよ。私もこんな日には話し相手が欲しいわ。それにね、どうしてもあなたに見せたいものがあるの。ちょっと待っていてね。」
イタズラな笑みを残して奥の部屋へ消えていった。