ラブレター。
亡くなったばかりの叔母宅を片付けに行くと、ポストに叔母宛てに手紙が届いた。差出人は男性で悪いかな?と思いつつ封を切った。
結子さん、お久しぶりです。
お元気でお過ごしでしょうか?
僕は病を患いもう長くないようです。
悲観し、絶望しましたが過去を思い出し、貴女との日々を思い出しました。貴女はお気付きでないでしょうが僕は貴女が好きでした。貴女に思いを伝えられなかったことそれが僕の心残りでした。長い年月を経て突然思いを告げることをお許し下さい。そして出来れば最後にひと目貴女に会いたい。僕の願いを叶えて頂けないでしょうか?
見てはいけないものを見てしまった気がした。
余命短い人に亡くなっているとはとても伝え辛く、私は叔母の振りをして返信を書いた。
お久しぶりです。
私はとても元気です。
お手紙を頂けたこと大変嬉しく思います。私もお目にかかりたいとは思いましたがとても時間が作れそうになくお会いできそうにありません。お手紙で済ませます事をお許し下さい。私で良ければ今後もお手紙のやり取りを続けて頂けないでしょうか?
ポストに返信を投函してから私は気が気でなく、主不在の叔母の家へ頻繁に通った。
3週間ほどして返信を見つけ封を開けた。
お返事頂きありがとうございます。
弟は先日眠るように息を引き取りました。
結子さんからお返事が来たことをとても嬉しがっていました。
文通の提案も日々の楽しみが出来たと喜んでいた矢先のことです。続けることは出来ませんでしたが弟の気持ちを汲んで頂きありがとうございました。
手紙の返信で叔母の他界を知らせようかと思ったけれど、叔母に成りすまして返信したことに罪悪感が募り母に相談した。
「姉さんの振りして返信を出した?何をしているのあなたは!!」
「ごめんなさい。手紙見ちゃったら放っておけなくって。で、私訪ねてお墓参りさせてもらおうかと思うの。叔母さんには可愛がってもらったし、生きてたらきっと叔母さんも訪ねたんじゃないかな?会社も有休消化しろって言われてたところだし。」
「あなたがそうしたいなら、そうすればいいけどちゃんと失礼を謝りなさいよ。怒られたって文句は言えないんだからね」
「はい、分かっています。ちゃんと話して謝ってきます。」
私は、会社から1週間の有休を貰い手紙の住所を頼りに叔母を慕っていたという男性を訪ね、ご家族に真実を伝えることにした。
東京かぁ。そう言えば叔母さん昔東京に住んでたって言ってたな。恋愛話なんてほとんどしなかったけど、恋人とか居たのかな?好いてくれる人が居たって事は魅力はあったって事だよね。
あ~っ、近親者で恋愛不適合なのは私だけかぁ。
ってか、知らない人に会って謝罪するなんて気が重いなぁ。自分で撒いたまいた種と言われればそうだけどさ。
何で余計なことしちゃったかなぁ。
ごちゃごちゃウダウダ考えながら電車に揺られ、私は東京に舞い降りた。人、人、人。何だこれ。波のように押し寄せて来る人の集団。駅構内は物凄い混雑で早くも私は人に酔った。
田舎とは違うなぁ。
電車の乗り継ぎが分からなく、比較的優しそうな人を捕まえて聞いてみることにする。
「あの、この電車の乗り継ぎはどこから出ていますか?」
声をかけられたおばさんはひどく迷惑そうな顔をして
「えっ、乗り継ぎ?乗り継ぎなんて掲示板見れば分かるでしょう?悪いけれど忙しいので失礼しますね」
優しそうな人が優しいとは限らない。
私はそう学習した。
もう他人に声を掛けるのは怖いので駅員さんを探し声を掛ける。
「ここの駅に行きたいのですが、どこから乗り継げばいいですか?」「ここでしたら5番ホームから乗って頂ければ行けますよ」
さすがに職業としている人は優しかった。私は無事5番ホームに行き着き電車を乗り継ぐ事が出来た。ギュウギュウ詰めの車内でひとり考える事と言えば、この先対面する叔母を慕っていたという人の家族と対面する事だ。先ほどの優しそうなおばさんがトラウマになってしまい、知らない人を怖く感じる。
このまま引き帰そうか。
別に会わなくても伝えることは出来る。
手紙でも良いじゃない。
そうこうしているうちに最寄り駅に着いてしまった。
行くのはやめよう。
迷惑かもじゃなくて迷惑だよ。きっと。やーめた。
でも、せっかく来たし、家の外観だけでも見ていくか。
手紙、ついでに投函しちゃえばいいんだ。
手間、省けるし。我ながらいいアイディア。
コンビニで便箋を購入し、カフェに滑り込んだ。
アイスコーヒーを飲みながら手紙を書く。
阿部慎治様ご家族へ。
私は山崎結子の姪です。
実は叔母の結子は亡くなりました。
突然の不調の手紙を頂き、叔母が亡くなったことを伝える事が偲ばれあのように手紙を繋いでしまいました。失礼をお許し下さい
よし、完璧でしょう。
完璧。
あとはポストに投函するだけ。
さぁ、行こう。
書きたての手紙を握りしめ目的の家に向かった。意外なほど閑静な住宅地の中にその家はあった。小さめな一軒家ながら綺麗に整えられた小さな庭が素敵だった。ここか。さてポストはっと。
あった!!
カサッと手紙を投函していると後ろから声を掛けられた。
「あなた、どなた?」
「うわぁっ、すいません!!すみません!!」
慌ててポストから離れる。
「だから、どなた?」
「あの、あの、あの。すみません。私は山崎結子の姪なんです。実は叔母は亡くなっていてまるで生きているかのように手紙を繋げてしまった事を謝罪しに来ました。それと図々しいとは思いますがお線香を上げさせてもらえないでしょうか?」
「あらっ、そうなの。それなら上がって下さいね。きっと弟も喜ぶわ」すんなりと家に入れてくれた。
私は驚いたのと恥ずかしいのとで気が動転して慌てて線香をあげ手を合わせ逃げるようにいとまを告げた。
「あらっ、もうお帰りになるの?今、お茶を入れるのに」
「いいえ。結構です。すみません。突然お邪魔して。本当に本当にすみませんでした」
「そんなに謝らないで。怒ってなんかいないから。でも、もし謝罪ついでに私の願いを聞き入れて下さるならここの霊園へ行って弟に挨拶をしていってくださる?簡素な墓地で恥ずかしいんだけれど。ここへ行ってこの数字を入力すれば弟に会えるから」
「はい。必ず行かせて頂きます!!失礼しました」
慌ててスニーカーを履き、家を後にする。
「気を付けてね。」
とても上品な人だったな。
吹き出た脂汗を拭いながら立ち去る。
さぁて、どうしたものか。霊園ね。
これは行かなければいけないだろう。
幸いまだ明るいし今日のウチに行けそうだ。
早い内に済ませてしまおう。
何だか疲れ果てて駅前でタクシーを拾い、目的の霊園に向かった
自動のお墓って言うんだろうか?機械で管理されていて番号を入力すると故人の位牌が運ばれてきた。
私は買ってきた線香に火を付け手を合わせる。
阿部慎治さま、お初にお目に掛かります。私は山崎結子の姪です
叔母は最近亡くなりまして。阿部様より先に天に召されました。私の勝手な判断で文通の提案をしてしまったことお許し下さい。
長々と言い訳めいたことを語り霊園を後にした。
すこし、いや、だいぶ気持ちが軽くなった。
私の使命は終わったぁ!!
ここからは女子旅らしく東京を満喫しよう。
この先こんなにまとまった休みなんて取れるか分からないし、何より気が重かった事が終わって開放感が半端ない!!
取りあえず今夜の宿を確保しなきゃ。
スマホを取り出し格安の部屋を押さえる。
よっしゃ出来た!!
夕ご飯はどこにしようかな?
こってりイタリアン良いかも~。
なんて考えながらスマホ片手に逡巡する。
東京って冷たいけど、おひとり様に優しい都市かも。
だって誰にも関心無いじゃん?
田舎じゃこうはいかないよ。
スマホで見つけた美味しいイタリアンの店に行きペスカトーレを堪能する。うっまぁ。超美味しい。幸せ。
めっちゃ食べてお店を後にした。
お店を出て今日泊まるホテルに向かう先で人にぶつかった。
「うっわ。痛ぇ。すっごい痛いんだけど。お姉さん」
「えっ?あっ、すみません」
「今、謝ったよね?」
「えっ、あっ、はい。」
訳も分からず下手に出てしまう。
「治療費払って貰おうかな?俺さ、すっげー痛いんだよね」
「えっ?」
「だからさ、すっげー痛いって言ってんの。」
「はぁ。」
「だから治療費言ってんだよ!!」
「ええっ?」
訳が分からない。
そりゃちょっとぶつかったけど、私が悪いの??
混乱していると通りすがりの男性が助けてくれた。
「あんたさ、本当に痛いの?怪我したの?嘘つくと偉い目見るよ?」
「あっ、何言ってんだよ。お前」
「いや、だって。どこも怪我して無いじゃん?」
「うっせーんだよ。どけ!!」
割って入ってくれた男性が突き飛ばされ、絡んできた男性は逃げていった。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫。大丈夫。ってかアンタさ、危機感ねーんじゃねーの?」
「すみません。」
「すみませんじゃねーよ。本当バカ。馬鹿の典型。俺が助けなかったらどうしたの?」
少し考え
「たぶん、揺すられて今頃泣いてたでしょうね。」
「本当馬鹿。奢れよ。お礼に」
「あの、貴方もゆすりじゃありません??」
「ちげーよ。馬鹿!!」
男性は大笑いした。取りあえず悪い人では無さそうだ。
「立ち飲みね?」
「はっ?」
「だから、立ち飲み奢れ言ってんの!!」
「分かりました」
「じゃぁ、こっちね」
ズルズル引っ張られ立ち飲み屋に入れられる。
「アンタさ、田舎者?」
「えっ、まぁ」
「いつまでこっち居るの?」
「たぶん、1週間くらい。」
「おっし、じゃぁ1週間の間、俺が付いててやるよ。決まりな!明日、10時ここの前で待ってるからよ」
「えっ、でも仕事とか平気なんですか?」
「平気、平気。俺さ、フリーのボンボンだから。これ。見たことある?」
男性は財布からブラックカードを抜き出した。
「初めて見ました。上限無しのカードですよね?」
「そっ、俺さ、すっげーボンボンのお人好しなんだよね。だから明日からあんたの護衛になっちゃるよ」
「でも。」
「でもじゃねーよ。アンタみたいなヤツほっとけねーよ。完全なお登りさんじゃん。東京はね、悪い人いっぱい居るよ」
「ブラックカード持ってて揺する人もどうかと思いますけど。」「あははっ、そだね~。俺暇だしさ、観光案内するのもいいかと思ったんだけど。スカイツリーとか良いよ~。」
スカイツリー。
スカイツリーと言えば言わずと知れた名所。
「スカイツリー行きたい!!」
言ってしまって後悔した。
「よし、決まり。明日はスカイツリー観光。10時待ち合わせな。この店の前で待つよ。アンタさ、今夜どこ泊まるの?」
「カンナビジネスです。」
フリーのボンボンさんは、ちらっと腕時計に目を落とすと
「よし、近いな。ホテル前まで送るよ!!ご馳走さまな。行くぞ!!」
本当に奢らされてしまった。。。この人が護衛に付くとして私の予算はもつのだろうか。。。
カンナビジネスは隣駅の目の前にある。
私達はなだれ込むように電車に飛び乗った。
どうしよう。どうしよう。
この胡散臭い人を一緒に連れてきてしまった。
もしも、もしもホテルの部屋に押し入れられたりしたら。
考えるだけでゾッとした。
確かホテルの近くに交番があったはず。そこに駆けんで訴えれば助けてもらえるはず。よしその作戦で行こう。
駅に着き改札を抜けもう直ぐホテル。
その先が交番。ここから駆け出そう!!!そう思った瞬間、フリーのボンボンさんが立ち止まり、私は体を打ち付けた。
「痛いっ。」
「痛いじゃねーよ。泊まってんのここだろ?俺は送り届けたからな。明日10時忘れんじゃねーぞ。じゃーな。」
あっさりと、本当にあっさりと帰って行ってしまった。
「えっ?」
私は声にならないような声しか出ず、ヨロヨロとホテルの部屋に吸い込まれていった。部屋に入りユニットバスに並々とお湯を張る。置いてあった入浴剤をいれ、洋服を脱ぎ捨てる。
シャワーを頭から浴び気持ちを落ち着ける事に集中する。
ザブン!!
湯船に体を沈め、今日1日を振り返る。疲れた。疲れすぎた。。。
でも、あの人悪い人じゃなかったな。ちゃんと送ってくれたし、っていうか。忘れていたけど電車代。払ってないや私。逃げることに必死で忘れてた。どうしよう。でもさ、明日また会うなんて気が重いよ。仮に良い人だとしてもよく知らない人と行動なんて気が重い。私だってさ、立ち飲み奢ったよ?立ち飲みのが高いくらいだし。だから気にしなくていいんじゃない?そうだよね?そうだよ。明日は行かないでひとりで東京を満喫しよう。そうしよう。そう決めたら心が軽くなり、バスルームから飛び出した。私は濡れ髪のままベッドに飛び込んだ。