盛った罪は勝利への布石
誰しもが憂鬱な月曜日の朝。皆々嫌々重い体を引きずり、それぞれ学び舎や職場に向かう。姿形だけは可憐な主人公、フェリシア・エドラだけは気合十分、眼を輝かす。
とりあえず――下着姿で姿見の前に立ち、二の腕で乳を寄せたり、手で持ち上げたりしている。乳の確認に余念が無いのは遊んでいるのか、義務感の表れなのか。
「――今日も問題無し”☆!!!」ニヤリと口角が上がる。
白ブラウスに袖を通しマイクロミニに脚を入れ縦じまのラインが入った黒のジャケットを羽織る。締めにハイニーソを履き、髪型はポニーテールにし、仕度は整う。絶対領域のタテ幅は2㎝と言った処か。
出かける前に、最終確認で姿見の前にもう一度立つ。
「…何故か…何かに…負けてる気がする」
胸パットを一セット仕込む。
「…まだまだイケる!」
口角は更に上がり、鼻歌を歌いながら胸パットを追加する。
「……まだイケる! ……何事も、 ばれなきゃ良いのよ”☆!!!」
三セット目で納得したようだ。――御満悦のフェリシアは母親の部屋から水色のバーキンを拝借して学校に向かう。此の子はいったい、何がしたいのだろう…何と争っているのだろう…。
***
クーラ王国、予言補佐官執務室。
おでん鍋の具は底を付き、はんぺんだけが煮汁にぷかぷか浮いていた。
「足りん足りん足りん!!! よーじょが! 足りん! 俺は――幼女だけで生きれる!!」
深酒はしないが切である。うっかり漏らした一言で社会的に死ぬからだ。――ロリコン認定されたジュクブレンド。
「酒のあても無いですし! 締めでラーメンでも行きますか? さっぱり塩味で!」
人の話は一切聞かない飲んだくれ駄目天使。
「この星にラーメン屋なんかないぞ。うどん屋なら在るが、山奥まで行けばな」
「――じゃあ繰り出しましょう! ――地球行きましょ――地球!!」
「仕事あるんだけど、一応、俺、お偉い役人なんですが! エ、リートなんだぞい!」
「一人や二人抜けたぐらいで廻らない国家なんて――初めからダメダメです! 此処は権力の使い処! バンバン有給使いましょう!!」
「遠いから、めんどくせーよ。 もう寝よーぜー。 もう――お家帰る!!」
「…あ゛!! …之から…盛り上がろうって、時に!!! 一人で寝るってか! 国ごと水没させ、セイレーンを呼び出し! この物語を終わらせますわよ!!!」
帰りたい時に帰れない、酒の相手は断れない。傍から見たら、ただ飲んだくれてる様だが呼びだした相手が悪かった。接待は接待、相手は創造主。これも仕事だとジュクブレンド・シンミハーハはお偉いさんとはいえ結局は仕事人間。誘った相手が不味かった。古乃美ちゃんには逆らえない。
***
四葉高校高等学園二年三組教室。ホームルーム前。
さっさと数人スカウトしてクーラに帰る。此の顔!此の胸(偽装)!此の脚!で地球人――チョチョイのチョイよと、フェリシアは根拠の無い余裕をブチかましている。
そんな彼女を余所にクラスの各生徒達はなにかと忙しい。
「盛ったな、正大に盛ったな。しかし、俺は評価する」
「ありゃ4枚は仕込んでる俺の眼に狂いは無い」
「土日挟んだし、手術か? 豊胸か?」
ごちゃごちゃ五月蠅い男子生徒。
私も卒業してから手術受けようかしら…
胸に手をあて、大学生活から一発逆転を狙う女子生徒。
「男だ。男が出来たんだ! 揉まれたんだよ! 揉まれて成長したんだ!」
発想が貧弱な残念な奴。
「つーか、元からツルペタで今まで偽装してたんじゃね?」
何でも疑う悲しき性を背負う者。
「自由に揉んで良いならサイズは問わん、例え偽物でも」
うん、正直で宜しい。
城羽なんか知った事かと謎のネットワークに書き込みをする軍服の生徒。
『CQCQ、本日、内田ひとみ半袖ベスト着用外れ日』
更には、涙を流し、ありがたや、ありがたやと手を合わせる、おっぱい教信者。
「ふん、三次元の豚め! 俺様の愛は二次元に在る!」
行く処まで行って帰って来れない医者が必要な美少女アニメ専門オタク。
何処のクリニックかな?後でこっそり聞こう…心の中で呟く出席番号16番『青島まき』
「ハレンチな、Aカップこそが正義!」
その発言は止めろ。事案に一番近い。
谷間は少なくても本物、拝めただけで悔い無し。
狙ってるのか?ツッコミが欲しいギャグなのか?欲しがりも大概にしろ!
女の価値は胸じゃない、拳が震える女子生徒。
恋よ、恋。恋は人を狂わせる…
たった一人、内田ひとみだけは黙々と次の新作『男の合体”三連ケツ”』を書いていた。
鳥飼雪美の姿は見えない。遅刻だろうか。
変わった髪色に誰一人突っ込みを入れないクラス生徒達。この学園ときたら問題児しか見当たらない。
***
新宿駅東口付近。
厄介な二人は古乃美ちゃんの力でテレポートしてきた。ムッツリすけべもテレポート位は出来るが、別宇宙となると国家予算が吹き飛ぶので、飯如きで能力は使えない。何かが微妙に違う制服を着た高校生がジュクブレンドに駆け寄ってきて
「この人、――痴漢です! ――絶対痴漢です!!」
鳥飼雪美は笑顔で叫んだ。満足そうで笑顔は崩さない。群がる警察官。
「ななな、なんだ此の強力な魔力を保持した少女は! これだから地球は!」
「お嬢ちゃん、被害届だします?」
「とりあえず暑まで」
「――逮捕! ――逮捕! ――逮捕!」
「十代は好きだが無罪だ! まだ何もしとらん! ――無礼な!」
「まあまあまあ”☆! スケベは否定しませんが、この男、そんな根性在りませんから! おほほほ!」
各自色々喋り出す。迷惑な話だ。書く方の身に成って欲しい。
「で、触られたの?」一人の警察官が問いただす。
「まっだでっす~! でも絶対に此の人――痴漢です! 顔に書いてます!」
連行される雪美。はやり恐ろしい星だと危機を感じるジュクブレンド。楽しそうな創造主。
「――先ずは、餃子行きましょう! ラーメンは其の後で!!」
***
四葉高校高等学園二年三組教室。
一時限目、授業科目:数学Ⅱ。
なにやら目付きの鋭く怪しい雰囲気の男性教師が無愛想に教室の扉を開けた。無精髭で酒臭い。二日酔い丸出しだ。黒板に自習――ひらがなで書き、
「…頭が痛い。…誰も喋るな!…頭に響く!……寝るから委員長、40分後に起こしてれ!」
その喋り声は低く、何故か子宮に響くようでエロい。数人の声フェチ女生徒は悶絶する。女子生徒だけは大丈夫だろう、問題無いだろうと思っていたが、この学園は救いようが無い。
自堕落な教師は教室の隅で寝始めたが、10分もすると、今日駄目だわと言いながら立ち去り消え去った。
おおかた理科準備室に隠してるシングルモルトで迎え酒をしに行ったのだろう。『化学薬品』と言っても間違い無いのだが四葉学園は奇妙が過ぎる。飲酒教師が何故許されるのか
シングルモルトとはウィスキーの一種で産地はスコットランド。銘柄はジョニウォーカー青ラベルで非常に高価なお酒、一瓶14000円~30000円。何故か理化準備室に2ダースは隠して在り、無くなると自然と補充される。24本ともなると教師の給料では厳しい処。酒の出処が物凄く怪しい。
2時限目、授業科目:古文。
童貞殺しの異名を持つ滝川純は、背中と脇から腰までガラ空きのノースリーブワンピースセーターを着込み、ブラ(深紅色)はしてるものの横乳は見え、茄子がぶら下がった様なボインボインを魅せびらかし現れた。ギリ、ギリでパンツは見えない。多分履いて無いのかも知れない。夜の方は大変にお盛んで楽しそうである。
本来ならば、愉快な四葉高校の男子諸君が興奮し大騒動に成るはずだが、狙いすぎて要る色気に用は無い。色気の乱発は数打てば当るものではない。
真実の萌えは自然であり偶に観れるから良いので在り、視力は2.0を越えて要るのに男受けが良いからと、赤いフレームの伊達眼鏡はやり過ぎだ。
男子生徒の萌えの哲学は徹底して厳しい。
滝川の新任当初は、この世の楽園と男子は絶叫したが、1週間もすると興奮は沈静し平和を取り戻した。
滝川派一筋を名乗ろうものなら、にわか、マニア、訓練不足、熟女好き、BBA選、只の教師フェチ、修行が足りん、根性が足りん、気合が足りん、病名ニート、人生ポンコツ、魔法使い確定、将来ハゲ、とりあえず旅に出ろ、シベリアに行け、とりあえず肉を食え、と冷ややかな罵詈雑言の雨あられで暴言の荒らしに合う。流れたノリに任せ、ストレス発散の的となる。
何故に此処までボロクソに言われるか。
過去の惨劇、『血のバレンタイン滝川事変』の傷が癒えてないからだ。
しかし男性生徒全員、あわよくばと思っているのも事実。
そして何故だか滝川純に近づくと災いが絶えないからだ。
更に男子生徒の心の傷を抉るエピソードは在るが
それは次の機会に残しておく。今はまだ恐ろし過ぎて語れないのだ。
内田ひとみが人気なのは、何一つ狙って無いからだ。天然のフェロモン程、強いものは無い。
フェリシアは
「――ッチ”!!」と舌打ちをする。何と張り合ってるんだろうか彼女は?無駄に盛った乳は、まさに無駄だった。50分間、滝川は昨夜のお相手の文句ばかり撒き散らし姿を消した。
この学園の教師ときたら毎週月曜日はこうだ。生徒同様、頭の中は毎日が文化祭。
一応大人なので仕事はするが、いざ休日となると酒や賭博、性活動にいそしむ事は基本とし、釣り、ダムマニア、鉄道オタにモデラー、サバゲー、48時間INしたまま動かない中毒者、盆栽、手芸、遊びに対しては仕事以上に全力を注ぎ疲れはて、週始目にまともな授業なんて滅多にお目にかかれない。三時間目はもっと酷く教師すら現れない始末。
やっと巡って来た好機、フェリシアが動かない筈がない。許可無く教壇に立ち、勝手に特別授業を開始する。本来は真面目な彼女、部屋には膨大な資料が在るので日本の文化の勉強は既に済ましている。他人の心を掌握するなど彼女には余裕で、失敗することなど在る筈が無い。気合充分、盛乳充分。段取りにミスは無い。
「…コホン」
鎮まる教室、黙って様子を伺うクラス生徒。いざ、視線が集中すると、ビビるへたれなフェリシア・エドラ。
黒板に『よこそフレミアへ』と書き…
「――ワイ、超美少女フェリシアが、異世へと彼方をご案内するんゴw!」
作り笑顔130%で喋り出す。
時間が止まった。魔法の国の少女の心中は穏やかではない。やり方を間違ったかなと、重罪級のミスに脚が小刻みに震える。長い永遠の様な3秒の沈黙の後…
「ネット用語ですり寄るな!」
「電波帰れ!」
「偽乳偽乳!」
「――城羽、大事故だ! 保険会社呼べ!」
「盛大に外すとはお見事!」
「脱げ!脱いで詫びろ!」
「この空気どうするんだよ責任とれ!」
「勇者あらわる!」
「漫画だけ書いてろ、バーカ!」
「手術か? 一括か? ローンか?」
「シリコン乙!」
「それ以上喋るな、巻き込み事故で俺も怪我する!」
「盛り乳! 盛り乳!」
繰り返すが私立四葉高校高等学園に慈悲など存在しない。暴言が言えるチャンスが発生すれば波に乗るのがこの学園の流儀。
作り笑顔130%に怒りが加算され、アホ毛がぴょんぴょん数本増える。怒りがこみあげ開き直る。
「じゃっっかしぃぃぃーーーーーーーー!!!!!」
教卓は蹴り上げられ、5mは噴き飛んだ。物理的に絶対にあり得ないのだが煙が教室を覆う。マイクロミニは、ずり上がり絶対領域は面積はやや増え、小宇宙のハイニーソから覗ける生太ももは甘美!
「はい盛りました! 見事にお前ら好みに、盛りました! 文句あるか精子脳! 私みたいな超美人がクラスに要るだけで感謝しろ!」
もう、肩で呼吸するしか無いフェリシア。必死でウルトラミスの挽回を探る。
「我が漆黒の眼球は真実を見極め真実を述べる!――貴様は偽物!――偽物は偽物だ!」
完全に拗らせてる一人の男子生徒が問題発言の彼女にきっかけを作った。
「――深夜枠規準正統派ヒロインを舐めるな!!!!!」
フェリシアは叫びながら白ブラウスを引きちぎり、ボタンはブチブチ飛び散る。純白のブラを披露し、パット6枚を宙に投げた。
「――嘘は捨てても立派なモノはある! 見よ、此の見事なカップDを拝みたまえ!」
陥落寸前、立場危うかった主人公は底力を振り切り一瞬で場面の空気を変えた。卑怯だがエロは強い!
「おおおおぉぉぉぉーーーーー!!!!!!」
男子生徒は歓喜する。
「ナイス城羽みすず!」
「俺は最初から出来る子だと知っていた!」
「良くやったが正統派では無いぞ!」
「ありがたや、ありがたや」
「俺は今日から、みすず派だ!」
「写真部、カメラスタンバイ!」
勝利が確定したフェリシア・エドラは高い声で笑う。手の甲を頬にあてお嬢様ポーズで綺麗に締めた。
歓喜高まる教室の中、謎のゆるきゃら隊のメンバーの一人、忍者君は静かに煩悩無く城羽みすずを観察していた。
「拙者、見極めたり。リーダーの出現を。学園の解放は近い…」
なんの事やら?滅茶苦茶が過ぎて結構どうでも良い。
***
餃子屋専門店、さやかみき。カウンター12席。生500円。瓶ビール500円。各種チューハイ500円。各種、麦、芋焼酎500円。ハイボール500円。日本酒800円。餃子一皿480円。梅しそ餃子580円。冷やしトマト380円。キュウリ210円。揚げにんにく300円。高級な酢を置き、こだわりが強い。
例の二人…
「――梅しそ餃子5皿、キュウリ、冷やしトマト、瓶ビールお願致します”☆!!」
駄目天使は食う飲むしか頭に無い。それは平和でよろしいのだが……。
「なんで瓶ビールかな、普通生だろ」
「解ってませんねえ! 此処はサーバー掃除して無いから美味しく無いんです。餃子だけですよ!」
「うお、ニンニクの味はしっかりするのに臭わない。 皮がパリパリだ。 梅の酸味が加減が良い」
何時まで飲んでるのかこいつら。何しに来たのかも疑問だが、フェリシアの事等は一ミリも考えてないのは様子を見て要れば解る。今後、事件でも起こさなければ良いのだが。