内田ひとみと当たり日の隊員達
私立四葉高校高等学園には、秘密裏のネットワーク部隊が存在する。携帯、パソコン、伝言、旗振り通信、時には火を焚き――烽火を上げ、あらゆる手段で、とある人物の行動状況の情報を共有する為に。
ある人物とは内田ひとみ。本日は『あたり日』だ。初夏、太陽眩しい月曜の朝7時半、電車内で、男子生徒1年生が”異変”に気が付く。ひとみのブラウスが本日は大解放状態なのだ。
彼女の表情は何時もと変わらず堅い。
使命に狩られた一年生は携帯電話でネットワークに書き込みをする。『緊急事態、本日、第4ボタンまで開放、下着の存在は確認出来ず――over-』1年生は我先にと携帯カメラを起動し彼女に近づこうとするが都内の朝のラッシュは見動きは自由を許さない…
ネットワークの隊員達に激震が走る。
プレミアの現象にある者は寝間着姿のまま学校に向かい、ある者は買いたてのお湯の入ったカップラーメンを捨てダッシュし、ある者は徒歩では間に合わないとタクシーを拾う。
ひとみは真面目な少女だ。お辞儀する時は礼儀正しく深々と頭を下げる。シャツは重力に引かれ胸元が肌蹴るのは確実だ。愉快というか残念というか、多感な男子学生がその瞬間を逃すはずがない。
流石に――第4ボタンともなると校門前の先生が注意するので、彼女が学校に辿り着く前にひとみと接触するのが今回の『ミッション』の制限時間だ。
事の第一発見者は鈍行電車では間に合わないと判断し急行電車で先回りをはかるが、運悪く乗り換えた列車の行き先行き表示は『池袋急行』と表示されていた。学校とは真逆の路線だ。
しかし彼の功労は賛美に値する。もし、ジュクブレンド・シンミハーハがネットワークの一員だったのならば大層なな褒美を与える事は間違いないだろう。
今回の話の主人公は――内田ひとみとなる。『ひとみ回』なので御了承願いたい。
本来であれば城羽みすずこと、フェリシア・エドラが取り合えず脱ぐ、何かと在れば裸を披露するだけの物語のはずなのだが、其れだけではお話が進まないし、ジュクブレンドに怒られてしまう。登場する女子キャラは全て詳細にエロを描けと!!――迷惑な話だ。
彼が本気で怒ると大陸の一つや二つは数年に渡り強烈な焔が消える事はないだろう!居付け加えて何処かに存在する倫理委員会のお怒りに触れない程度に収めないと、いやはや面倒な縛りが在るので大変である。
幸運に一番乗りした者はタクシーを拾った学生だった。ケチる事無く――ここぞとばかり銭を使ったのが正解に導いた。幸運な彼はひとみを見つけると、
「――釣りは要らん!!!」
千円札を二枚取り出し、運転手に料金を支払い冷静を装う。特に裕福な家庭ではないし、毎月、小遣い日が待ち遠しいのだが――直感でこのセリフは生涯で今しか使う機会が無いと悟ったのだ。一度は言ってみたかったのだ。重要なミッションに挑む気持ちが彼に勇ましさを与えた。其れは困りますと運転手はお釣りを手渡す。しかっり受け取る彼はなんと器小さし。多分、この学生は一生こうだろう。
ひとみに――おはようの挨拶も無く話掛ける。
「今回の作品、仕上がりました?」
ひとみとコミニケーションを取るのには、この言葉が一番だ。彼女は腐女子とはいえ芸術化肌でアーティステック。余計な常識は邪魔になる。漫画同好会に所属しているが漫画を描いた事は無く、全て一枚絵で耽美を追求している。男性の裸限定なのが残念で仕方がない。
彼女は鞄に手を入れごそごそし、一枚の絵を男子学生に見せる。
「――今回どぉ? 素敵?」
褒めてはいけない。何かしら粗を見つけ酷評しないと、ひとみは無言で立ち去ってしまう。
ネットワークの隊員ならば誰でも知っている常識中の常識。
間違って女性の萌え絵が見たいと口に出した場合には彼女の必殺技、『真空回し蹴り』が炸裂する。其れは其れで生足とパンツが拝めるチャンスなのだが今回は目的が違う。
ちなみに――血の掟で結ばれたネットワーク参加者は全員、見事な蹴りを一度は喰らっている。もはや通例の儀式である。
中には可哀想な事に、あばら骨を折られた男も。見事な武術を目撃した男子諸君は拍手する――華麗な技では無く、生足と翻ったスカートからチラリと覗く下着に。
ひとみは基本、仏頂面で真面目と言えば真面目なのだが――天然成分が強い。
彼女の事だ、ノーパンの日もある。その時に廻し蹴りを喰らった会員は褒め称えられ男子学生の友情で数週間は、昼飯、菓子パン、ジュースに困らない。場面に出くわせ無かった者は運の無さに己を呪い涙する。
情熱を燃やし、根性を魅せ、残り少ない小遣いを失った学生は少ない知識と普段は使う事が無い知恵を無理やり駆使し回答を述べる。
「あれだな! あれ! うん、自然が足りない! 薔薇の一つは欲しい処だ! 前の絵の方が良かった!」
内田ひとみは何となく納得し、ありがとう御座いましたと言いながら深く御時儀をする。肌蹴た胸元は広がりを増し、一番乗りした学生は絶対に視線を外さない――1,280円が無駄になる。白く艶やかな皮膚で覆われた膨らみ盛り上がった”目標”――禁断のラストカーテン桜色に染まった其の先の形状を。
生きてて喰い無しと涙腺が緩む。…涙の色は美しく輝やいた。
勇敢なる男子学生の涙をよそに鳥飼幸美が、おはよう、ひとみちゃんと挨拶し掛けよる。今日は制服を無視し巫女服の様なドレスの様な身形で、散々ボケをかまし続けた男子学生を明後日の方角にぶっ飛ばす。
流石は主要キャラクター。名前が付けられているのは強い。名も無き男子学生の苦労と努力と生き様を掻っ攫う。
「――乳首は出しては行けません! ほんと、ひとみちゃんはお馬鹿さんなんだから!」
鞄から絆創膏を二つ取り出し、雪美はひとみの胸に封印を処す。――見事。否、余計な事をしやがる。今のところ、今日は内田ひとみはこれ以上醜態をさらさなくて済んだ。
一歩遅かった、他の学生、朝飯を食い損ねた者、寝間着で登校した者、気合十分一眼レフカメラを用意した者者その他大勢は、ゆきみの余計な行為に無残に『あたり日』の消失を噛みしめた。
幸運を勝ち取ったタクシー男子は、嫉妬から生じる恨みを買い、略式軍法裁判に掛けられる事に成る。当然、弁護士は付かない。写メの一枚でも撮って居れば祭り上げられ卒業まで勇者扱いされて、更には只で焼肉にでも有り付けただろうに。
血の掟で結ばれた友情とはいえ不純な動機の持ち主で構成されたネットワークに慈悲は無い。彼は本日中に内田ひとみの真空廻し蹴りの餌食と成る事は避けられないであろう。
***
クーラ王国、予言補佐官室。
ジュクブレンド・シンミハーハは、おでんの屋台をむりやり部屋に持ち込み、古乃美ちゃんを呼んで一杯やって居た。
「あのな! 見えちゃ駄目なんだよ! ギリギリのラインで見えない、それが浪漫だっつーの!!!」
「――う~ん! フレミアにはピクシーも居るし使い魔の凌辱モノでも私は構いませんけど☆”!」
「馬鹿野郎! それはそれで面白いが、それっぽいタイトル考えるのにどれ程悩むか貴様は解っておらん!」
戦争がどうのとか辛辣な状況のはずなのだが、なにやら平和そうで一安心である。