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第七章 思考

そんなわけで、今俺は家の中、俺の部屋、ベッドの上だ。ここにいると思考力が3割増しになる気がする。まあ、元値が少ないから大した数じゃないのだが。

 こんな状況なのに、宝探しをせよ、というあまりにつまらなく、そして命令口調な依頼を受注してしまったのだが、見返りとして攻撃呪文(どちらかというと補助呪文の方が正しい気がする)を習得できるらしいので、まあいいかと自分に言い聞かせつつ、俺は彼女との会話を思い返していた。


『これは、この街の、どこかにあります。』

 どこかって。

『この街の、あなたの家からおそらく半径2キロ以内の場所、そしてあなたにとって思い出深い場所の中心地点から半径5キロ以内のどこかにあります。』

 はっきり言ってくれ。

『さあ?私は伝えるよう言われただけですから?』

 誰にだ。

『むっ、禁則事項です。』

 彼女はしまった、という表情を見せつつも、いまだ微笑んでいた。


 こんな感じだった気がする。随分と数学的な宝探しである。俺を試しているのだろうか。それともメーター片手にスコップかついでがむしゃらに掘れと。

 いや、彼女はそんなかったるいことを俺に―俺に限った話しではないであろうが―やらせるような人ではない。と思う。何かヒントがあるのだろうか。       

 それにしても思い出深い場所って。

 ありすぎて困るぜ。

俺はため息を吐きながら、ぼんやりとベッドの横に貼ってある世界地図に目を向けた。

何年前からそのままなのだろうか、埃をかぶってはいたが、汚れなどは見当たらない。

世界地図。

 世界の縮尺図。

 縮尺の大きさに反比例して正確指数はどんどん損なわれていくのだと思っていたのだが、案外そういうことは無く、かなりの精度を保っているということだ。

そうか、地図を使いやいいんだ。

何でこんな簡単なことに気付かなかったのだろう。

そういうわけで俺は机に向かい―何年ぶりだろうか―中学のとき地理で貰ったこの周辺の地図を引っ張り出してきた。縮尺2万5千 。よく分からないがなんだか良さ気な雰囲気なので、とりあえずここは喜んでおくことにしよう。俺の不整理整頓には助けられたぜ。

筆箱からコンパスを取り出し、むき出しになっていた針で手を刺し痛えな畜生!壁に投げつけたくなる衝動を何とか抑え、地図にある黄色い点に針をぶっさす。授業中、自分の家から学校までどれくらいの距離があるか図るために自分の家にマークをつけた、それがこの点だ。

2万5千だから、二キロは2000メートル、1センチ250メートル…

8センチか。

わが頭脳、未だ衰えず。

定規で八センチを取り、コンパスでぐるりと弧を描く。我ながらきれいに書けた。

後は、思い出の場所探しだが、やはりありすぎて難しい。

「うむむむ…」

そうだ、彼女は言った、家から2キロ、思い出の場所から5キロと。つまり、思い出の場所の中点で描いた丸が、家から二キロの丸と重なり、記憶媒体は、その重なった地域にある、ということなのだろう。

だったら、家から半径7キロ以内のところにその『思い出の場所』というのはあるんじゃないか。

おお、今日は冴えてるわ。今数学のテストをやったら30点は取れるかもな。知識不足はどうしようもあるまいが。

そうして家から7キロ(実際の距離で、だ)を取ってみると、思い出に残っていそうな場所は、一つだけ。

あの、公園だ。

公園の中点から5キロの弧を描く。

そして、交わった地域に色をつけてみたのだが。

「うむむ……。」

 広い。

広すぎる。

果たして、彼女が俺にこんなに難しい要求をするだろうか。

ありえない。

多分。

もっと、何かヒントがあるはずだ。

 …とりあえず、行ってみようか。いや、ただの時間の無駄になるだけだろう。せめて、場所の目星が付けば……

何か無かっただろうか。

そうして、地図を見ているうちに、俺はその地域の中に俺の通っている高校があることに気が付いた。

だが、そこで特に何かしたわけではない。退屈な思いしか、してないはずだ。

 だとしたらどこだ。

 ……山は?

 情報操作によって作られたであろう、あの山は?

 俺はもう一度地図を見る。教室の窓から見えた山は、少し遠かったが、公園までには至らなかった気がする。

「行ってみるか。」

わずかの可能性にかけて。

…………

やっとの思いで山の麓までたどり着いた。が山といってもそれほど大きくは無く、せいぜい学校より少し高いくらいだろう。

 …胸騒ぎがする。悪い意味ではない。ここにある、そんな気がする。

俺は意を決して、階段を上がり始めた。

……意を決する必要なんて無かったな。

登り始めてから、実に数分というあまりにもあっけなく山登りは終了を迎えてしまったのだが、小山とはいえ山を一つ制覇したと思うとそれほど悪い気持ちでもなかった。

そしてその気分をさらに促進するかのように、景色は綺麗だった。

ここでおにぎりでも食いたいとは思ったが持ち合わせが無く、おかげでそろそろ昼飯時であるということを思い出してしまった。

あまりにも強大すぎる空腹は黙殺することにし、俺は記憶媒体を探すことにした。

 しかし、山頂は思ったよりも広く、なかなか見つからなかった。

…………

どれくらい経っただろうか。陽はすでに傾きかけ、時計は四時を指していた。俺の敢行したローラー作戦も敢え無く失敗し、万策つき途方にくれているわけであるが、さてどうしたものか。早くしねえと、いけない……ような気がする。

「……おい」

「!!!」

 いや、本気で死ぬかと思った。

 心臓の動悸を必死に抑えつつ後ろを見ると、見たことがない見たくもない、つーかむしろとっとと消えてしまえと、初対面にもかかわらず敵意むき出しで言ってしまいそうになるようないけ好かない気障な野郎が立っていた。

「な…なんだよ」

精一杯、すごんでみたつもりなのであるが、相手は何じゃそりゃ、とでも言いたげに鼻でせせら笑った。

「…フン」

 なんだこいつ。

「用が無いんなら帰れ」

「用が無いわけではないが、お前がそう望むのならそうしよう。」

 いや、本気でなんだこいつ。

「何言ってんだ」

「何も言っていない。俺はただここに存在しているだけだ。」

意味わかんねえよ。

「お前も同じだろう。」

「俺は違う。」

「では何をしているのだ。今お前がしていることの意義を説明できるか。」

出来るさ。

「ハ、どうせ探し物をしています、だろ?」

!

「なぜ知っている?」

「既定事項だ」

「は?」

「いや、なんでもない。ところで」

そう言って、おもむろに彼はポケットからあるモノを取り出した。それは、俺が探していた記憶媒体にそっくりだった。

「それを…どこで…?」

「ここだ」

 彼は素っ気無くいった。

っておい。そりゃ俺が依頼された品ではないか。

「それを返せ」

「これはお前のなのか?」

「そうだ、俺のだ。」

「嘘付け。」

 むむっ。

 俺が言葉に詰まっている間に、彼は畳み掛ける。

「なぜお前のものでもないものを俺がお前に渡す必要がある。」

「とにかく、俺にはそれが必要なんだ。……それを、俺にくれないか。」

「もし、俺にも、これが必要だ、と言ったら?」

「!!」

 だが、と彼は続けた。

「あいにく俺には全く必要の無いものでな。」

 くれてやる、と言い捨て、記憶媒体を投げた。取るのも癪なので、知らん振りをしたが、本心としては今すぐにでも取って無事を確かめたかった。

「あんた…」

「礼はいらん。既定事項だ。」

誰が礼なんてするか。相手が、……あれ、まだ名前聞いてなかったか。とにかくあの救世主サマだったら別だっての。

そう言って、彼は歩き出した。そのまま行ってくれたらありがたかったのだが、彼は振り向き、俺に言った。

「妥協はこれが最後だ。今のか弱い貴様を狩っても面白くもなんともない。次に会うときは敵同士……それまで、首を洗って待っていろ。」

「お…おい!」

 しかし彼は立ち止まらなかった。

「……」

 追いかけて、あの変態の顔をぶん殴ってやりたかったが、俺の使命はそんなことではないことを思い出し、慌てて記憶媒体のところへ走り寄る。

「……無事か」

特に大きな損傷は見られなかった。

良かった、と胸をなでおろしている場合ではない、すぐに彼女の元へ馳せ参じなければ。

 すぐに、彼が降りて言った道とは反対の道を歩き出した。せめてもの抗いってやつさ。


……僕はものすごく数学が苦手で、だったら書くなって話なんですけど何かおかしなこととかあったらそれは自分のバカさがなせる業だと思って、軽くさげすんでください^^;


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