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第一章 始まりの詩

前回、間違えて第二章を更新してしまったので、調整を行うとともに、……ごめんなさい。

 そんなわけで、今、俺は体育館に押し込められている。何も俺一人ではなく、新入生全員がこの狭い体育館に押し込められている。

 要は、『入学式』なんつーイカレた儀式モドキをしているのだ。

 この体育館の人口密度はいかほどだろう、下手したらゴールデンウィーク真っ最中のどっかの空港に匹敵するのではないか、なんて考えていると、校長らしきおっさんが見事なまでに感情のこもっていない拍手を受けながら壇上に上がった。そして、催眠術師も真っ青な、睡眠を誘発かつ促進する超魔術的催眠音波をぼそぼそと、だが朗々と発し始めた。

 今日が月曜ということもあり、俺は睡魔のヤローと必死の籠城戦を繰り広げながら、ここで空間を共にしている同士―同志、と言うべきか―どもの顔を眺めていた。ここが普通の県立、偏差値45弱という貧弱高校である、ということもあってか、ちらほらと知り合いや元クラスメイトの顔が窺える。だが、知らん奴らも4割強ほどいるので、俺は変な目を向けられる前に粗探しを中止、数秒ほどボーっとしていたが、睡魔の強力なる波状攻撃に、抗戦むなしく俺の深層心理はついに全面降伏を決意、かくして俺はあっけなく睡魔の手によって陥落した。

…………

「おぅあ?」

 幸い、俺の奇声は拍手にかき消され、誰にも聞きとがめられることはなかったようだ。

 見れば、ヅラ校長が壇上から降りるところだった。あの校長に一時感謝だ。睡眠波のことなんて忘れてやる。停戦協定、同盟締結といこうじゃないか。

 この展開だと、次は校歌斉唱、といった感じだろう。俺はよだれをブレザーのすそでぬぐいながら、そのまま手を上げる。気分が優れない、という意思表示だ。もちろん気分が優れないわけではなく、ましてや貧血などでもない。俺は先生の先導を受けながら、ちらほらと空いている同志の席を目の端で捉えながら、先生の愚痴を聞き流しながら、またか、と言いたげな軽い嘲りの視線を次から次へと放出する生徒の合間を縫うようにして退場する。

 後ろから、校歌と思しきノイズが聞こえてきた。

…………

 ダルダルな入学式から一時的戦線離脱を試みた俺だったが、さすがに授業までサボるわけには行かず、といっても数分で終わる軽い学活的なものものをサボる気にもなれず、俺は仕方なく入学式という名の呪縛から開放されなんとも晴れ晴れとして顔つきのやつらの行進列に混じり、いろんな人のふざけ半分批判的弁論を聞き流しつつ、一年六組、というのを確認してから俺は教室に入った。新学年早々先生にお睨みをこうむるのはいやだからな。

「……。」

 いや、本気でデジャブを覚えたね。

 窓から見える景色こそ微妙に違うが、机、黒板、蛍光灯、全てが数ヶ月前まで俺の安眠の場となっていた、俗称教室とほとんど変わっていなかった。クーラーは―付いていなかった。中学にも付いてはいなかったが、高校にもなればさすがに付いているだろう―という俺の読みは甘かったようだ。

 俺はこれ以上の間違い探しをあきらめ、席に着いた。

 キーンコーンカーンコーン……

 これまた聞き飽きたチャイムが鳴り響き、教室の扉の前でニタニタしながら待っていたとしか思えないようなジャストタイミングで、颯爽と担任の教師が入ってきた。年齢不詳、がっしり体型、顔は四角く、無精髭が伺える。いわゆる『熱血体育教師』の顔つきだ。名前は―知ったこっちゃねぇや。ところで、無精髭は剃りなさい。

 「よしっ!ホームルーム始めるぞっ!!」

 元気いっぱいな声が教室を満たし、まだ座っていない連中は慌てて椅子取り合戦を始めた。

 立っている人がゼロになるとほぼ同時に、彼は再び大喝を始めた。鏡の前で小一時間練習したかのような、にこやかな笑顔と共に。せめて第一印象くらいはよくしようって魂胆だろう。言っとくが、化けの皮ってのはセロハンテープべたべたの小学生的工作並みに脆いんだぜ。そのことは俺がすでに実証済みだ。

 彼は自分が体育教師であること、名前は榊原ということ、ハンドボール部の顧問をしていること、ハンドボール部は年々の部員不足に悩まされており、ハンドボール部に入れば即レギュラー間違いないこと、ハンドボールは何より楽しい!的なことをひとしきり言い終えると、もう話すことがなくなったか、自己紹介をしようと言いはじめた。まぁ、ありがちな展開なので俺もいくらかは考えてある。俺だって危険を事前に察知し、それを回避すべく行動するか弱き鳥並みの知能はあるのだ。

 俺は此度8番目を仰せつかったのだが、やはりどきどきしながら待つってのはいくつになっても嫌なもんだ。

 前の人がつまらんギャグをほざき、教室の温度を存分に下げつつ、終に零下0℃を突破、今にも凍りつくかと思われるような空気を背負って、そのまま次の人にスルーパスをかますってのが俺の双肩には重すぎる使命であるのだが、俺は何とか事前に決めといた台詞をかまずに言い終え、多大なる安堵と共に着席、かくして俺はスルーパスの使命を完全かつ完璧に果たし、次の人のついに来たか的な困惑的表情を眺めつつ、俺は顔を伏せた。

 まあ、そんな感じで、今日は過ぎていった。


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