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第十八章 TRUTH

最近更新しました。

「神無月、……手は?」

「大丈夫」

と、本当に何も無さそうに言った。

でも、どう見てもだいじょうぶじゃねーだろ。

と言おうとして、そして彼女の手を見て驚愕した。

傷がねえ。

血すら出てない。

神無月……こいつは人間なのか?

「そう」

じゃあなんで手、なんともねえんだよ。

「治した」

「情報操作でか?」

「そう」

そんなことも出来るのか。便利だなぁ、情報操作。というか、神無月もやっぱ使えたのか。さすが。

って違う。俺が言いたかったのはそんなことじゃない。

「神無月」

「なに」

瞬時ためらってから、俺は言う。

「ありがとな」

「……別にいい」

そういうと、彼女は顔を背けた。照れているのか、と思ったが、違ったようだ。彼女は心底なんでも無さそうに

「任務」

とだけ言った。

「俺がお前に科したのか?」

「……そう」

「……神無月」

俺はこの場をごまかすように言った。

「なに」

「一緒に戻ろう」

「え?」

彼女が、始めてその闇色の瞳に疑問の色を呈した。

「元々の世界に。」

「帰りたい?」

「……ああ。だが、絶対条件がある。お前と一緒に、帰ること、だ。」

「……了解した。」

神無月は、確かにそう言った。

「お前と共に戻る術はあるのか?」

「なくもない」

「まだ、禁則か?」

「もう既に解除された。」

「!……なぜだ?」

「あなたが、帰りたいと望んだから。」

わけ分からん。でも、俺にとって重要なのは理由の如何でなく、禁則か否かのみだから、ここではスルーしよう。

「……そうか。で、どうなんだ?」

「可能」

「どうやって?」

「手段はとても単純。あなたがただ、心の底から帰還を願えばいいだけ」

……なぜだ?

「あなたがそう思うことで、必ず何らかの形で願望をかなえる能力が歪からあなたに供給されているから」

なぜ俺が―っと、その前に。

「そうか、じゃあ、向こうの世界に戻る方法は?」

「……話は長くなる」

彼女はこちらに顔を向け、

「いい?」

といった。

もちろん。

「そう」

彼女はひと呼吸置いてからはじめた。

「そもそも、この空間が出来たのは、さっきの時空間の歪が大きな要因。あなたの能力を供給するのもこれで、水無月たちの強行の原因もこれ」

水無月―飛鳥か。

「その歪は、もともと存在しえなかったものを生み出し、それが、また存在しえなかったものを生み出すという連鎖反応を引き起こした。これは水無月らにとって大きな問題。彼女らは、今までに起こったこと、そしてこれから起こるであろう事を全て把握した上で生活をしていた。でも、その歪の出現によって、彼女らの把握していた事柄はすべて虚無に帰し、他に新たな―運命が生まれた。でも、その運命は一定ではなく、場合によっては全てが崩壊することもありえた。彼女らは、何度も、歪をふさごうとした。だが、出来なかった。彼女らの情報操作の全てを引き出しても、不可能であった。それだけ、歪は神的な存在だった。彼女らは穴をふさぐことを半ば諦め、歪が生み出したイレギュラー因子を排除すべく動き出した。」

「イレギュラー因子、とは?」

当然な疑問だ。お前もそう思うだろ?……俺だけ?

「存在するだけで、未来を変えてしまう力を持つもののこと。」

「そんなのが、俺らの世界にいたのか?」

「そう」

「……。」

「イレギュラー因子を取り除くために、彼女らは一つの組織を結成した。が、彼女らのやり方が気に入らない一部の者たちはそれを抜け出し、新たな組織を作った。その二組織の幹部に当たる人間が、水無月飛鳥と、周防忠竜」

「!?」

飛鳥はともかく、あの変態も結構な地位にいたのか。

って、なんか論点がズレてる。

「水無月らは、穏健派。彼女らの排除の対象に入っている因子は、他のどれよりも因果性が強く、下手につつくと大爆発も考えられる、不安定なものだった。―その因子は、自らの願望を情報操作よりも高度なもので実現することが可能であったが、完全ではなかった。それは、向こうの世界で『亜神』と呼ばれている。」

「亜神……神に継ぐ神、か。」

願望を実現する能力、か。それならどんなものでも瞬時に手に入るわけだ。いいな。

「であるから、彼女らは排除はせず、出来る限り因子を自分たちがコントロールしうる位置にもって行きたかった。でも、出来なかった。全てを無意識のうちに知る『亜神』がそれはいやだと無意識下に望んだから。だから、それが生活するのを見守るしかなかった。」

「……因子は、生き物か?」

「人間」

「……!」

「そのうち、彼は毎日の生活に飽き足らなくなり、一つの世界を創造し、そこに自らを組み込んだ。」

無意識でか。

「そう。無意識である彼と、普段の彼は別物と考えても支障はないかもしれない。」

彼っつうと、男か。

「そこはさまざまなイレギュラー因子が満載され、彼女らにとっては破滅を導く空間であった。彼女らに出来ることは因子の危険度を可能な限り下げること。」

神無月は一瞬間を空けた。

「……でも、周防たちの組織は違った。彼らは、因子は因子、バグでしかなく、排除すれば言いだけだ。そう考え、その因子を排除しようとした。でも、それも出来なかった。因子―彼はそれを望まなかったから。」

……!!

「……それって……。まさか……」

「……。」

神無月は少し表情を緩めた。微笑には届かぬ笑い。

「……あなたが今考えていること、それが真実」

「俺なのか?」

「そう」

「……待て、望むも何も、俺はこんな世界を作りたいなんて思ったことないぞ?それなのに、なぜだ?」

「あなたはそう考えているかもしれないけれど、無意識のうちにあなたの本能は非日常との邂逅を求め、あなたの理性は躊躇した。その躊躇が、あなたを元の世界に戻すための鍵を残した。」

無意識って。

「鍵、ってのは?」

「例えるならば、私」

当意即妙の答えに圧倒される俺をよそに、彼女は電波的演説を続けた。

「あなたの理性は、本能にその決断を委ねた。もしあなたが戻りたいと欲するのならば、あなたは鍵を探索し、もしあなたがここの永久的な滞在を望んだのならば、あなたはずっとここにいるであろう。どちらにしてもあなた自身が望んだことなのだ、とかく干渉する必要もあるまい、と。しかし、あなたの本能は迷っていた。」

……俺の気付かぬ意識の中で、そんな葛藤があったと?

「そう。そしておきたことに対する要因を、情報操作による世界の改変と水無月飛鳥は説明したが、それは虚構」

「……!」

「情報操作は存在するが、それによって世界が改変されたわけではない。」

「……。」

「あなたの意識は、この世界においては、もはや神。」

「……!!!」

神だと……?

「ここは、あなたの創造した夢想世界。長期間の夢想世界の滞在は、世界の消失を

意味している。」

「なぜだ?」

「あなたがそこにとどまり続ける限り、現世の情報は少しづつ蝕まれて行くから。」

「?」

「現世に存在しうる情報量には飽和量がある。この世界を構築するためには、元の世界の情報を消去しつつ、こちらに情報を再構築する必要がある。すなわち、あなたのいない世界は消失し、神のいる世界は保持される。あなたの深層心理は、そう願っていた。そしてすべてのことを知っていた。あなたが罪の意識にさいなまれないようにするためにも、あなた自身に気付かせないようにしていただけで。」

「わけわかんねえよ……。」

「それらの全てを説明することは、私の情報伝達能力では不可能」

「……そうか。じゃあ、いいじゃないか。俺が向こうの世界に戻れば、この世界は消滅するし、元の世界も保持されるし、飛鳥たちも困らずに済む。お前も、孤独じゃなくなる。丸く収まるとはこのことじゃないか。」

「でも、戻ることは難しい。」

「……なぜだ?お前、さっき……」

「ああは言ったけど、帰るためには他にも条件が必要」

「なんだ?」

「ここから元の世界に帰るには、ギャップがありすぎる。あなたの、ここで起こったすべてのことに関する記憶を消去した上じゃないと帰ることは許されない。」

許されないって、誰にだよ。

彼女はよく意味のわからないものを口にした。

って待てよ。

「!!……じゃあ、お前のことも忘れるのか……?」

「たぶん」

「拒否権を行使するぜ。お前の記憶を失ってじゃあ……」

「なに?」

「いや、なんと言うか……」

なぜかあせる俺を神無月は不思議なものを見る目つきで見る。やめろ。その目。

「とにかく記憶は捨てたくない。何とかならないのか?」

「……不可能ではない。あなたの中にある、『常識』にかみ合わないものに関する情報さえ抹消できれば、残りは持ち帰られる」

「……そうか。どうやって抹消するんだ?」

「私の力だけじゃダメ」

「誰がいればいいんだ?」

「水無月飛鳥」

「えっ……、いいのか?」

タブーなんだろ?

「……やむをえない。だけど、どちらにせよ彼女の助力は不可欠。」

「なぜだ?」

「あなたを元の世界に戻すのも、あなたが望むだけではダメ。」

さっきまでの余裕はいずこへ。

「この世界とモトの世界の間には大きな断絶がある。その断絶を、情報操作で出来る限り減らさないと出来ない。その操作に要する情報操作能力量は、普通の人間三万人分」

「!!」

とてつもねえ。

「私と、水無月が共にやれば、何とかできるかもしれない。でも、成功は保障できない。」

「失敗したらどうなる?」

「時空断絶に巻き込まれて、永遠にそこをさまようことになる」

空恐ろしいことをさらりと。

「やめたい?」

彼女は俺の顔を見て、試すように言った。

「まさか」

俺は大きく息を吸い込んだ。

「やってくれ。」

「了解した」

彼女はひと呼吸あけてから言った。

「では、私を水無月飛鳥の元に導いて欲しい」

「……俺が?」

「そう」

「……でも、あいつと合流できるのは明日だ。」

「心配する必要はない」

そういうと、彼女は空を指差した。

「……もう0時」

「……は!?」

時計を確認。十二のところに針が一つ。どうやら重なっているらしい。ちなみに彼女は時計をしていなかった。どうやって知ったんだろうね。世界七不思議のひとつに混ぜるべきだ。神無月そのものの存在を。

「……そんな時間たっていたのか?」

三十分もたっていないと思ったが。

「ここは、周りの世界と少し隔離された異空間。時の流れも、周りより早い」

そうだったのか。

「そういうことなら、……いくぞ。」

首肯。

公園に。 


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