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NOT FACTOR  作者: Ribain
蛾の誕生編
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蛾の誕生編 第三話 第二幕 接触


傍観者 古川楔



「よう、島崎。元気してたか?」

 金曜日の昼休み、廊下で別クラスの島崎を見つけたので声を掛けた。島崎は連日、溝口の説得へ行っているため部活にはあまり出ていない。学校で会うのは実に三日振りといったところだ。とは言うものの島崎とはいつも無人公園で1on1をしているので彼の実力が錆びつくことは無いだろう。島崎部長が居ない間の部活は副部長の原口とアヤカのメニューで練習しているが今までと特に変わった様子はない。

「…あぁ、古川か…別に何もない。」

「何だよ。連れないな?溝口はどうなんだよ。連日説得してんだろ?」

 俺は今、島崎に何らかの不安を覚えている。それは昔からの付き合いだからわかる奇妙なズレにも似た感覚。溝口の説得に行くようになり頭を過る悪い予感が胸を締め付ける。

「ああ、インハイ予選も近いし…アイツの力は必要だ。足に爆弾を抱えてると言っても完治しているらしいんだよ。…なら出て欲しいし、一緒にプレーしたい。そう思うとな、部活が大事なのはわかるんだが、どうしても溝口の説得に行っちまうんだよ。」

「足…治ってんのか…。じゃあ来ないのは…」

「俺のせいかもな。…古川悪い。チームの皆にも迷惑かける。絶対溝口を連れてくるから。」

 島崎は本気だ。溝口の力が今の陽正高校バスケ部には必要だと思っていて部員の反対を押し切ってでも連れ戻すつもりなのだろう。

「溝口…この前は顔出したけど、どうなんだ?戻って来たいって思っているのかあいつ自身は?」

 島崎は眼を閉じ腕を組んで壁に寄りかかる。溝口の態度を加味しているようだ。どうやら本人の口から言葉にならなかったらしい。

「…半々かな。戻りたくない訳じゃあ無いはずだ。じゃないと俺の話すら聞かないだろうし、体育館にも来ないだろ?かと言って構って欲しい訳でもない。部活来いって説得に行けばいつも迷惑そうに帰れって言うんだよ。」

「話はちゃんと聞く…と。」

「そうだな。」

 いつになく落ち込んでいる様に見える。溝口の存在がそんなに大きいのか。

「…でも島崎が部活来なくてアヤカが淋しいって言ってたよ。」

「えっ!ホントか!」

 一瞬にして笑顔を振りまく島崎、やはりコイツにシリアス展開は向いていないと断言できる。

「食いつき激しいなお前は。人の彼女だぞ?」

「すまん、若い女の子となるとついな。」

 決めポーズ(さなが)らに前髪を払う仕草はナルシストにしか見えない。

「お前、オヤジだったら犯罪だぞそれ。」

「そういや、アヤカちゃん香水かシャンプー変えただろ?」

「なんでそんな事わかるんだよ。気持ち悪ぃな。確かにシャンプー変えたって言ってた。」

「いや部員なら分かると思うぞ。全員な」

「それはそれで衝撃だわ!男バスは変態の集まりかっ!」

「褒めんなよ。」

「褒めてねぇよ!引いてるわ!」

 変態性が垣間見えるが、良いように捉えれば島崎は部員一人一人のことを良く見て理解しようとしている。そりゃあアヤカみたいに深い部分までは無理だが、雰囲気を明るくする程度に皆のことを気遣えている。彼自身人見知りな部分もあるが、身内との絆は誰よりも強い。だから溝口のことも任せっ切りにしている。下手に俺や原口が行っても逆効果になるかもしれないし、島崎とは一悶着あった溝口も島崎なら腹を割って話せることがあるかもしれないのだ。そこらへん敵わないよな。

「溝口が帰って来るのか来ないのか…どっちにしたって今日は部活行こうと思っている。最近は通い詰めて説得したからなそろそろウザがられるだろ?」

「まあ…いい判断かもな」

「一応顔見て軽く誘ったら今日は部活行くわ。久しぶりに五対五やるか」

「そうだな実践的な練習も必要だろうし…じゃあアヤカには伝えとく。」

「久しぶりにアヤカちゃんを愛でられるのか…」

「やっぱ永遠に来なくていいぞ。」

「嘘です。怒らないで古川くん…」


 傍観者 色芳彩香



今日から部活に島崎先輩が復活を果たした。島崎先輩の心配をしていたが、どうやら杞憂に終わった様だ。でも溝口先輩に対して険悪な雰囲気は漂っていた。楔に相談したけれど「それは俺らが横槍を入れる事じゃないんじゃないか?」と言われたので様子を見ることにしているのだが、どうか来週の練習試合、最後の高総体までには有耶無耶な感じを取り除いてベストな状態で挑んでほしいと思っている。一番恐れているのは島崎先輩の説得が成功し、溝口先輩が帰って来た後、また喧嘩が起きてしまうこと。今度事件を起こせば溝口先輩は休学処分になるだろう。そうすると必然的に高総体には間に合わなくなる。高総体自体に思い入れは無いのだが、島崎先輩や楔が全国制覇を狙っているので、成し遂げてほしいと心から思っている。久々ということもあり、今日は軽めの調整で終わり、帰りは楔と今後の男子バスケ部について少し話しながら帰ろうかと思っているところだ。

「アヤカ!今日原口いねぇから俺が体育館のカギ返しに行くんだけどよ。先に行って校門の辺りで待っててくれよ。」

「うん、わかった」

 体育館前で彼と別れると昇降口前のオープンスペースに警官が何人か立っていた。何をしているんだろうと思ったが、失念していた。私たちの高校では今、奇妙な事件が起きているのだ。「神隠し事件」と世間では呼ばれ、気味が悪いとか思って来年度の入学志願者がぐっと減ると理事長の母様は嘆いているのだろう。しかし、神隠し事件自体我々には認知されにくい。突然不登校になった生徒が何週間もしてから消えていたと聞かされてもピンとこないし、仲良くしている友達も少ないような生徒ばかり消えているので、一般の生徒からしたらアイツ居なくなったんだと言った程度の問題なのだ。私も友達が消えたわけではないし、それほど友達もいないので関係のない話なのだが…。警察をスルーして学校から出ると外はもう日が落ちかけて見事な橙色に染まっていた。校門前で蹲ると今度は視界の端に黒い人影が見えた。

 黒い装束に身を包み、白い肌、銀色で長い髪の毛を風に靡かせる青い瞳の持ち主はどうやら風貌からして女の様だ。見るからに外国人のその女性は下校中の生徒に色々話を伺っている様に見えるが、生徒との話が終わると次の生徒を探しているのか、私を見るやこちらに歩み寄ってきた。どうやら警官ではない様だ。

「…すいません。貴方はこちらの生徒?」

 どうやら日本語は達者らしい。

「…そうですけど?何か私たちの学校に御用事?」

 見るからに怪しいその女性はニコリと笑い。口を開いた。

「私はヴィルマ・ガソットと言います。十三委員会に所属している者ですけれど、出来れば『神隠し事件』についてお話を伺いたいのですがどうでしょうか?」

「十三委員会?」

 聞いたこともない名称に困惑する私は、別段このような訝しげで怪しい誘いまがいの行為がなかったわけでもないので、さらっと流すことにした。

「我々、十三委員会は非政府組織なので警察の助力を仰げません。どうか協力して頂けませんか?」

「私はちょっと…神隠し事件については噂くらいしか聞いてないんですよ。」

「それでも構いません。出来れば、教えて頂きたいのですけど…」

しつこいと思ったが、楔が来るまでの暇潰しとして利用しようと、神隠し事件とは全く関係のない溝口先輩の話をしてやろうと考えた。

「実はですね…神隠し事件とは直接関係ないとは思うんですけど。うちの部活の生徒の様子がおかしくてですね…」

 私は溝口先輩のことについて事細かく話してやった。新人戦の時に襲われたこと、人為的なパスミスでチームを負かそうとしたこと、怪我からの復帰でチームに及ぼす悪影響について。しかし、その女性は親身になって聞いてくれたので何か申し訳のない気分にもさせられた。

「…それで今、すごく不安で。」

「ですか…その時、彼の眼見ました?」

「眼…?」

「眼の色です」

 溝口先輩の眼の色までは見なかった。異様なことは無かったと思うが。

「見てないです。…目の色が違ったら何かいけないんですか?」

「それはかなり駄目ですよ。」

 女性は屈んで私と目線を合わせた。青い瞳がとても綺麗で見入ってしまいそうになるが、どうやらそう言っている事態でもないのかもしれない。彼女の顔は真剣そのもので私もいつの間にか親身になっていた。

「我々が専門としているNOTという存在は人間に取り憑き人間を食らう。これは貴女方の学校で起きている神隠し事件にも関係していると考えられます。そして、見た目上奴らを見分けるのは困難ですが、知られているだけでいくつか特徴があります。その一つが、興奮すると眼の色が変わるということです。なので貴女の友人にも気を付けておいた方が宜しいかと思われます。」

「そんな話をされて信じると思うんですか?」

「…そうですね。信じろとは言いませんが、気を付けてください。貴重なお話をありがとうございます。では」

 そういうと何かに気付いたように女性は立ち上がり、端末を胸ポケットから取り出して操作しながら、タクシーを呼び止めどこかへと去って行った。すると学校内に居た男性警官がこちらへ走って来た。

「すみません、先ほどの方とはお知り合いですか?」

「いえ、知りません。何か話を聞きたいと言っていたので…」

「気を付けてください。聞いた話ですけど、彼らは『神殺し』という犯罪組織です。警察でも行方を追っている人殺しの国際指名手配犯集団です。」

 警官は仲間に本部へ連絡させると私の方を向き直る。

「人殺し?」

「ええ。黒装束に逆赤十字。彼らの正装だそうです。どうやら『神隠し事件』も彼らが一枚噛んでいるかもしれません。何かあれば署に連絡ください。」

 警官はでは、と敬礼して校内へと戻った。

私は座り込んだまま今の話を信じきれないが何度も考えていた。

「…私に…化け物の存在を認めろと…そう言ってるの?あの人は…」

 私の心に響いたのは警官の言葉よりも先ほどの女性ヴィルマの言葉だった。「NOT」という聞きなれない言葉を残し、彼女は消え去った。物思いに耽っていると肩を叩かれ、突然だったので反射で身構えてしまった。警戒して振り向くと立っていたのは古川楔で無駄に緊張したと後悔した。心臓に悪い。

「…おい…大丈夫か?そんなに驚いて…」

「ああ…いや…何でもないわ。帰りましょ。」

「おう、折角だから今日も遊ぶか?」

「いい…」

 私は楔の誘いを断った。先ほどの言葉が気になって仕方がなく、とても遊んで気を紛らわせるようなことはできない。

(なので貴女の友人にも気を付けておいた方が宜しいかと思われます。)

「…今日はちょっと疲れたよ。家まで送って楔。」

 私は逃げるように彼の胸に凭れ掛かった。

「ああ…送っていくよ。あんな怖い奴らがうろついているんだからね。」

 私は楔の眼を見たが、色が変わることは無かった。




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