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NOT FACTOR  作者: Ribain
祈る絵画編
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祈る絵画編 第四章 第三幕 裏切りの末路


 傍観者 ヴィルマ・ガソット



「コレット…どうして裏切ったの?」

「何言ってんの?最初から分かっていたんでしょう…今更偽善者ぶらなくていいわよヴィルマ・ガソット。」

 私は彼女を押し倒し、喉元に愛刀・鬼丸国綱を突きつける。切りたくはないが、動くなという警告の為にこの状態を維持しなければならない。仲間に刀を突きつけるのがこんなに辛いことだとは思わなかった。前に教官が仲間を殺すことも任務のうちだと言っていたが精神をどれだけ削ればあそこまで冷静でいられるのだろう。

「任務前に語り合ったことは嘘だったの?」

「嘘じゃないわよ。妹を…委員会に妹を殺された私が委員会に恨みを抱くのは当然でしょう?何を驚いているの?」

「この…」

 もう一振りの刀を鞘から抜く。童子切安綱、天下五剣と謳われた日本刀の中でも鬼を切ったと言われるこの二振りを仲間に向けなければならないのか。鬼丸国綱を喉元突きつけながら童子切安綱で首を狙う。

「ほうら。それが本心でしょう?」

 抑えられていたコレットは生気と取り戻したように激しい抵抗を見せた。鬼丸と童子切を弾くとコレットは私からの距離を取る。

「NOT FACTOR PATENT――code LYREBIRD」

コレット・シャルトーのNOT因子、コトドリ。脅威の声帯模写は戦闘には不向きで臨魔状態になっても尾の長い鳥という特徴しかない。完全な臨魔状態を使いこなすのが一流だと教官が言っていた。しかし彼女は序列七十位に居ながらも臨魔状態を操る兵士だ。何故コレットが臨魔状態を維持できるのに序列が上がらないのかは分からないが、だからと言って彼女を甘く見ることはしない。しかし、委員会に、差し当たっては教官に敵意を向けるのであれば容赦はしない。

「…仲間とは戦いたくなかったわ。」

 鬼丸を顔の前まで持ってきて垂直に立てる。コレットとの距離は一〇メートル以上離れているが、この型に距離何て関係ない。

「何やってるの?そこから刀でも投げようってわけ?」

「違うわ…飛ばすの」

 切っ先がゆらりと揺らめく。刀の三ツ頭からスカイブルーの光がチラつく。刀をコレットに向け繰り出したのは、本来レイピア等で行う『突き』。

 型の六〈薔薇のローズ・ステムズ

 ヴィルマの右腕から伸びる鬼丸が三ツ頭からスカイブルーのレーザーを放つ。コレットの左腕を貫通すると痛みに耐えかねて臨魔状態を起動した。

「ヴィルマ・ガソット!キサマァ!」

 手は休めない。左手に握られている童子切を地面に突刺すと自分の周りから青白い根っこの様なものが空中に逃げたコレットを襲う。

 型の十〈青薔薇のルート・オブ・ブルーローズ

 型の十は剣技に在らず、ヴィルマがNOT因子を得たことで発想を飛躍させた技だ。元々の剣技は私に教えてくれた人が一代で完成させた『薔薇の道』という流派だ。ここまで多様に変化させたのは私の発想と利便性を求め続けた為。だから私はあの人を師匠とは呼ばないし、門下生でもない。彼の流派は彼一代で終了した。

 薔薇の根を避けながら鳥の尾で私を攻撃してくる。これを型の一〈蒼き薔薇のソーン・オブ・ブルーローズ〉で傷つけるとコレットは悲鳴を上げて墜落した。

「コレット…後悔…してない?」

「後悔なんてないわ。アンタら皆『夕暮れ詩人』に殺されてしまうんだ!分かり切っているじゃない!アイツの強さは異常よ。存在圧を見ても明らかでしょう?例え私たち四人が束になっても敵わない。神戸室長クラスじゃないと相手にもならないわ。アンタでも保って数十秒よ。それでもあのNOTに歯向かうの?例え、『夕暮れ詩人』を倒せたとしても敵はまだ多いのよ!十二柱もまだ十一柱残ってる!どう考えたって倒しきれる数じゃない!記録を見れば三番を倒せたのだって奇跡じゃない。三室は全滅しかけてるだから影で『負け犬のゴミルーザーズダスト』なんて呼ばれるのよ!耐えられない!耐えられないわよ!この世には苦痛が多すぎる!」

 コレットは落ちかけたシンクロ率を再び引き上げて臨魔状態を作り出した。

「やめなよコレット…それ以上やったら…」

「アンタには分からないわよ!妹の仇がNOTだと思って、やっとの想いで十三委員会に入ったのに妹を殺したのは十三委員会ですって?笑い話にもならないわ!私の中に満ちたのは仇討の感情よりも怒りだった!他にも居るんじゃないの?家族を十三委員会に殺された人がね!」

 コレットも復讐に取り憑かれた人だと思っていた。でも違う彼女は裏切られたのだ。十三委員会という組織は彼女の妹の死をNOTに押し付けて自分たちは責任を負わなくて済むよう捻じ曲げてコレットに真実を伝えたのだ。

 NOTを敵視させるための方便だったに違いない。コレット・シャルトーにNOTを打倒する理由を作らせるために付いた嘘は、委員会を裏切らせることまで発展した。自分がついた嘘に首を締め上げられたのだ。

「真実を教えてくれたのはオズバルドって人だった。委員会には影が潜んでいる。NOTに責任を押し付けて人殺しを楽しんでいる輩がいるってね!」

「…クッ!…その人間は信用できる人物なの?」

 コレットは顔を顰めて翼を広げた。

「信頼できるわ!アンタたち委員会よりはね!」

「そう…わかったわ。でも私は教官が居る委員会を信じることにする。貴方が何を信じて力を振るうのかは勝手よ。私も人のこと言えないしね。でも自分の信念が他人を衝突したら迷わず剣を抜きます!……〈薔薇のローズ・ステムズ〉!」

 飛び立つ前の右翼に突きを放つと大きな風穴が空く。多少の血を吹き出しても空へ飛び立とうとするコレットを追撃するように迫ると鬼丸を突き刺す。胸元に深々と突き刺さった鬼丸から荊が生えて来てコレットを締め付ける。

「…これは…」

「型の二…呪縛のソーン・オブ・ザ・スベルバインディング。相手を束縛するための技よ。」

「くそ…やっぱりアンタに勝てないのね。…仕方ない道連れで勘弁してあげる。」

 言葉を聞いた瞬間に注視したのはコレットの左手。コレットに関わらず兵士全員に持たされている委員会粛清方法の一つシルバーリング『運命の輪』。リングが光を帯びて暴発しようとしていた。つまりコレットは一〇〇%を超えてシンクロ率を上げたことになる。そんなことをすればシンクロ率を下げ常時に戻ったとしてもNOTの後遺症がどこかに残る。委員会本部の門番テティスは身長が大きいままになっている。結界を張っているオルフェウスは顔半分が化け物のままだ。

…もう戻って来ないつもりなのね。

私はコレットの左腕を切り落とすと切断された左腕に刀を刺し、遠心力で投擲。童子切で〈薔薇のローズ・ステムズ〉を放つと左腕と共に激しい爆発が大地を震撼させた。

「…残念だったわね。これで貴方も私も死なないわ。大人しく降参しなさい。」

 鬼丸を突き刺したままの為、喋れないのかと思いきや静かに「うるせぇ」とだけ言い、コレット・シャルトーは沈黙した。




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